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辺境の地で
変化
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姉上の盛大な婚約式が終わって兄上が王都に戻って行くと、僕の日常も戻って来た。けれどもやはり社交デビューすると今までとは違う事が増えた気がする。
僕に届く様になった招待状が並べられた机を前に、お世話係のアランと開封して検討中だ。
「社交デビューなさったからと言って、ここまで招待状が届くとは私も思いませんでしたね。これは人気のご令嬢レベルです。」
僕はうめく様なため息をついて、肘をついた手の甲に顎を乗せた。
「男だったらお茶会なんて参加しないのかな。でも僕は剣の打ち合いする位なら、お茶を飲んで感想を言う方がマシだよ。どう考えてもアザだらけになるでしょう?アザができるのは良いけど、周りがその事に煩く言うから面倒なんだ。
剣を打つ事を良しとする癖に、怪我はするなとか無理だもの。」
僕はすっかりアランに気を許してたので、心の内を曝け出していた。僕のこの貴族の男として真っ当になれない所も吐き出してしまう。
するとアランは面白そうに笑って言った。
「確かに辺境伯や従者は、可愛いアンドレ様にアザが出来ると大騒ぎしますね。夫人の方がむしろアザが出来るのは当然だと、深刻に思わない様な気がします。
辺境伯がそんな反応するのには、私も最初の頃は目を白黒しました。けれどもアンドレ様にお仕えしていると、私もまた同様の気持ちになってしまうのでしょうがないのです。美しいものを守りたいという誰もが持っている無意識の感覚でしょうから。」
僕はもう一度ため息をついた。
「一度義父上が仰られたんだ。僕があまりにも母上に似ているせいで、母上に怪我させた気分になるって。ふふ、おかしな話だね?」
自虐的なネタに、アランは微笑んだ。
「確かにアンドレ様はお母上に良く似てらっしゃいますから。でも最近はしなやかにご成長されて、…別の意味でひと目を惹きますね。」
アランの言わんとしている事はよく分からなかった。男であるシモン兄上としか比べようのない僕としてみれば、どう考えても僕の存在は脆弱過ぎる。それこそ兄上に弟として認められないくらいに。
僕の顔が曇ったのを見たアランが、何通か招待状を目の前に差し出した。
「これは義理的にも、あとアンドレ様も無理なく参加できそうなものですね。辺境伯からも選んで参加すれば良いとのお言葉を頂いてますから、とりあえずこれでよろしいのではないでしょうか。」
僕は招待状に目を落として、成程僕に近しい人物や得意なものの催しの招待状だと見てとって、顔をあげてアランに微笑んだ。
「ありがとう、アラン。少し気が軽くなったよ。そうは言っても、僕も13歳なのだから本当は選り好みしてはいられないね?」
するとアランは僕をじっと見つめて言った。
「…アンドレ様はまだ13歳なのですから、考え様によっては選り好み出来るのですよ。少しずつ社交に慣れていきましょう。私も帯同いたしますゆえ。」
僕は17歳の兄上より二つ年上の大人のアランが、一緒に着いてきてくれればどんな招待も心強い気がして笑みを浮かべて言った。
「ふふ。僕もアランに縋りつかない様に頑張るね?」
「思ったより参加者が多いんだね。それに僕の様にお世話係が帯同してる者もちらほら居て安心したよ。ちょっと行ってくる。」
僕はそうアランに声を掛けると、同年代の貴族の集まっている場所へと馬の向きを動かした。僕は昔から乗馬が好きで相性が良い。シモン兄上に特訓を受けた事もあって、馬場競技も得意だ。
今回は社交を兼ねた馬場競技で、ご令嬢もいるせいか設置したバーの難易度もそこまで高くない。だからますます僕は機嫌良く、集まっている顔見知りの彼らの側に近づいた。
「アンドレ、ようこそ!君も参加するなんて嬉しいよ。中々こんな場で君の姿が見れるのは貴重だからね。」
主催のミルトン伯爵家の後継であるひとつ年上のローレンスが、明るい笑顔を見せて声を掛けてきた。抜ける様な明るい茶髪と印象的な緑色の瞳を持ったローレンスは、それぞれ城で家庭教師に教わる事の多い僕らにとっては、時々集まって外部講義を受ける時に顔を合わせて話をする気心の知れた相手の一人だった。
「ローレンスご招待をありがとう。僕も遅ればせながら社交にデビューしたからね。色々参加しようと思って。ローレンスの主催なら是非参加しようと思ったんだ。…皆さんご機嫌よう。今日はよろしくお願いします。」
ローレンスの周囲に集まって来たご令嬢やご令息達が僕に笑顔を向けてくれたので、僕はホッとしてローレンスの隣に馬を寄せた。
「アンドレ、馬場競技はどのレベルなんだい?安定感のある馬の乗り方を見ると結構やるのかい?」
僕は抜け目ないローレンスの観察眼に微笑んで言った。
「結構好きな趣味の一つだよ。兄上にだいぶ特訓されたからね。ああ、でも兄上のレベルには到底届かないよ?」
ローレンスはお手並み拝見とばかりにニヤリと笑うと、一番にバーの並んだ馬場へと馬を走らせた。僕はその後ろ姿を見つめながら心躍る気がした。今まで社交にあまり参加してこなかったのを残念に思うくらいには、僕はこの場を楽しみ始めていた。
僕に届く様になった招待状が並べられた机を前に、お世話係のアランと開封して検討中だ。
「社交デビューなさったからと言って、ここまで招待状が届くとは私も思いませんでしたね。これは人気のご令嬢レベルです。」
僕はうめく様なため息をついて、肘をついた手の甲に顎を乗せた。
「男だったらお茶会なんて参加しないのかな。でも僕は剣の打ち合いする位なら、お茶を飲んで感想を言う方がマシだよ。どう考えてもアザだらけになるでしょう?アザができるのは良いけど、周りがその事に煩く言うから面倒なんだ。
剣を打つ事を良しとする癖に、怪我はするなとか無理だもの。」
僕はすっかりアランに気を許してたので、心の内を曝け出していた。僕のこの貴族の男として真っ当になれない所も吐き出してしまう。
するとアランは面白そうに笑って言った。
「確かに辺境伯や従者は、可愛いアンドレ様にアザが出来ると大騒ぎしますね。夫人の方がむしろアザが出来るのは当然だと、深刻に思わない様な気がします。
辺境伯がそんな反応するのには、私も最初の頃は目を白黒しました。けれどもアンドレ様にお仕えしていると、私もまた同様の気持ちになってしまうのでしょうがないのです。美しいものを守りたいという誰もが持っている無意識の感覚でしょうから。」
僕はもう一度ため息をついた。
「一度義父上が仰られたんだ。僕があまりにも母上に似ているせいで、母上に怪我させた気分になるって。ふふ、おかしな話だね?」
自虐的なネタに、アランは微笑んだ。
「確かにアンドレ様はお母上に良く似てらっしゃいますから。でも最近はしなやかにご成長されて、…別の意味でひと目を惹きますね。」
アランの言わんとしている事はよく分からなかった。男であるシモン兄上としか比べようのない僕としてみれば、どう考えても僕の存在は脆弱過ぎる。それこそ兄上に弟として認められないくらいに。
僕の顔が曇ったのを見たアランが、何通か招待状を目の前に差し出した。
「これは義理的にも、あとアンドレ様も無理なく参加できそうなものですね。辺境伯からも選んで参加すれば良いとのお言葉を頂いてますから、とりあえずこれでよろしいのではないでしょうか。」
僕は招待状に目を落として、成程僕に近しい人物や得意なものの催しの招待状だと見てとって、顔をあげてアランに微笑んだ。
「ありがとう、アラン。少し気が軽くなったよ。そうは言っても、僕も13歳なのだから本当は選り好みしてはいられないね?」
するとアランは僕をじっと見つめて言った。
「…アンドレ様はまだ13歳なのですから、考え様によっては選り好み出来るのですよ。少しずつ社交に慣れていきましょう。私も帯同いたしますゆえ。」
僕は17歳の兄上より二つ年上の大人のアランが、一緒に着いてきてくれればどんな招待も心強い気がして笑みを浮かべて言った。
「ふふ。僕もアランに縋りつかない様に頑張るね?」
「思ったより参加者が多いんだね。それに僕の様にお世話係が帯同してる者もちらほら居て安心したよ。ちょっと行ってくる。」
僕はそうアランに声を掛けると、同年代の貴族の集まっている場所へと馬の向きを動かした。僕は昔から乗馬が好きで相性が良い。シモン兄上に特訓を受けた事もあって、馬場競技も得意だ。
今回は社交を兼ねた馬場競技で、ご令嬢もいるせいか設置したバーの難易度もそこまで高くない。だからますます僕は機嫌良く、集まっている顔見知りの彼らの側に近づいた。
「アンドレ、ようこそ!君も参加するなんて嬉しいよ。中々こんな場で君の姿が見れるのは貴重だからね。」
主催のミルトン伯爵家の後継であるひとつ年上のローレンスが、明るい笑顔を見せて声を掛けてきた。抜ける様な明るい茶髪と印象的な緑色の瞳を持ったローレンスは、それぞれ城で家庭教師に教わる事の多い僕らにとっては、時々集まって外部講義を受ける時に顔を合わせて話をする気心の知れた相手の一人だった。
「ローレンスご招待をありがとう。僕も遅ればせながら社交にデビューしたからね。色々参加しようと思って。ローレンスの主催なら是非参加しようと思ったんだ。…皆さんご機嫌よう。今日はよろしくお願いします。」
ローレンスの周囲に集まって来たご令嬢やご令息達が僕に笑顔を向けてくれたので、僕はホッとしてローレンスの隣に馬を寄せた。
「アンドレ、馬場競技はどのレベルなんだい?安定感のある馬の乗り方を見ると結構やるのかい?」
僕は抜け目ないローレンスの観察眼に微笑んで言った。
「結構好きな趣味の一つだよ。兄上にだいぶ特訓されたからね。ああ、でも兄上のレベルには到底届かないよ?」
ローレンスはお手並み拝見とばかりにニヤリと笑うと、一番にバーの並んだ馬場へと馬を走らせた。僕はその後ろ姿を見つめながら心躍る気がした。今まで社交にあまり参加してこなかったのを残念に思うくらいには、僕はこの場を楽しみ始めていた。
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