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辺境の地で
短い平穏
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ローレンスが王都へ行ってしまってから、僕は何処かホッとしていた。彼に無理強いされていた訳ではないのに、自分だって一緒に楽しんでいた筈なのに、お決まりの睦ごとが何処か心の負担になっていたのかもしれない。
元々その手のことは愛する相手とするのものだと思っていたのに、実際自分は好奇心もあり流されてしてしまっている。それにローレンスの事は好きだけど、愛してる訳じゃない。
もっともローレンスも僕のことを、都合の良い相手として可愛がってくれただけだ。話の端々に出てくるのは令嬢や指南役の女性の事だったのだから。ローレンスは僕が女みたいだから相手にしたのかもしれない。確か最初の頃そんな事を言っていた気がする。
…流行り病の様に、僕らはいっ時そうしてしまっただけ。
そう考えれば、僕は何処かすっきりした気分で気が楽になった。それに今では自分の欲望は上手くコントロール出来るようになってる。その事はローレンスに感謝しないといけない。
「アンドレ様、ローレンス様が上京してしまわれてお寂しいですね。」
従者のバトラが僕にお茶を淹れながらそう話しかけて来た。僕にしては珍しく懐いていた相手だと認識していただろうバトラにとっては、他の友人と親交を深めようとしない僕が心配なんだろう。
「そうだね。彼はいつも優しくしてくれたから寂しいよ。今度友人の誰か屋敷に遊びに来ないか誘ってみる事にするよ。そうしたらバトラも安心でしょ?」
バトラは片眉を上げたものの、余計な事は言わなかった。バトラは僕が一人ぼっちでいる事が心配なだけだ。
とは言ったものの、僕はあまりにもローレンスと一緒に居過ぎたのかもしれない。気軽に誘える様な関係を同級生と結んで来なかったせいで、バトラを安心させてあげられない。
そんな時にジニー卿のところに一時滞在中の同世代のお孫さんが僕らの集まりに顔を出した。体調を崩したジニー卿を心配した娘である伯爵夫人と一緒に王都から来た様だった。
王都住まいのせいか僕らより明らかに垢抜けている彼は、スラリとした細身の体型で金髪の巻毛を後ろで一括りにしていた。少し釣り上がった淡い茶色の目は何を考えているのかわからなかったけれど、気楽な雰囲気でにこやかに微笑んでいる。
「初めまして。僕はミッシーニ伯爵家の次男のデミオって言うんだ。もう暫くこちらに滞在予定なので仲良くしてくれると嬉しいな。」
デミオは話も上手で、王都での物珍しい話題を沢山僕らに披露してくれた。すっかり人気者になったデミオは、周囲を見回してジニー卿の家は退屈だから何処か遊びに行きたいと微笑んだ。
皆が自分の家に招待すると我先に言い出したので、僕も釣られる様に申し出た。するとデミオはチラッと僕を見て手を差し出して言った。
「じゃあ、君のところに遊びに行っても良いかい?えーと、アンドレだったよね。」
そう言われてしまえば、今更断る事もできなかった。結局僕はあまりよく知らない相手を家に招待する事になった。とは言え友人が遊びに来たらバトラが安心するから丁度いいと思ったのも確かだった。
数日後、デミオが約束通り辺境伯の屋敷に遊びに来た。今日は僕より少し長い巻毛を肩下まで下ろしていたので、先日とは雰囲気が随分違って見えた。デミオは茶色がかった金髪だったけれど、巻毛の感じが僕と似ていたので、僕も長くするとあんな感じになるのかと興味深く後ろ姿を見ていた。
客間でお茶を飲みながら、僕らはカードゲームをしていた。デミオはカードが強くて、僕は一度負けてしまって二度目の今も負けそうなので必死に頭を巡らせていた。
「…アンドレはあまりカードは強くないみたいだね。ああ、僕は兄の影響で結構やる方だからね、僕に勝てなくても気にしないで?ふふ、…君は僕の想像より、なんて言うか期待外れだったよ。
ああ、悪いね。急にこんな事言われたら何事かと思うよね。まだ勝負は終わってないから話しながら続きをしよう。ほら、君の番だ。」
突然デミオにそんな悪口めいた事を言われて、僕はびっくりしてデミオを見つめた。デミオは今やあの社交的な顔を隠して、何処かしら意地の悪い表情を浮かべている。
「僕は兄上の友人であるシモン様をよく知ってるんだ。君の義理の兄上のね?それにシモン様には随分可愛がって貰ってるよ。色々とね?ああ、君にははっきり言わないと分からないかもね。
僕はシモン様とそう言う関係だって事さ。シモン様は飛び抜けて素晴らしい方なのに、僕にとても優しくしてくれるんだ。
兄上は僕らの関係を知らないけれど、シモン様には溺愛する義理の弟が居るって言うものだから、良い機会だから君に会ってみようと思ったのさ。
でも君は見た目が美しいだけで、特段飛び抜けて何が出来る訳じゃないみたいだ。カードも弱いし、話をしても愚鈍だ。シモン様が溺愛してるなんて兄上の勘違いじゃないのかな、ね?」
僕がカードを出す順番だったけれど、デミオの仄めかしに思考も手も止まってしまった。兄上が目の前のデミオと僕がローレンスとしていた様な事をしている?いや、もっとそれ以上の事を?
それは思わぬ事だったけれど、想像するのも嫌な事だった。けれど僕は必死に動揺を隠してテーブルにカードを一枚置いた。
「…そう。何か勘違いしてるみたいだけど、兄上は僕を溺愛してはいないよ。小さな頃は兎も角、最近は帰って来てもあまり話もしないし。それにさっき言ったみたいな事は誰にでも言うべきじゃない。
兄上はそんな軽はずみな事を言う様な相手とは、関係を続けない気がするから。」
それは僕の精一杯の強がりだったけれど、デミオは顔を強張らせて椅子から立ち上がると僕を見下ろして言った。
「…君も案外言うね。確かに僕も口を滑らせたみたいだ。もう君に会う事は無いと思うけど、シモン様の事は心配要らないよ。僕が癒して差し上げるから。失礼するよ。ああ、見送りは不要だよ。流石に気まずいだろう?」
そう言って客間を出て行った。僕はそう言われても見送るべきだと思ったけれど、立ち上がる気力も無くて椅子に座ったまま目の前の散らかったカードをぼんやりと見ていた。
少なくともデミオは兄上に優しくしてもらえているらしい。それは僕を傷つけた。それともそんな事で傷つくのは僕がおかしいのだろうか?
元々その手のことは愛する相手とするのものだと思っていたのに、実際自分は好奇心もあり流されてしてしまっている。それにローレンスの事は好きだけど、愛してる訳じゃない。
もっともローレンスも僕のことを、都合の良い相手として可愛がってくれただけだ。話の端々に出てくるのは令嬢や指南役の女性の事だったのだから。ローレンスは僕が女みたいだから相手にしたのかもしれない。確か最初の頃そんな事を言っていた気がする。
…流行り病の様に、僕らはいっ時そうしてしまっただけ。
そう考えれば、僕は何処かすっきりした気分で気が楽になった。それに今では自分の欲望は上手くコントロール出来るようになってる。その事はローレンスに感謝しないといけない。
「アンドレ様、ローレンス様が上京してしまわれてお寂しいですね。」
従者のバトラが僕にお茶を淹れながらそう話しかけて来た。僕にしては珍しく懐いていた相手だと認識していただろうバトラにとっては、他の友人と親交を深めようとしない僕が心配なんだろう。
「そうだね。彼はいつも優しくしてくれたから寂しいよ。今度友人の誰か屋敷に遊びに来ないか誘ってみる事にするよ。そうしたらバトラも安心でしょ?」
バトラは片眉を上げたものの、余計な事は言わなかった。バトラは僕が一人ぼっちでいる事が心配なだけだ。
とは言ったものの、僕はあまりにもローレンスと一緒に居過ぎたのかもしれない。気軽に誘える様な関係を同級生と結んで来なかったせいで、バトラを安心させてあげられない。
そんな時にジニー卿のところに一時滞在中の同世代のお孫さんが僕らの集まりに顔を出した。体調を崩したジニー卿を心配した娘である伯爵夫人と一緒に王都から来た様だった。
王都住まいのせいか僕らより明らかに垢抜けている彼は、スラリとした細身の体型で金髪の巻毛を後ろで一括りにしていた。少し釣り上がった淡い茶色の目は何を考えているのかわからなかったけれど、気楽な雰囲気でにこやかに微笑んでいる。
「初めまして。僕はミッシーニ伯爵家の次男のデミオって言うんだ。もう暫くこちらに滞在予定なので仲良くしてくれると嬉しいな。」
デミオは話も上手で、王都での物珍しい話題を沢山僕らに披露してくれた。すっかり人気者になったデミオは、周囲を見回してジニー卿の家は退屈だから何処か遊びに行きたいと微笑んだ。
皆が自分の家に招待すると我先に言い出したので、僕も釣られる様に申し出た。するとデミオはチラッと僕を見て手を差し出して言った。
「じゃあ、君のところに遊びに行っても良いかい?えーと、アンドレだったよね。」
そう言われてしまえば、今更断る事もできなかった。結局僕はあまりよく知らない相手を家に招待する事になった。とは言え友人が遊びに来たらバトラが安心するから丁度いいと思ったのも確かだった。
数日後、デミオが約束通り辺境伯の屋敷に遊びに来た。今日は僕より少し長い巻毛を肩下まで下ろしていたので、先日とは雰囲気が随分違って見えた。デミオは茶色がかった金髪だったけれど、巻毛の感じが僕と似ていたので、僕も長くするとあんな感じになるのかと興味深く後ろ姿を見ていた。
客間でお茶を飲みながら、僕らはカードゲームをしていた。デミオはカードが強くて、僕は一度負けてしまって二度目の今も負けそうなので必死に頭を巡らせていた。
「…アンドレはあまりカードは強くないみたいだね。ああ、僕は兄の影響で結構やる方だからね、僕に勝てなくても気にしないで?ふふ、…君は僕の想像より、なんて言うか期待外れだったよ。
ああ、悪いね。急にこんな事言われたら何事かと思うよね。まだ勝負は終わってないから話しながら続きをしよう。ほら、君の番だ。」
突然デミオにそんな悪口めいた事を言われて、僕はびっくりしてデミオを見つめた。デミオは今やあの社交的な顔を隠して、何処かしら意地の悪い表情を浮かべている。
「僕は兄上の友人であるシモン様をよく知ってるんだ。君の義理の兄上のね?それにシモン様には随分可愛がって貰ってるよ。色々とね?ああ、君にははっきり言わないと分からないかもね。
僕はシモン様とそう言う関係だって事さ。シモン様は飛び抜けて素晴らしい方なのに、僕にとても優しくしてくれるんだ。
兄上は僕らの関係を知らないけれど、シモン様には溺愛する義理の弟が居るって言うものだから、良い機会だから君に会ってみようと思ったのさ。
でも君は見た目が美しいだけで、特段飛び抜けて何が出来る訳じゃないみたいだ。カードも弱いし、話をしても愚鈍だ。シモン様が溺愛してるなんて兄上の勘違いじゃないのかな、ね?」
僕がカードを出す順番だったけれど、デミオの仄めかしに思考も手も止まってしまった。兄上が目の前のデミオと僕がローレンスとしていた様な事をしている?いや、もっとそれ以上の事を?
それは思わぬ事だったけれど、想像するのも嫌な事だった。けれど僕は必死に動揺を隠してテーブルにカードを一枚置いた。
「…そう。何か勘違いしてるみたいだけど、兄上は僕を溺愛してはいないよ。小さな頃は兎も角、最近は帰って来てもあまり話もしないし。それにさっき言ったみたいな事は誰にでも言うべきじゃない。
兄上はそんな軽はずみな事を言う様な相手とは、関係を続けない気がするから。」
それは僕の精一杯の強がりだったけれど、デミオは顔を強張らせて椅子から立ち上がると僕を見下ろして言った。
「…君も案外言うね。確かに僕も口を滑らせたみたいだ。もう君に会う事は無いと思うけど、シモン様の事は心配要らないよ。僕が癒して差し上げるから。失礼するよ。ああ、見送りは不要だよ。流石に気まずいだろう?」
そう言って客間を出て行った。僕はそう言われても見送るべきだと思ったけれど、立ち上がる気力も無くて椅子に座ったまま目の前の散らかったカードをぼんやりと見ていた。
少なくともデミオは兄上に優しくしてもらえているらしい。それは僕を傷つけた。それともそんな事で傷つくのは僕がおかしいのだろうか?
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