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婚約
政宗side怒りと後悔
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今や愛人とも言えない優一の事で、婚約者である葵と揉めるのは気に入らなかった。けれども婚約前に、はっきり優一との関係を断っておかなかった俺の怠慢が今の状況を引き起こしているのは明白だった。
「…優一の事ですよね?その時の事を詳しく教えて貰えませんか?先に言っておきますが、葵と婚約してからあいつとは会ってません。」
こんな風に言い訳じみた事を言い繕うなんて、今までの人生で経験が無かった。何をするにも文句を言わせなかったし、そこまで相手のことなど考えた事は無かった。それがアルファとしての傲慢だと言われればそれまでだが、自業自得なのだろうか。
けれど葵は婚約者なのだから、そこは別だ。だから俺は破談にならない様にこうして必死になっている…、はずだ。
「…どうして西園寺さんが私を睨むのか分からないけどね。私が西園寺さんと会いながら、同時に愛人とよろしくやっていた訳じゃないのに。」
政宗から西園寺へと呼び方が戻ってしまった事と、葵の半笑いの当て擦りに俺はカッとなって、気づけば言い返していた。
「俺だって同時進行してた訳じゃない!確かに見合い前に優一と都合の良い関係だったのは認めるが、愛人と言えるかも分からない関係だ。大体、骨の髄までしゃぶられる様な交わりをして、余所見をする程俺には体力も時間も無いですよ。
俺の婚約者は手加減などしてくれませんからね。」
誤解を生じさせた自分への怒りと、冷たい振る舞いをする葵へのむしゃくしゃした感情で、俺はつい言い過ぎてしまった。言ったそばから後悔して、気を悪くした筈の目の前の葵は、じわじわと顔を赤らめて顔を背けた。
「…私がそんなに見境ない様に思われてたなんて知らなかった。てっきり西園寺さんも楽しんでいるのかと思ってたけど、無理させてたみたいだね…。
私はもし西園寺さんが愛人を必要だと考えるなら、ちゃんと取り決めをした方が良いって思っただけだよ。お互いにフェアになる様に…。」
動揺している葵に手を伸ばしかけた俺はピクリと動きを止めた。無視できない事を葵が言ったからだ。
「…それは葵…さんが愛人を作るかもしれないって事ですか?」
冷たい怒りの感情が湧き上がって来て、俺はコントロール出来ないまま口を開いた。
「…はっ、葵さんは駄目でしょ。オメガなんだから。俺は自分の子か分からない子供を持つ気はありません。…ああ、そっか。葵さんの首を噛めば良いのか。そしたらそんな心配をする事も無いでしょう?俺としか交われなくなるんだから。」
さっき動揺して可愛いらしい反応をしていた筈の目の前の葵は、目を見開いた後に顔を歪めて自分の首を手で押さえた。その榛色の瞳の中に怯えと悲しみに似た何かが浮かんでいるのを見て、俺は一気に現実に引き戻された。
やってしまった。冷静さが売りだった俺なのに、大事な婚約者を怯えさせる様な酷い事を言ってしまった。俺は俯いて頭を掻きむしりながら呻いた。
「…こんな事を言いたかった訳じゃない。くそっ、俺は…。」
部屋が物音ひとつ立てない静けさに包まれていた。どうしたら挽回できるのかと頭の中はぐるぐる回るものの、全然良い考えは浮かばなかった。葵に取ってつけた様な言葉は響かない。
目の前の葵が少し身動きした気がして情け無い気持ちで顔を上げると、葵は困った表情を浮かべて微笑んだ。
「…落ち着いて、西園寺さん。私はアルファだろうが、オメガだろうが関係無しに、婚姻の条件を結ぶのならフェアにしたいって思っただけだよ。別に愛人を持ちたいって思った訳じゃないからね?
西園寺さんの言う通り、西園寺さんを骨の髄までしゃぶらせて貰って満足してるから、私も余力は無いよ。どっちかって言うとこれ以上相性の良い相手を見つける方が大変だなって思ったくらいなんだよ?」
こんな時に俺は葵が年上だと言う事をまざまざ思い知らされてしまう。俺の怒りや誤解をスルリと交わして、二人の関係がこれ以上拗れないようにしてくれるのだから。とは言え、俺の痛い失言を容赦なく突いてくる。やっぱり怒っているんだろうな。
俺は少しにじり寄って、葵の手をそっと握った。
「…酷い言い方をしてすみませんでした。同意もないのに噛むとか怖がらせる様な事を言って、どんな言い訳も出来ないってわかってます。でも言い訳させて貰えるなら、葵が愛人を持ちたいと言ったのかと思ってカッとなってしまって…。
葵と婚約してから、別の誰かとどうこうするなど、俺だって一度も考えませんでしたよ。正直言えば、こんなに満足したのは初めてなんです。葵が俺に満足してくれている様に、俺も満たされてる…。」
どう言葉にしても、俺の中で感じている全てを伝える事は出来ない気がした。けれど葵は微笑んで俺の手に指を絡ませて来た。
「婚約者として、西園寺さんが私の事をちゃんと扱ってくれている事に不満はないよ。十分満足させてくれるでしょう?私はどちらかと言うとあまり感情を揺さぶられるのは得意じゃないから、目に見える形の方が納得できるんだ。
だから今回、優一?って人に挑発されたのが、…うざい?そう、そんな感じだっただけ。でもあの画像をわざわざ見せつけられて、今考えると私じゃなければ修羅場ってやつになっていたんじゃないのかな。ああ、これも修羅場なの?ふふ、初めての経験だ。」
俺はまた眉を顰めて呑気に笑う葵に尋ねた。
「…画像?あいつそんなものをわざわざ葵に見せたって言うのか!やっぱり全部説明してください!場合によっては後始末しないと、葵に何かあったら後悔してもしきれないですから。」
追求の手を緩めない俺に折れて、葵は困った顔をしながらカフェでの一件を話してくれたのだった。予想より酷い画像じゃなかったのは幸いだったけれど、明らかに優一はやり過ぎた。
同時に葵がまんまと優一の挑発に乗った事に、どこか喜びを感じていたのも本当だった。握った葵の手を離さなかったのも、振り解かれない事に安心したかったからかもしれない。もう、怒ってない…よな?
「…優一の事ですよね?その時の事を詳しく教えて貰えませんか?先に言っておきますが、葵と婚約してからあいつとは会ってません。」
こんな風に言い訳じみた事を言い繕うなんて、今までの人生で経験が無かった。何をするにも文句を言わせなかったし、そこまで相手のことなど考えた事は無かった。それがアルファとしての傲慢だと言われればそれまでだが、自業自得なのだろうか。
けれど葵は婚約者なのだから、そこは別だ。だから俺は破談にならない様にこうして必死になっている…、はずだ。
「…どうして西園寺さんが私を睨むのか分からないけどね。私が西園寺さんと会いながら、同時に愛人とよろしくやっていた訳じゃないのに。」
政宗から西園寺へと呼び方が戻ってしまった事と、葵の半笑いの当て擦りに俺はカッとなって、気づけば言い返していた。
「俺だって同時進行してた訳じゃない!確かに見合い前に優一と都合の良い関係だったのは認めるが、愛人と言えるかも分からない関係だ。大体、骨の髄までしゃぶられる様な交わりをして、余所見をする程俺には体力も時間も無いですよ。
俺の婚約者は手加減などしてくれませんからね。」
誤解を生じさせた自分への怒りと、冷たい振る舞いをする葵へのむしゃくしゃした感情で、俺はつい言い過ぎてしまった。言ったそばから後悔して、気を悪くした筈の目の前の葵は、じわじわと顔を赤らめて顔を背けた。
「…私がそんなに見境ない様に思われてたなんて知らなかった。てっきり西園寺さんも楽しんでいるのかと思ってたけど、無理させてたみたいだね…。
私はもし西園寺さんが愛人を必要だと考えるなら、ちゃんと取り決めをした方が良いって思っただけだよ。お互いにフェアになる様に…。」
動揺している葵に手を伸ばしかけた俺はピクリと動きを止めた。無視できない事を葵が言ったからだ。
「…それは葵…さんが愛人を作るかもしれないって事ですか?」
冷たい怒りの感情が湧き上がって来て、俺はコントロール出来ないまま口を開いた。
「…はっ、葵さんは駄目でしょ。オメガなんだから。俺は自分の子か分からない子供を持つ気はありません。…ああ、そっか。葵さんの首を噛めば良いのか。そしたらそんな心配をする事も無いでしょう?俺としか交われなくなるんだから。」
さっき動揺して可愛いらしい反応をしていた筈の目の前の葵は、目を見開いた後に顔を歪めて自分の首を手で押さえた。その榛色の瞳の中に怯えと悲しみに似た何かが浮かんでいるのを見て、俺は一気に現実に引き戻された。
やってしまった。冷静さが売りだった俺なのに、大事な婚約者を怯えさせる様な酷い事を言ってしまった。俺は俯いて頭を掻きむしりながら呻いた。
「…こんな事を言いたかった訳じゃない。くそっ、俺は…。」
部屋が物音ひとつ立てない静けさに包まれていた。どうしたら挽回できるのかと頭の中はぐるぐる回るものの、全然良い考えは浮かばなかった。葵に取ってつけた様な言葉は響かない。
目の前の葵が少し身動きした気がして情け無い気持ちで顔を上げると、葵は困った表情を浮かべて微笑んだ。
「…落ち着いて、西園寺さん。私はアルファだろうが、オメガだろうが関係無しに、婚姻の条件を結ぶのならフェアにしたいって思っただけだよ。別に愛人を持ちたいって思った訳じゃないからね?
西園寺さんの言う通り、西園寺さんを骨の髄までしゃぶらせて貰って満足してるから、私も余力は無いよ。どっちかって言うとこれ以上相性の良い相手を見つける方が大変だなって思ったくらいなんだよ?」
こんな時に俺は葵が年上だと言う事をまざまざ思い知らされてしまう。俺の怒りや誤解をスルリと交わして、二人の関係がこれ以上拗れないようにしてくれるのだから。とは言え、俺の痛い失言を容赦なく突いてくる。やっぱり怒っているんだろうな。
俺は少しにじり寄って、葵の手をそっと握った。
「…酷い言い方をしてすみませんでした。同意もないのに噛むとか怖がらせる様な事を言って、どんな言い訳も出来ないってわかってます。でも言い訳させて貰えるなら、葵が愛人を持ちたいと言ったのかと思ってカッとなってしまって…。
葵と婚約してから、別の誰かとどうこうするなど、俺だって一度も考えませんでしたよ。正直言えば、こんなに満足したのは初めてなんです。葵が俺に満足してくれている様に、俺も満たされてる…。」
どう言葉にしても、俺の中で感じている全てを伝える事は出来ない気がした。けれど葵は微笑んで俺の手に指を絡ませて来た。
「婚約者として、西園寺さんが私の事をちゃんと扱ってくれている事に不満はないよ。十分満足させてくれるでしょう?私はどちらかと言うとあまり感情を揺さぶられるのは得意じゃないから、目に見える形の方が納得できるんだ。
だから今回、優一?って人に挑発されたのが、…うざい?そう、そんな感じだっただけ。でもあの画像をわざわざ見せつけられて、今考えると私じゃなければ修羅場ってやつになっていたんじゃないのかな。ああ、これも修羅場なの?ふふ、初めての経験だ。」
俺はまた眉を顰めて呑気に笑う葵に尋ねた。
「…画像?あいつそんなものをわざわざ葵に見せたって言うのか!やっぱり全部説明してください!場合によっては後始末しないと、葵に何かあったら後悔してもしきれないですから。」
追求の手を緩めない俺に折れて、葵は困った顔をしながらカフェでの一件を話してくれたのだった。予想より酷い画像じゃなかったのは幸いだったけれど、明らかに優一はやり過ぎた。
同時に葵がまんまと優一の挑発に乗った事に、どこか喜びを感じていたのも本当だった。握った葵の手を離さなかったのも、振り解かれない事に安心したかったからかもしれない。もう、怒ってない…よな?
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