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戦い

リアルな戦線

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ハッ、ハッ、自分の息が荒いのが分かる。僕たち騎士団の左陣は敵の陣目掛けて切り込んで行く予定だ。魔物退治の時とは違う、長い槍のような武器を手にして、ウィルは僕の背に乗っていた。

僕はこれが騎馬戦でも無くて、訓練でも無いってわかっていたけれど、それでも現実味が無かった。ただ、今の僕は馬で、否応無しにこれに参戦させられてるって事だ。


僕は自分の持てる力を振り絞る事でしか、ウィル、ひいては自分の命を繋ぐ方法はないと良く理解していた。だけど、実際に目の前に敵が同じようにこちらへ、敵意を剥き出しで向かって来るのだと見せつけられると、現代人であるなまっちょろい僕が浮かび上がって来る。

僕は自分の頬やら腿やらを抓って叱咤激励する事も出来ず、それこそ馬鹿みたいにいななく事しか出来ない。


周囲を見渡せば、心持ち青褪めたビッツが緊張を見せていた。きっと僕もあんな風に見えてるに違いない。僕はリーダーに目をやった。

流石にリーダーともなると、戦の経験はないものの、僕らみたいに1年目とは経験値が違うのか、身体から殺る気満々の揺らぎが見えるようだった。


僕はもう、ここまで来たら人馬一体となって、ウィルの足だけは引っ張らないようにと祈る事しかできなかった。幸いなのは、人間仕様だった頃の名残はすっかり消えて、体力も以前よりも増した事だろう。

丁度その時、騎士団長の鬨の声が辺りを響かせて、同時に何か笛のような妙に響く音が空気を震わせた。僕はウィルの手綱捌きの指示通りに、仲間たちと敵陣に向かって駆け出した。


それからの時間は長いような、短いような、僕には経験のない時間だったように思う。僕は映画の中の登場人物、いや、馬の様に、無我夢中に大地を駆けた。

ウィルが敵陣の周囲を長い槍でもって、僕の走る勢いそのままに振り払い、敵兵たちを薙ぎ払っていった。敵の騎士に対峙しそうになった時は、僕は機転をきかせて死角へと走り寄った。


気がつけば、僕とウィルは味方の領域へと戻って来ていて、今日の戦闘は終わりを告げた様だった。すっかり夕日も落ちてきて、辺りは夜と昼の境目の様な空気に包まれていた。

辺境伯の砦に仲間たちと戻ると、血の匂いが辺りに漂っていた。僕は思わず顔を顰めて前脚を持ち上げてしまった。ああ、僕は匂いに敏感なのに、この生々しい戦いの匂いは嫌だ。

僕が落ち着かなげに脚を踏み鳴らしていると、背中のウィルがガチャガチャ鎧を鳴らしながら僕から降りて顔を寄せてきた。



ウィル、僕、何だか泣きそうだよ。
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