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夢の中
与えられた部屋
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さっきのいかつい男の複雑な紋様とは違い、単純な紋様がやはり頬に浮かび上がる召使いが、私を離れていない部屋に案内してくれた。彼女が盗み見るように私の事をジロジロ見るので、何とも居心地が悪かった。
実際私の服装も違和感があったのだろう。私だってこんな格好で、綺麗な建物の中を歩きたくは無かった。私はぼた雪の降るあの日、道場で仲間と自主トレ中だったので、合気道の道着の下に薄い黒いストレッチウェアの上下を着ていた。
その結果、黒い生地が身体に張り付く忍者の様な格好で、私は歩かせられているのだから、正直恥ずかしい。身体の線がモロわかりだし。案内してくれている召使いでさえ美しい刺繍の入った濃い茶色の布地の衣装を着ている。
私の道着と袴はどうしたんだろうか。目が覚めた時には今のこの格好だった事を考えると、きっと脱がされたんだろう。確かに砂にまみれてとんでもない事になっていたのは覚えている。
私が先ほどのいかつい男の腕の中で暴れたせいで、あの男が従者の様な者を呼んで、私の事を二人でジロジロ見ながら話し合った結果、しばらく私を別の部屋に置いてくれる事にしたらしかった。
私が夢だと勘違いした全ては、どうにも生々しい現実だった。あの砂漠で鬨の声を上げながら走り去った男たちや、追いかけられたあの瞬間全てが現実だなんて…。その上、私は馬鹿みたいにあの男を撫で回して、あまつさえキスまでしてしまった。これじゃあ、私が痴女だわ。
いや、そんな事よりここは何処なんだろう。私は召使いの手前、平気なふりをしながら注意深く見回した。分厚い白い砂の様な素材の壁は、触れると冷んやりとした。あんなに外が熱いのに、快適な温度なのはそのせいだろうか。しかも部屋は窓が少ない割に明るかった。何処からか明りとりの光がぼんやりと差し込んでくる様だったけれど、原理はよく分からなかった。
窓から見える景色は、美しい曲線の白い建物が周囲を取り囲んでいた。砂漠から街を見た時は赤茶色の岩の色だったから、ここは、あの奥に立っていた白い宮殿らしき場所に間違いないだろう。あの男は皇子と呼ばれていたもの。
「しばらくこちらでお過ごしください。少々砂で汚れてますので、こちらでお身体を綺麗になさって下さい。後ほど、皇子がこちらへいらっしゃるそうですので、ごゆるりとなさっていて下さい。…何かお手伝い差し上げますか?」
そう召使いにかしずかれて、私が大丈夫だと答えると、召使いは笑顔もなく、静かに出て行った。私はとりあえず砂っぽい身体を何とかしようと、召使いが示した浴室らしき場所へ向かった。扉を開くと目の前には4~5人は入れそうな温泉の様な浴場があった。
こんな砂漠で、たっぷりの湯が満たされたプライベートプールの様なものがあるとは信じられなかった。私は広いせいで落ち着かない気持ちになりながら、脱衣所で素っ裸になると、一段降りて更に扉を開けた。それから洗い場でお湯をかぶると、石鹸の様なオイルを手で身体に塗りつけた。
それは泡立ちもせず、只々ヌルヌルしてしまった。どうしよう、私何か間違ったみたいだ。私がどうしようもなくなって、ヌルついた自分を持て余して呆然と突っ立っていると、向こうの壁が突然開いた。そして、あのいかつい男が全裸で入ってきて、私を驚いた顔で見つめた。え。えぇ~!?
実際私の服装も違和感があったのだろう。私だってこんな格好で、綺麗な建物の中を歩きたくは無かった。私はぼた雪の降るあの日、道場で仲間と自主トレ中だったので、合気道の道着の下に薄い黒いストレッチウェアの上下を着ていた。
その結果、黒い生地が身体に張り付く忍者の様な格好で、私は歩かせられているのだから、正直恥ずかしい。身体の線がモロわかりだし。案内してくれている召使いでさえ美しい刺繍の入った濃い茶色の布地の衣装を着ている。
私の道着と袴はどうしたんだろうか。目が覚めた時には今のこの格好だった事を考えると、きっと脱がされたんだろう。確かに砂にまみれてとんでもない事になっていたのは覚えている。
私が先ほどのいかつい男の腕の中で暴れたせいで、あの男が従者の様な者を呼んで、私の事を二人でジロジロ見ながら話し合った結果、しばらく私を別の部屋に置いてくれる事にしたらしかった。
私が夢だと勘違いした全ては、どうにも生々しい現実だった。あの砂漠で鬨の声を上げながら走り去った男たちや、追いかけられたあの瞬間全てが現実だなんて…。その上、私は馬鹿みたいにあの男を撫で回して、あまつさえキスまでしてしまった。これじゃあ、私が痴女だわ。
いや、そんな事よりここは何処なんだろう。私は召使いの手前、平気なふりをしながら注意深く見回した。分厚い白い砂の様な素材の壁は、触れると冷んやりとした。あんなに外が熱いのに、快適な温度なのはそのせいだろうか。しかも部屋は窓が少ない割に明るかった。何処からか明りとりの光がぼんやりと差し込んでくる様だったけれど、原理はよく分からなかった。
窓から見える景色は、美しい曲線の白い建物が周囲を取り囲んでいた。砂漠から街を見た時は赤茶色の岩の色だったから、ここは、あの奥に立っていた白い宮殿らしき場所に間違いないだろう。あの男は皇子と呼ばれていたもの。
「しばらくこちらでお過ごしください。少々砂で汚れてますので、こちらでお身体を綺麗になさって下さい。後ほど、皇子がこちらへいらっしゃるそうですので、ごゆるりとなさっていて下さい。…何かお手伝い差し上げますか?」
そう召使いにかしずかれて、私が大丈夫だと答えると、召使いは笑顔もなく、静かに出て行った。私はとりあえず砂っぽい身体を何とかしようと、召使いが示した浴室らしき場所へ向かった。扉を開くと目の前には4~5人は入れそうな温泉の様な浴場があった。
こんな砂漠で、たっぷりの湯が満たされたプライベートプールの様なものがあるとは信じられなかった。私は広いせいで落ち着かない気持ちになりながら、脱衣所で素っ裸になると、一段降りて更に扉を開けた。それから洗い場でお湯をかぶると、石鹸の様なオイルを手で身体に塗りつけた。
それは泡立ちもせず、只々ヌルヌルしてしまった。どうしよう、私何か間違ったみたいだ。私がどうしようもなくなって、ヌルついた自分を持て余して呆然と突っ立っていると、向こうの壁が突然開いた。そして、あのいかつい男が全裸で入ってきて、私を驚いた顔で見つめた。え。えぇ~!?
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