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婚約
兄さんの怒り
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そう待つ間もなく、政宗が病室に戻って来た。この起きてしまった出来事を回避できなかった自分に、腹立たしさを感じていたけれど、政宗の険しい顔を見て彼もまたやるせない気持ちでいるのだろうと思った。
だからベッドサイドの椅子に座って私の手を握る政宗を慰める様に声を掛けた。
「政宗さんが悪い訳じゃないよ。私が不用心だったんだ。政宗さん言ってたでしょ。出掛ける時はコンシェルジュに頼んで車呼べって。前から兄さんにも言われてたのに、確証もなく大丈夫だって高を括っていたんだ。
だからそんな顔しないで…。」
急成長した如月家の一員と言う事もあったし、オメガと分かってから後を付けられたりする事も起きて、私は護身術を身につけている。けれど、それが今回の油断に繋がったのかもしれない。
自分とほとんど変わらない体格のあの男なら、何とでも出来ると思ったのは確かだから。でも刃物を持っていたら?やっぱり他人から悪意を向けられるのは怖い。
不意に抱き寄せられて、その温かな体温に息を吐き出した。
「すみません、怖かったでしょう?もう、こんな目に遭わせませんから。」
丁度その時、病室の扉が開いて声が響いた。
「葵、西園寺君、ちょっといいかな。」
兄さんが一人、ツカツカとベッドに近づいて来た。こんな風に怒りを見せる兄さんは初めて見た。慌てて立ち上がる政宗を見上げながら、私は嫌な予感がしていた。
「今回の件は、明らかに西園寺君の不手際が発端だ。そうだろう?私は大事な弟がこんな風に危険に晒されることを許せない。…今回のご縁は無かったことにしたい。
葵、たまたま打撲程度で済んだだけで、死んでたかもしれないんだ。お前に相応しい相手は、自分の尻拭いも出来ないこの恥知らずな男ではない。違うか?」
まるで一方的な兄、誉の言い分に唖然としてしまった。昔から私の事になると、妙に突っ走りがちな兄が今でもそうだったなんて思いもしなかった。
戸惑った気持ちで慌てて政宗を見ると、青ざめた顔で顔を強張らせている。けれど私と目を合わせると意を決した様に兄さんに向き直って言った。
「確かに私の不手際がキッカケだと思います。葵さんとお見合いする時点で、あの男ときっぱり決着しておくべきでした。如月さんが怒るのも当然です。
葵さんを危険な状況にしてしまったのは、私自身も許せない思いです。でもハッキリしているのは、私は葵さんを愛してしまった。お兄さんが反対しても、葵さんと離れることは出来ません。」
兄さんの顔がますます険しくなって、チラッと私を見ると口を開いた。
「葵はこの傲慢な男をどう思っているんだ。自分の事も面倒を見れない男だぞ?家柄は良いかもしれないが、それだけだ。」
二人のアルファの男から見つめられて、こんなに緊迫した空気の中、私はクスッと笑ってしまった。そんな私の態度に、ギョッとした顔をしたのは兄さんだったけれど、政宗はすがる様な眼差しをして私を見つめた。
「…兄さんと政宗さんは似てるよね。二人とも我が強くて、強引で。後、私の事を大事に思ってくれてるところもそっくり。兄さん、私は兄さんが思うほど清廉潔白な人生を歩んできた訳じゃないよ。
確かに今回の事は、政宗さんがもっと上手に立ち回れただろうって思うし、馬鹿だなって思ったりもするけど。でもどんなに誠実に対応したって、相手がどう受け取るかなんて分からないから、正解なんてあるのかな。
私が通り過ぎて来た相手だって、もしかしたら私の事恨んでるかもしれない。愛情が分からなくて冷たい事をして来たって自覚はあるからね。
でもね、兄さん。政宗さんには、初めて温度を感じるんだ。だから、兄さんがどう感じようと、無理だよ。でも、心配してくれてありがとう。」
兄さんは落ち着かな気に腕を組むと、目を閉じてため息をついた。それからゆっくりと瞼を上げて、手を握り合った私と政宗を苦々し気に見つめて言った。
「…普段ほとんど何でも良いって言うくせに、時々強情になるとテコでも動かないんだから。…お前は運命の番を見つけたのか?」
政宗の、私よりも体温の高い手に指を絡ませて微笑んだ。
「どうかな。でもそうだったら良いなって思う。」
すると政宗は手をぎゅっと握って宣言した。
「私は葵さんが初恋なんです。それが運命じゃなくて何なんですか?」
流石にそれは思いもしない言葉だった。私が目を見開いて鼻息も荒い政宗を見ると、咽込んだ音がした。二人で兄さんの方を見ると、すっかり疲れた様子の兄さんが額に手を当てて大きくため息をついた。
「…流石にそれにコメントつけづらいな。葵、25歳になるまで恋も知らない男だぞ?後悔しないか?めちゃくちゃ束縛してくるかもしれないぞ?」
私はクスッと笑って、大真面目な政宗の顔を見つめて言った。
「なんか可愛いかも。うん、凄く可愛い。」
それから赤い顔をした政宗の首を引き寄せてキスした。ふふ、食べちゃいたい。
だからベッドサイドの椅子に座って私の手を握る政宗を慰める様に声を掛けた。
「政宗さんが悪い訳じゃないよ。私が不用心だったんだ。政宗さん言ってたでしょ。出掛ける時はコンシェルジュに頼んで車呼べって。前から兄さんにも言われてたのに、確証もなく大丈夫だって高を括っていたんだ。
だからそんな顔しないで…。」
急成長した如月家の一員と言う事もあったし、オメガと分かってから後を付けられたりする事も起きて、私は護身術を身につけている。けれど、それが今回の油断に繋がったのかもしれない。
自分とほとんど変わらない体格のあの男なら、何とでも出来ると思ったのは確かだから。でも刃物を持っていたら?やっぱり他人から悪意を向けられるのは怖い。
不意に抱き寄せられて、その温かな体温に息を吐き出した。
「すみません、怖かったでしょう?もう、こんな目に遭わせませんから。」
丁度その時、病室の扉が開いて声が響いた。
「葵、西園寺君、ちょっといいかな。」
兄さんが一人、ツカツカとベッドに近づいて来た。こんな風に怒りを見せる兄さんは初めて見た。慌てて立ち上がる政宗を見上げながら、私は嫌な予感がしていた。
「今回の件は、明らかに西園寺君の不手際が発端だ。そうだろう?私は大事な弟がこんな風に危険に晒されることを許せない。…今回のご縁は無かったことにしたい。
葵、たまたま打撲程度で済んだだけで、死んでたかもしれないんだ。お前に相応しい相手は、自分の尻拭いも出来ないこの恥知らずな男ではない。違うか?」
まるで一方的な兄、誉の言い分に唖然としてしまった。昔から私の事になると、妙に突っ走りがちな兄が今でもそうだったなんて思いもしなかった。
戸惑った気持ちで慌てて政宗を見ると、青ざめた顔で顔を強張らせている。けれど私と目を合わせると意を決した様に兄さんに向き直って言った。
「確かに私の不手際がキッカケだと思います。葵さんとお見合いする時点で、あの男ときっぱり決着しておくべきでした。如月さんが怒るのも当然です。
葵さんを危険な状況にしてしまったのは、私自身も許せない思いです。でもハッキリしているのは、私は葵さんを愛してしまった。お兄さんが反対しても、葵さんと離れることは出来ません。」
兄さんの顔がますます険しくなって、チラッと私を見ると口を開いた。
「葵はこの傲慢な男をどう思っているんだ。自分の事も面倒を見れない男だぞ?家柄は良いかもしれないが、それだけだ。」
二人のアルファの男から見つめられて、こんなに緊迫した空気の中、私はクスッと笑ってしまった。そんな私の態度に、ギョッとした顔をしたのは兄さんだったけれど、政宗はすがる様な眼差しをして私を見つめた。
「…兄さんと政宗さんは似てるよね。二人とも我が強くて、強引で。後、私の事を大事に思ってくれてるところもそっくり。兄さん、私は兄さんが思うほど清廉潔白な人生を歩んできた訳じゃないよ。
確かに今回の事は、政宗さんがもっと上手に立ち回れただろうって思うし、馬鹿だなって思ったりもするけど。でもどんなに誠実に対応したって、相手がどう受け取るかなんて分からないから、正解なんてあるのかな。
私が通り過ぎて来た相手だって、もしかしたら私の事恨んでるかもしれない。愛情が分からなくて冷たい事をして来たって自覚はあるからね。
でもね、兄さん。政宗さんには、初めて温度を感じるんだ。だから、兄さんがどう感じようと、無理だよ。でも、心配してくれてありがとう。」
兄さんは落ち着かな気に腕を組むと、目を閉じてため息をついた。それからゆっくりと瞼を上げて、手を握り合った私と政宗を苦々し気に見つめて言った。
「…普段ほとんど何でも良いって言うくせに、時々強情になるとテコでも動かないんだから。…お前は運命の番を見つけたのか?」
政宗の、私よりも体温の高い手に指を絡ませて微笑んだ。
「どうかな。でもそうだったら良いなって思う。」
すると政宗は手をぎゅっと握って宣言した。
「私は葵さんが初恋なんです。それが運命じゃなくて何なんですか?」
流石にそれは思いもしない言葉だった。私が目を見開いて鼻息も荒い政宗を見ると、咽込んだ音がした。二人で兄さんの方を見ると、すっかり疲れた様子の兄さんが額に手を当てて大きくため息をついた。
「…流石にそれにコメントつけづらいな。葵、25歳になるまで恋も知らない男だぞ?後悔しないか?めちゃくちゃ束縛してくるかもしれないぞ?」
私はクスッと笑って、大真面目な政宗の顔を見つめて言った。
「なんか可愛いかも。うん、凄く可愛い。」
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