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教育期間
朝の鍛錬
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「サミュエル!一緒に行かないか?」
駆け寄ってくるなり、そう声をかけて来たのはエドワードだった。あの朝の馬上では、僕に顰めっ面しか見せなかったけれど、最近急に僕に対する態度を変えたんだ。
多分、僕の生い立ちを聞いたのかもしれない。いっそ距離を取られていた時の方が快適に感じるくらい、僕にまとわりついて来る。…ほんと、おすわりって躾けたいよ。
「…ダメだって言っても、どうせ連れて行くんでしょ?」
そう僕が口を尖らせて言うと、エドワードはケラケラ笑って答えた。
「アハハ、そうかも知れない!ほら、道々貴族の心得を教えてやるから。明日ケビン先生の口頭試験だろう?」
僕は肩をすくめると、エドワードについて鍛錬所へと走り出した。エドワードとそこに行き始めてから、僕はこのヴィレスク侯爵家の自衛防衛力に恐れ入ったんだ。
確かに権力が上がれば自前で警戒する事も必要だろうし、この国の貴族の子弟が、先ずは騎士を目指すのが鉄板である事も関係しているんだろう。ま、それもここで知った貴族あるあるだけどね。
馬場の先の鍛錬所に着くと、そこには既に数人の護衛騎士たちが、剣の音を空気に溶けさせていた。僕はエドワードと一緒にその様子を眺めながらベストを脱いで、その代わりに革で出来たアーマーを従者に手伝って貰って身につけていた。
「よお、お坊ちゃん方。今朝も来たんですか?…サミュエル様、あまり張り切って顔にアザをつけないでくださいね?あの時旦那様とアルバート様がどえらい勢いで乗り込んできて、ここで事情聴取になって俺たちを震え上がらせたんですから。」
そう言って揶揄う護衛騎士のグレートを、僕はジト目で見上げて口を尖らせた。
「僕にもそればっかりはどうしようもないよ。侯爵様もアルバート兄様も過保護が過ぎるよね?エドワード。」
準備を終えたエドワードは、剣の刃を確認する様に指でなぞりながらニヤリと笑いを浮かべて言った。
「父上と兄上には、サミュエルがどうしても小さな姫に見えちゃうみたいだな。なかなかどうして食えない奴なのに。」
ん?何だか全然フォローになってない。僕はため息をつくとエドワードとグレートが剣について意見を交わすのを聞きながら鍛錬場へと向かった。
二人が剣を交えてキンっと良い音をさせるのを聴きながら、僕は布が巻かれた、地面から突き出る案山子に向かって剣を振り下ろした。
手に伝わる重い感触は、僕の身体をふらつかせた。それでも何度か時間を忘れて打ち込んでいると、後ろから声を掛けられた。
「随分精が出るね、サミュエル。…サミュエルちょっと手を見せてごらん。」
息を弾ませながら振り返ると、そこにはアルバート兄様が剣を腰に携えて立っていた。
「はぁ、はぁ。…アルバート兄様もいらっしゃったんですか?…手ですか?」
僕が剣を脇に挟んで両手を差し出すと、アルバート兄様は僕より大きな手で包みながら、手のひらのマメを指先で優しく押した。
「…これを潰すとしばらく痛むかも知れない。布を巻いてやろう。」
そう言うと僕の手を引いて、さっき身支度をした場所へと歩き出した。そんな僕たちを、笑いを堪えてエドワードとグレートが見て見ぬふりをするから、僕はアルバート兄様の過保護にますます居た堪れないんだ。
駆け寄ってくるなり、そう声をかけて来たのはエドワードだった。あの朝の馬上では、僕に顰めっ面しか見せなかったけれど、最近急に僕に対する態度を変えたんだ。
多分、僕の生い立ちを聞いたのかもしれない。いっそ距離を取られていた時の方が快適に感じるくらい、僕にまとわりついて来る。…ほんと、おすわりって躾けたいよ。
「…ダメだって言っても、どうせ連れて行くんでしょ?」
そう僕が口を尖らせて言うと、エドワードはケラケラ笑って答えた。
「アハハ、そうかも知れない!ほら、道々貴族の心得を教えてやるから。明日ケビン先生の口頭試験だろう?」
僕は肩をすくめると、エドワードについて鍛錬所へと走り出した。エドワードとそこに行き始めてから、僕はこのヴィレスク侯爵家の自衛防衛力に恐れ入ったんだ。
確かに権力が上がれば自前で警戒する事も必要だろうし、この国の貴族の子弟が、先ずは騎士を目指すのが鉄板である事も関係しているんだろう。ま、それもここで知った貴族あるあるだけどね。
馬場の先の鍛錬所に着くと、そこには既に数人の護衛騎士たちが、剣の音を空気に溶けさせていた。僕はエドワードと一緒にその様子を眺めながらベストを脱いで、その代わりに革で出来たアーマーを従者に手伝って貰って身につけていた。
「よお、お坊ちゃん方。今朝も来たんですか?…サミュエル様、あまり張り切って顔にアザをつけないでくださいね?あの時旦那様とアルバート様がどえらい勢いで乗り込んできて、ここで事情聴取になって俺たちを震え上がらせたんですから。」
そう言って揶揄う護衛騎士のグレートを、僕はジト目で見上げて口を尖らせた。
「僕にもそればっかりはどうしようもないよ。侯爵様もアルバート兄様も過保護が過ぎるよね?エドワード。」
準備を終えたエドワードは、剣の刃を確認する様に指でなぞりながらニヤリと笑いを浮かべて言った。
「父上と兄上には、サミュエルがどうしても小さな姫に見えちゃうみたいだな。なかなかどうして食えない奴なのに。」
ん?何だか全然フォローになってない。僕はため息をつくとエドワードとグレートが剣について意見を交わすのを聞きながら鍛錬場へと向かった。
二人が剣を交えてキンっと良い音をさせるのを聴きながら、僕は布が巻かれた、地面から突き出る案山子に向かって剣を振り下ろした。
手に伝わる重い感触は、僕の身体をふらつかせた。それでも何度か時間を忘れて打ち込んでいると、後ろから声を掛けられた。
「随分精が出るね、サミュエル。…サミュエルちょっと手を見せてごらん。」
息を弾ませながら振り返ると、そこにはアルバート兄様が剣を腰に携えて立っていた。
「はぁ、はぁ。…アルバート兄様もいらっしゃったんですか?…手ですか?」
僕が剣を脇に挟んで両手を差し出すと、アルバート兄様は僕より大きな手で包みながら、手のひらのマメを指先で優しく押した。
「…これを潰すとしばらく痛むかも知れない。布を巻いてやろう。」
そう言うと僕の手を引いて、さっき身支度をした場所へと歩き出した。そんな僕たちを、笑いを堪えてエドワードとグレートが見て見ぬふりをするから、僕はアルバート兄様の過保護にますます居た堪れないんだ。
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