上 下
7 / 131
馬になっちゃった!

ご主人様と戦闘訓練

しおりを挟む
はぁはぁ、マジで辛い。もう一歩も動けないんだけど。僕は今、絶賛森の中を彷徨っている。どうしてこんな事になったんだろう。しかもまだあいつが追ってくる気配を感じるんだよね。

もしかしてまだ諦めていないのかな。僕はかすかに頭をよぎる、馬を襲う熊とか、獣の話のクライマックスを思い出していた。でもこの世界はもっとやばい。僕は中世の世界にタイムリープしたのでは無かったんだ。


さっき僕が体験したのは、明らかにファンタジーの世界特有のアレだった。ゲームの世界だったら楽しいけど、実際目の前で感じる魔物の存在はマジでおぞましさ満載だった。

理科室にあった、寄生虫の標本が目の前で何倍にも大きくなってえぐい動きをする様な、とっても鳥肌な感じといえば良いだろうか。ま、僕は馬肌?


冗談のひとつでも言わないとちょっと正気を保っていられない。かすかに聞こえる物音は、多分結構距離があるんだと思う。だって僕は馬だからね。人間より聴覚は優れてるはずだ。

それでも僕は、さっきご主人様の身代わりをやり切ったせいで、アドレナリンが出ているんだろう。まだまだ必要なら走れる気がする。とはいえ、僕が今ピンチなのは変わらないよ!



僕が一目惚れした若い騎士は、僕のご主人様になった。まぁ、僕の恋は報われないだろうけど、取り敢えず自分のタイプの相手と一緒に行動できるのは役得だと思った。

今日は一緒に戦闘訓練する初めての日だった。いつも駆け回るだけだったから、ちょっと飽きていた僕は、好奇心を覗かせた。先輩馬達が張り切っていたから、結構楽しい1日になるかもしれないなって。

でも、そんな僕の予想は後々、大いに裏切られる事になったんだ。


戦闘訓練というのは、一時間ぐらい一緒に、それこそ馬上騎馬戦的な模擬戦だった。実は僕は高校時代、騎馬戦の大将をやったおかげで、戦略とかも相当研究してたんだ。

戦国時代の戦法まで調べ出した僕に、友人達は呆れていたけれど、今になってあれが大いに役に立った。僕は馬達の動きを見ながら、馬上のご主人様に誘導されるふりをして、上手い場所へとこっそり誘導した。


模擬戦の結果は大成功で、ご主人様は皆から随分褒め称えられていた。そんなご主人様は、僕を綺麗な緑色の瞳でじっと見つめながら、汗ばんだ僕の首筋を優しく撫でて言った。

「フォル、お前は素晴らしい馬だね。私がほとんど命じていないのに、お前は勝手に先読みの場所へと私を連れ出した。この結果はお前の手柄だ。今日は人参を増やそう。」


僕はご主人様の逞しい指先を感じながらも、人参に反応してしまった。ああ、すっかり僕って馬っぽい。色気より食欲にシフトしてしまって。

いや、今の馬生活では色気よりも生活の質が大事だよ。うん。しょうがない。開き直った僕は直ぐに馬らしさ全開でご主人様に甘えた。顔を手に擦り寄せて、もっと撫でてとアピールしちゃおう。


「ウィリアム、お前の黒馬は凄いな。場外から見ていたが、この馬が戦略を知ってるかの様に動いていたぞ。お前自身は手綱をそんなに引いてないだろう?」
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

上司と俺のSM関係

雫@3日更新予定あり
BL
タイトルの通りです。

「優秀で美青年な友人の精液を飲むと頭が良くなってイケメンになれるらしい」ので、友人にお願いしてみた。

和泉奏
BL
頭も良くて美青年な完璧男な友人から液を搾取する話。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。 かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。 後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。 群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って…… 冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。 表紙は友人絵師kouma.作です♪

処理中です...