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王都へ
ビクターside弟君の護衛
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「次はお前の番だ、ビクター。まったく何度目だ?流石に今回でシモン様の面接は終わりであって欲しいよ。」
そうぼやく辺境伯家所属の騎士仲間に笑いかけて、私は慰めるように肩を叩いた。
「まぁシモン様の心配も無理は無いさ。見ただろう?アンドレ様の美貌を。あれでは令嬢でなくとも周囲を警戒するだろうって。まして護衛なら同行する事が多いのだからな。
まぁ私は流石に婚約しているし、綺麗でも男には食指は湧かないからシモン様の心配は多少大袈裟に思えない事もないがなぁ。」
苦笑する仲間を見送って、私は扉の前に立った。今回の仕事は護衛対象の年齢を考えると、出来れば任命されたいところだと考えていた。
この特別な仕事は給金も素晴らしく良いばかりでなく、品行方正だと噂されている弟君の素行を考えれば拘束時間もあまり無さそうだった。一年後に結婚を控えている身としては、婚約者のためにも稼いでおかなくてはならない。
何度目かの同じ質問に答えながら、シモン様の指が身上書をなぞるのを見ていた。
「…ビクターは婚約者と何処で出会ったんだ?まだビクターも若い。それともお相手が年上なのか?」
思いもしない質問を受けて、私は戸惑いながら答えた。
「彼女は私の幼馴染です。年はひとつ下ですが、昔から家族ぐるみで顔を合わせていました。婚約したのは彼女の父君が体調を崩した事もあって、安心させてあげられるかと思ったからです。」
私の答えにシモン様は何か書き込むと、満足げに頷いて言った。
「ビクターは中々実直な男のようだ。私がアンドレの護衛にここまで気を配る理由が分からないだろうね。身内贔屓なら笑い話だが、昔からアンドレは物騒な事に巻き込まれがちだった。
父上も本人が気づかないように近づく人間は精査していたが、流石に学園に進学してそれは難しい。実際我々がどんなに警戒してもその網をかい潜って近づく害悪は生じるものだ。」
そこまで言って、シモン様は分かりやすく苦々しい表情を浮かべた。どうもそんな事があった様子だ。私は余計なことを言わないように黙って次に言葉を待った。
「ビクターが思慮深い方である事もこうして会話していると分かる。…それに弟もビクターなら気安く一緒に行動出来るだろう。明後日アンドレに紹介するから、朝食後に家族の間に来てくれ。
他の者には、結果についてはこちらから連絡する。屋敷に部屋を用意するから、荷物を入れなさい。基本夜会などが無ければ、週末は自宅に戻っても良い。」
私は今回の仕事が決まった件について婚約者に手紙を書きながら、アンドレ様は一体どのようなお方なのだろうと思いを馳せた。訓練場へ通う際に屋敷でお見かけする事はほとんど無いので、今や噂が一人歩きしている状況だ。
私もチラッと遠目で横顔を見たくらいだが、美しい方だと認識はしている。
とは言え婚約者を心配させるような余計な事は書くべきでは無いと、簡単に用件を綴ると封をした。封をした後で、もう少し甘い言葉を書くべきだったかと思ったがそんなタチでも無いので、会った時に花を贈ろうと書き直すのは止めた。
少し緊張しながら、私は家族の間の扉の近くで待機していた。食事が終わり次第アンドレ様に引き合わせてもらえるとの事だったので、15歳という年頃の若者なら対応の難しい事もあるだろうと、半ば期待せずにいた。
しかし待てども一向に声が掛からないので、私は出入りする従者にシモン様について尋ねた。家令と別の扉から出たと聞いて、私は慌てて面接したシモン様の執務室へと向かった。
辺境伯の居ない時は代理として立派に執務しているシモン様は、家令が扉を開けた向こうで苦笑して立ち上がった。
「ああ、ビクター悪かった。今からアンドレに引き合わせよう。」
シモン様について行くと、お庭に出て小鳥を楽しそうに見上げているアンドレ様が居た。そのお姿はまるで一枚の美しい絵のようだった。
肩を超える朝日に輝く金髪の巻毛が小造りの顔を覆い、ぱっちりとしたアーモンド型の瞳はあまり見た事がない明るい空色で、赤い唇が抜けるような肌の白さを引き立てて居た。
世の中にはこんなに美しい人間が居るのかと、私はしみじみとまるで絵を見ているかのような気持ちで二人のやり取りを見つめた。黒騎士とでも言う様なシモン様と並ぶとその対象的な存在感で、この美しい兄弟に人々が引き寄せられるのは当然だと思わせた。
私に目を向けたアンドレ様の純真な眼差しに私は妙な庇護欲が湧いて、なるほど無理強いしてでも手に入れたい輩も居るかもしれないと、この護衛の仕事への重要性を意識した。
だが穏やかな空気はそこまでだった。シモン様がアンドレ様の巻毛に手をやって何か囁くと、アンドレ様の空気が突然緊張を滲ませて、ちょっとした言い争いが勃発したのだから。
好きにしろと言い捨てたシモン様が怒りのまま立ち去ると、その後ろ姿を強張った表情で見つめて居たアンドレ様は、私がまだそこに居る事に今気がついたとでも言うような表情をした。
それからなぜか次の日の夜の予定を私に言うと、学園に出掛ける準備をしてくると屋敷の中へと入って行ってしまった。
私はぼんやりとその細身ながらバランスの良い後ろ姿を見送って、アンドレ様の見ていた頭上で明るく鳴く青い鳥達を見上げてため息をついた。
「…やっぱり、面倒くさいお年頃だな。まぁ、憎たらしい感じではないだけマシかな。」
そうぼやく辺境伯家所属の騎士仲間に笑いかけて、私は慰めるように肩を叩いた。
「まぁシモン様の心配も無理は無いさ。見ただろう?アンドレ様の美貌を。あれでは令嬢でなくとも周囲を警戒するだろうって。まして護衛なら同行する事が多いのだからな。
まぁ私は流石に婚約しているし、綺麗でも男には食指は湧かないからシモン様の心配は多少大袈裟に思えない事もないがなぁ。」
苦笑する仲間を見送って、私は扉の前に立った。今回の仕事は護衛対象の年齢を考えると、出来れば任命されたいところだと考えていた。
この特別な仕事は給金も素晴らしく良いばかりでなく、品行方正だと噂されている弟君の素行を考えれば拘束時間もあまり無さそうだった。一年後に結婚を控えている身としては、婚約者のためにも稼いでおかなくてはならない。
何度目かの同じ質問に答えながら、シモン様の指が身上書をなぞるのを見ていた。
「…ビクターは婚約者と何処で出会ったんだ?まだビクターも若い。それともお相手が年上なのか?」
思いもしない質問を受けて、私は戸惑いながら答えた。
「彼女は私の幼馴染です。年はひとつ下ですが、昔から家族ぐるみで顔を合わせていました。婚約したのは彼女の父君が体調を崩した事もあって、安心させてあげられるかと思ったからです。」
私の答えにシモン様は何か書き込むと、満足げに頷いて言った。
「ビクターは中々実直な男のようだ。私がアンドレの護衛にここまで気を配る理由が分からないだろうね。身内贔屓なら笑い話だが、昔からアンドレは物騒な事に巻き込まれがちだった。
父上も本人が気づかないように近づく人間は精査していたが、流石に学園に進学してそれは難しい。実際我々がどんなに警戒してもその網をかい潜って近づく害悪は生じるものだ。」
そこまで言って、シモン様は分かりやすく苦々しい表情を浮かべた。どうもそんな事があった様子だ。私は余計なことを言わないように黙って次に言葉を待った。
「ビクターが思慮深い方である事もこうして会話していると分かる。…それに弟もビクターなら気安く一緒に行動出来るだろう。明後日アンドレに紹介するから、朝食後に家族の間に来てくれ。
他の者には、結果についてはこちらから連絡する。屋敷に部屋を用意するから、荷物を入れなさい。基本夜会などが無ければ、週末は自宅に戻っても良い。」
私は今回の仕事が決まった件について婚約者に手紙を書きながら、アンドレ様は一体どのようなお方なのだろうと思いを馳せた。訓練場へ通う際に屋敷でお見かけする事はほとんど無いので、今や噂が一人歩きしている状況だ。
私もチラッと遠目で横顔を見たくらいだが、美しい方だと認識はしている。
とは言え婚約者を心配させるような余計な事は書くべきでは無いと、簡単に用件を綴ると封をした。封をした後で、もう少し甘い言葉を書くべきだったかと思ったがそんなタチでも無いので、会った時に花を贈ろうと書き直すのは止めた。
少し緊張しながら、私は家族の間の扉の近くで待機していた。食事が終わり次第アンドレ様に引き合わせてもらえるとの事だったので、15歳という年頃の若者なら対応の難しい事もあるだろうと、半ば期待せずにいた。
しかし待てども一向に声が掛からないので、私は出入りする従者にシモン様について尋ねた。家令と別の扉から出たと聞いて、私は慌てて面接したシモン様の執務室へと向かった。
辺境伯の居ない時は代理として立派に執務しているシモン様は、家令が扉を開けた向こうで苦笑して立ち上がった。
「ああ、ビクター悪かった。今からアンドレに引き合わせよう。」
シモン様について行くと、お庭に出て小鳥を楽しそうに見上げているアンドレ様が居た。そのお姿はまるで一枚の美しい絵のようだった。
肩を超える朝日に輝く金髪の巻毛が小造りの顔を覆い、ぱっちりとしたアーモンド型の瞳はあまり見た事がない明るい空色で、赤い唇が抜けるような肌の白さを引き立てて居た。
世の中にはこんなに美しい人間が居るのかと、私はしみじみとまるで絵を見ているかのような気持ちで二人のやり取りを見つめた。黒騎士とでも言う様なシモン様と並ぶとその対象的な存在感で、この美しい兄弟に人々が引き寄せられるのは当然だと思わせた。
私に目を向けたアンドレ様の純真な眼差しに私は妙な庇護欲が湧いて、なるほど無理強いしてでも手に入れたい輩も居るかもしれないと、この護衛の仕事への重要性を意識した。
だが穏やかな空気はそこまでだった。シモン様がアンドレ様の巻毛に手をやって何か囁くと、アンドレ様の空気が突然緊張を滲ませて、ちょっとした言い争いが勃発したのだから。
好きにしろと言い捨てたシモン様が怒りのまま立ち去ると、その後ろ姿を強張った表情で見つめて居たアンドレ様は、私がまだそこに居る事に今気がついたとでも言うような表情をした。
それからなぜか次の日の夜の予定を私に言うと、学園に出掛ける準備をしてくると屋敷の中へと入って行ってしまった。
私はぼんやりとその細身ながらバランスの良い後ろ姿を見送って、アンドレ様の見ていた頭上で明るく鳴く青い鳥達を見上げてため息をついた。
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