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交差
ジェラルドside親友の連れ
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俺が勝手に親友認定しているローレンスに特別な相手がいる事には、時々話をする口ぶりから気づいていた。
その相手が辺境伯家の後継であるシモン様の弟だと言う事は、目を輝かせて本人自身について綺麗だ、性格が良いと称賛していたせいで二の次になっていたけれど、どちらかと言うと彼の人の弟である方が重要だと思って聞いていた。
だが、一度故郷へと帰省した辺りから、開けっぴろげだったその関心を一切見せなくなった。俺がその事について尋ねると、少し傷ついた表情で薄く笑って誤魔化すので、まぁ振られたのだなと胸に閉まったんだ。
とは言え、その弟の噂は入学間近になるとちょくちょく聞くようになった。有名人だった兄シモン様同様優秀であるだとか、シモン様とは別の方向性の人気だとか、まぁ所詮話題の新入生の一人と言う扱いだった。
俺はローレンスに少し意地の悪い気持ちで揶揄った事がある。
『お前のお気に入りがもう直ぐ王都へ来るな。噂では直ぐに上級生のターゲットになりそうな感じだが、放っておいて良いのか?』
実際は義理とは言え、辺境伯家の秘蔵っ子だと噂に尾鰭がついていたせいで、そこまで危機管理が必要な訳じゃない。だから本当に軽い気持ちで言ったんだ。
俺の言葉を聞いたローレンスはハッとした様子で考え込んでいた。失恋相手とは言え、余計なことを言ってしまったかと俺の軽い口を少し反省したんだ。
だから新入生が学園にウロウロする様になって直ぐに、ローレンスが素晴らしくひと目を惹く新入生らしき相手と仲良さげに歩いているのを見た時、俺は直ぐに彼がローレンスの失恋相手だと決めつけた。
実際ローレンスの顔には諦めきれない恋慕の色が見えたし、明るい金髪の巻毛と水色の瞳の組み合わせはただでさえ注目される要素だ。
けれど渋々ローレンスに紹介させたシモン様の弟アンドレは、線が細い華奢な身体つきと、美しさと可愛いさの混じり合った顔つき、控えめで少し影を感じる雰囲気のせいで妙に淫美だった。
とは言え俺のタイプじゃない。ああ言うタイプは関わると命懸けの破滅タイプだと俺の本能が告げている。
どちらかと言うとローレンスの様なシュッとした男の方が良い。…妙な事を考えてしまった。俺がそんな風に感じたなんてバレたら、どんな顔をされるかと思うと笑える。
けれどもローレンスがアンドレに付き纏うせいで、自然俺もアンドレの人となりを知る様になった。彼は決して甘えてくる訳でもないが、ローレンスが放って置けない気持ちも分かる。
アンドレは妙に張り詰めていた。まるで何かのきっかけさえあれば壊れてしまいそうな雰囲気は、周囲の人間を不安にさせた。それは結果として彼を過保護に扱う様にさせたので、アンドレはそう言う人間なのだろう。
だけど久しぶりに顔を合わせたあの日、アンドレはその神経質な部分を薄くして、いつもより一段と輝いていた。微笑むその口元の唇はあんなに赤かっただろうかと考え込んでしまうほど、妙に色っぽかった。
全然タイプでない俺がそう感じるのだから、元々アンドレを大事に思っているローレンスはどこか呆けた顔でアンドレに見惚れている有様だ。
まぁ、ローレンスだけじゃなく、周囲の学生たちが皆してそうなのだから、俺の方が特殊なのだろう。
「アンドレ、今日は何だかご機嫌だな。良い事でもあったのか?」
俺がそう言って揶揄うと、アンドレはハッとした後顔を赤らめて、それからまるでこの世の喜びを集めた様な表情で微笑んだ。言葉にしなかっただけで、アンドレが今恋をしているのは疑いもなかった。
俺は恐る恐るローレンスの方を目だけ動かして見たけれど、ローレンスもまたその事実に気づいた様で、いつもの笑顔がどこか強張って見えたのは俺の勘違いだろうか。
らしくない弾む様な足取りで教室に戻るアンドレを二人で見送りながら、俺はローレンスにどう声を掛けるべきか考え込んでいた。するとローレンスは俺の背中を力任せに叩いて睨み付けた。
「まったく、私に気を遣って黙りこくってると、こっちの方が嫌になるだろう?いっそ、失恋だなローレンスって言い放ってくれた方が気が楽だ。…授業が始まるぞ。」
強がったローレンスの顔は少し強張っているのがありありだけど、俺に憎まれ口を言えるくらいにはアンドレについて何処か覚悟してきていたのだろうと思った。
まったく俺の親友は可愛げがない。落ち込んだところを慰めて、あわよくば押し倒してしまっても良いかもしれないと考えていた俺に隙さえ見せてくれない。
俺は周囲の友人らに明るい笑顔を見せながら、何も無かった様に振る舞うローレンスをいつか目の前で泣かせて甘やかしてやりたいと決意していた。
まぁなかなか苦難の道だ。ローレンスはどっちかと言うと押し倒す方なんだろうから。
俺がそんな事を考えながらニヤニヤしていると、そんな俺と訝しげに目を合わせたローレンスが眉を顰めて言った。
「ジェラルドがそんな顔をする時は、大概良くない事を考えているんだ。問題を起こすのはやめてくれよ?私にまで飛び火するだろう?」
俺は耐えられなくて吹き出した。
「良くないことかどうかは、実際相手次第だと思わないか?まぁ俺がそう決めたら大抵の事は願い通りになるものさ。ローレンス、心配するな。俺にとってお前は特別だ。訳がわからないって?そうかもな。説明なんて出来ないことの方が多いからな。ははは。」
ますます眉を顰めるローレンスは、それでも綺麗で良い男だと思った。俺、結構こいつの事マジかもしれないな。
その相手が辺境伯家の後継であるシモン様の弟だと言う事は、目を輝かせて本人自身について綺麗だ、性格が良いと称賛していたせいで二の次になっていたけれど、どちらかと言うと彼の人の弟である方が重要だと思って聞いていた。
だが、一度故郷へと帰省した辺りから、開けっぴろげだったその関心を一切見せなくなった。俺がその事について尋ねると、少し傷ついた表情で薄く笑って誤魔化すので、まぁ振られたのだなと胸に閉まったんだ。
とは言え、その弟の噂は入学間近になるとちょくちょく聞くようになった。有名人だった兄シモン様同様優秀であるだとか、シモン様とは別の方向性の人気だとか、まぁ所詮話題の新入生の一人と言う扱いだった。
俺はローレンスに少し意地の悪い気持ちで揶揄った事がある。
『お前のお気に入りがもう直ぐ王都へ来るな。噂では直ぐに上級生のターゲットになりそうな感じだが、放っておいて良いのか?』
実際は義理とは言え、辺境伯家の秘蔵っ子だと噂に尾鰭がついていたせいで、そこまで危機管理が必要な訳じゃない。だから本当に軽い気持ちで言ったんだ。
俺の言葉を聞いたローレンスはハッとした様子で考え込んでいた。失恋相手とは言え、余計なことを言ってしまったかと俺の軽い口を少し反省したんだ。
だから新入生が学園にウロウロする様になって直ぐに、ローレンスが素晴らしくひと目を惹く新入生らしき相手と仲良さげに歩いているのを見た時、俺は直ぐに彼がローレンスの失恋相手だと決めつけた。
実際ローレンスの顔には諦めきれない恋慕の色が見えたし、明るい金髪の巻毛と水色の瞳の組み合わせはただでさえ注目される要素だ。
けれど渋々ローレンスに紹介させたシモン様の弟アンドレは、線が細い華奢な身体つきと、美しさと可愛いさの混じり合った顔つき、控えめで少し影を感じる雰囲気のせいで妙に淫美だった。
とは言え俺のタイプじゃない。ああ言うタイプは関わると命懸けの破滅タイプだと俺の本能が告げている。
どちらかと言うとローレンスの様なシュッとした男の方が良い。…妙な事を考えてしまった。俺がそんな風に感じたなんてバレたら、どんな顔をされるかと思うと笑える。
けれどもローレンスがアンドレに付き纏うせいで、自然俺もアンドレの人となりを知る様になった。彼は決して甘えてくる訳でもないが、ローレンスが放って置けない気持ちも分かる。
アンドレは妙に張り詰めていた。まるで何かのきっかけさえあれば壊れてしまいそうな雰囲気は、周囲の人間を不安にさせた。それは結果として彼を過保護に扱う様にさせたので、アンドレはそう言う人間なのだろう。
だけど久しぶりに顔を合わせたあの日、アンドレはその神経質な部分を薄くして、いつもより一段と輝いていた。微笑むその口元の唇はあんなに赤かっただろうかと考え込んでしまうほど、妙に色っぽかった。
全然タイプでない俺がそう感じるのだから、元々アンドレを大事に思っているローレンスはどこか呆けた顔でアンドレに見惚れている有様だ。
まぁ、ローレンスだけじゃなく、周囲の学生たちが皆してそうなのだから、俺の方が特殊なのだろう。
「アンドレ、今日は何だかご機嫌だな。良い事でもあったのか?」
俺がそう言って揶揄うと、アンドレはハッとした後顔を赤らめて、それからまるでこの世の喜びを集めた様な表情で微笑んだ。言葉にしなかっただけで、アンドレが今恋をしているのは疑いもなかった。
俺は恐る恐るローレンスの方を目だけ動かして見たけれど、ローレンスもまたその事実に気づいた様で、いつもの笑顔がどこか強張って見えたのは俺の勘違いだろうか。
らしくない弾む様な足取りで教室に戻るアンドレを二人で見送りながら、俺はローレンスにどう声を掛けるべきか考え込んでいた。するとローレンスは俺の背中を力任せに叩いて睨み付けた。
「まったく、私に気を遣って黙りこくってると、こっちの方が嫌になるだろう?いっそ、失恋だなローレンスって言い放ってくれた方が気が楽だ。…授業が始まるぞ。」
強がったローレンスの顔は少し強張っているのがありありだけど、俺に憎まれ口を言えるくらいにはアンドレについて何処か覚悟してきていたのだろうと思った。
まったく俺の親友は可愛げがない。落ち込んだところを慰めて、あわよくば押し倒してしまっても良いかもしれないと考えていた俺に隙さえ見せてくれない。
俺は周囲の友人らに明るい笑顔を見せながら、何も無かった様に振る舞うローレンスをいつか目の前で泣かせて甘やかしてやりたいと決意していた。
まぁなかなか苦難の道だ。ローレンスはどっちかと言うと押し倒す方なんだろうから。
俺がそんな事を考えながらニヤニヤしていると、そんな俺と訝しげに目を合わせたローレンスが眉を顰めて言った。
「ジェラルドがそんな顔をする時は、大概良くない事を考えているんだ。問題を起こすのはやめてくれよ?私にまで飛び火するだろう?」
俺は耐えられなくて吹き出した。
「良くないことかどうかは、実際相手次第だと思わないか?まぁ俺がそう決めたら大抵の事は願い通りになるものさ。ローレンス、心配するな。俺にとってお前は特別だ。訳がわからないって?そうかもな。説明なんて出来ないことの方が多いからな。ははは。」
ますます眉を顰めるローレンスは、それでも綺麗で良い男だと思った。俺、結構こいつの事マジかもしれないな。
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