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戦い

生きるためなら媚びますよ

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僕は咳払いして、実際にはブルルと少しいなないて、アーサーの伸ばした手に擦り寄った。くっ、不本意だ。でもここは馬の生態を全面に出しつつ、愛想良くしよう。

少し躊躇いがちに差し出された手の匂いを嗅いで、…うん、悪くない。僕はアーサーの出方を見た。アーサーはニヤリと笑うと、僕の顔の側を何度か撫でた。


「ふふ、思った通り賢い馬だ。ちゃんと状況判断が出来ているようだ。だが、賢いだけに、前の騎士の元に戻りたがるかもしれない。今回の戦闘にこれは出さないでおく。

しばらくここで調教し直す。ハワード、分かったか。」

いつの間にか側に来ていたのか、ハワードと呼ばれた僕の脚に薬を塗ってくれた馬丁が、僕の手綱を柵から外した。

「はい、アーサー様。でもこの馬は調教も要らないかも知れませんよ。凄く従順な良い馬です。まったく目付けモンです。」


僕はハワードに手綱を引かれるまま、馬場へと向かって歩き出したけれど、アーサーが僕を見つめている気がして馬らしさを演出して前脚を振り上げるくらいはする必要があった。

「ほいほい、どうした?妙に気が立ってるな?」

そう言って僕をなだめる優しい手つきのハワードさんに、僕はちょっぴりすまない気持ちになった。ああ、ロイさんみたいに、ハワードさんも優しい。


馬場に戻ると、僕は脚の痛みが少しはマシになった事にホッとして、リハビリに勤しんだ。痛いからと突っ立っていたら、瞬発力が失われてしまう。

僕はいつでも逃げ出せるように用意をしておきたかった。僕が軽く駆けていると、側に寄ってきた馬が声を掛けてきた。

『よお。元気か?お前、あっちから来たんだろ?ここは結構待遇は悪くないぜ。少々荒っぽい騎士も居るけどな。今回は俺たちも随分怪我が多くて、雰囲気が悪いんだ。


お前に突き飛ばされてムカついてるロッキーには気をつけろよ。あいつはそもそも底意地が悪いから、根に持ってるぞ。昨日もブチギレてたからな。』


僕は親切にも色々忠告してくれる、灰色に黒い斑模様の芦毛の馬を見つめて尋ねた。

『ありがとう、教えてくれて。君の名前は?それにロッキーってどの馬なの?』

芦毛の馬は一緒に軽く駆けながら言った。

『俺はピッツだ。因みにロッキーは、あのいかにも威張ってる脚が全部白いヤツだ。俺、あいつ嫌いなんだよ。だからお前が吹っ飛ばしたって聞いて嬉しくてさ。ククク。イイ気味だぜ。』


僕はビッツに似た名前のピッツが仲良くしてくれて、凄く嬉しくなった。けれど余計なことは表面には出さずに、新参者のしおらしさを前面に出して、お礼だけ言った。

そうか、さっきから僕を睨んでると思ったら、あいつがロッキーか。面倒な事になったな…。僕はロッキーには近づかないようにしようと思った。
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