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婚約

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 噛み付くような口づけを受けながら、一体いつから西園寺はこんな遠慮のない口づけを仕掛けるようになったのかとぼんやり考えた。けれども気を散らしていられるほど、西園寺との交わりは余裕が無かった。

 大きな手が私の肌を撫でて胸の先端を押し潰すだけで、私はとっくに昂った自分自身をビクビクさせてしまう。少し痛いくらいに無防備な脇を掴まれて、そんなところまで感じるのかと呻き声を西園寺の口の中に解き放った。

 拘束された手首が後で痛むかもしれないと思いながらも、こうして自由が効かない愛撫が思いの外自分好みだと教えてくれたのも西園寺だった。


 疼く昂りを硬い腹に押し付けようと腰を揺らすと、喉奥で笑った西園寺が不意に私自身を自分の凶悪なそれで押しつぶして揺らした。その重量と硬さの存在感に攻め上げられて、私は息を呑んで西園寺を見上げた。

 私を見つめるアルファらしい傲慢な眼差しは、それでも熱を帯びて見えて、調子に乗った私は太腿を持ち上げて西園寺の腰に足を絡めた。

 擦り上げたその体勢に息を呑んだ西園寺にしてやったりと笑みを送ると、西園寺が目を細めて私の胸へ舌を伸ばした。


 感じやすいとバレているその場所は、西園寺と寝るようになって何故か存在感を増した。それは西園寺にも気づかれていて、ますます私の胸の天辺を育てようといたずらに執拗な愛撫を増やした。

 部屋に響く自分の甘える様なあられも無い声にますます体温が上がって、すっかり汗ばんだ身体が次の愛撫を強請った。西園寺の猛り切ったそれで何度も濡れた窄みを撫でられて、私は自分の後ろで卑猥な水音が大きくなるのを自覚した。


 「早く挿れて…っ!」

 どうしても我慢できずに、私は今日も負けて強請ってしまった。

「…葵さんは本当堪え性が無いですね。匂いも凄いが、こんなに吸い付く様に誘われたら挿れない訳にいかなくなるで…、しょっ!」

 そう呟いた西園寺は、拘束された私の中へ凶悪なそれを一気にぶち込んだ。目を見開いて息を止めてしまうその圧迫感と快感に、私はゾクゾクと全身を粟立てる。経験のないその感覚は西園寺と交わる時だけに感じるものだった。

 私の喉元のネックガードに額を押し付けた西園寺が、苦しげに息を呑むのもまたいつもの事だった。私たちは苦しいほどの快感に翻弄されて、あとは獣の様に何も考えずに身体をぶつけ合った。


 たまにはゆっくりと楽しみたいのに、相性が良過ぎるのか、それともこれは見方を変えれば悪いのかもしれないけれど、私達は休む暇なく絶頂へと駆け上がる。

 吐き出しに吠える西園寺の喉の音を押し付けられた頬で感じながら、私もまた仰け反って震えが止まらない。最近は私の中へ欲望を塗りつける西園寺のせいで避妊薬が手放せないけれど、私もそれを望んでしまうのだから仕方がない。

 それとも婚約者の同士の油断なのだろうか。今までの相手とは避妊薬を飲んでいたとしても、避妊具無しで事に当たることなど経験が無いのだから。


 重なった身体を少しずらしてドサリと言葉なくベッドに横たわる私たちは、顔を逸らして目を合わせない。だからお互いに何を感じているのか知る事もない。けれどまだ私の中にある西園寺の長いそれがビクリと動くと、余韻を味わう身体が目覚めさせられて呻いてしまう。

 それから当然の様にうつ伏せられて、私たちはまた長い交歓を始める。ああ、アルファの中でも西園寺は本当絶倫だ。私は何処か諦めに似た気持ちで西園寺の濃厚な匂いに包まれて、この終わらない交わりを楽しんだ。



 「…さん、葵さん…。」

 意識を飛ばしていたのか、気づけばシャツを羽織った西園寺に声を掛けられていた。私は気怠いけれど、何処かスッキリした体調を感じながら仰向けた。

 目の前でシャツのボタンを片手で器用にはめていく西園寺の髪が濡れているのを見て、もう時間なのかとベッドサイドの時計を見た。

「葵さんは明日のチェックアウトまで自由にしてもらって良いですから。ルームサービスも好きなだけ頼んでください。もちろんホテルのレストランで食事しても良いですし。俺はもう行かないと。結構ギリギリだ。」

 そう言いながらも、ネクタイを締める西園寺の癖のある長めの髪がまだ湿っているのを見つめながら、私はポツリと呟いた。


 「髪、もっと短くしたら?乾かさなくて済むように。」

 西園寺はジャケットを持ち上げる手を止めると、ベッドに転がる私を見つめた。何を考えているのかわからないその眼差しに、何だか余計な事を言ってしまった気がして、私は思わず謝った。

「ごめん。余計な事だったね。…お言葉に甘えてこっちは適当に過ごさせて貰うね。ホテルで朝食食べて帰るのも良いかもしれない。ここの庭園は眺めが素敵だから。」

 そう言って微笑むと、ぎこちない仕草でジャケットを羽織った西園寺は、一瞬の間の後、頷いて部屋を出て行った。


 私はドアがカチリと鳴ると、大きく伸びをして窓いっぱいに広がる夕方から夜になり始めた都会のビル群を眺めた。ああ、お腹空いた。誰か呼び出してホテルで食事でもしようか。

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