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害のない男
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またこの部屋に来てしまった。キッチンに立って機嫌良さげに料理を作る男を眺めながら、ルイはワンルームながら自分の部屋より広い一人暮らしの部屋を眺めた。この部屋が居心地が良いのは単純に広いからだけとは言えないけれど、それも理由のひとつだろう。
手持ち無沙汰なルイは、窓際に立って暗くなってきた街の景色を眺める。この部屋は大手デベロッパーの賃貸マンションだけあって、周囲の環境は悪くない。都心から立地が良いのに住宅地というせいもあって静かな環境だ。
立地が良い場所だと、どうしても目の前に他の建物の窓があるというイメージがあったけれど、戸建ての中に時々建っている低層マンションという具合で圧迫感などは無かった。
「ここって家賃高いでしょ?便利なのに環境いいもん。」
そう幸太郎に話し掛けると、鍋を木ベラでかき混ぜながら幸太郎は顔を上げた。
「うちの会社、住宅手当が手厚いから有難いよ。そうじゃなきゃこんな便利な場所に住むのは無理だな。まぁ会社の近くに住んで残業よろしくかもしれないけどね。」
ルイはクスッと笑いながら自分の会社の住宅手当のしょぼさを呪った。出ないよりは良いけれど、15000円というのは微妙な気がする。
「え、幾ら出る?僕のとこは15000円しか出ない。気に入ったところ見つけるの結構苦労したんだよね。」
「有難い事に5万円出るんだ。うちはコンサル系だから仕事量は給料で相殺されるって感じ。琉偉のあのマンションも住みやすそうだったな。川が近いから週末楽しそうだ。」
家賃補助の厚さに目を見開いて、ルイは窓際を離れてダイニングテーブルの椅子の背を指の腹で撫でながらドサリと座った。この椅子も名前があるものでは無いけれど、悪くない。前回は気が付かなかったけれど、ちゃんと選んである感じが好感が持てる。
「マジで?いーな。確かにそれだけ手当出るなら結構選べるよね。僕はリモート有りだし、残業も言うほどじゃないから不満言う立場に無いかもしれない。結局稼ぎたかったら仕事しろってね?」
面白そうに口元を上げる幸太郎が鍋から離れて、冷蔵庫からビールを出すとルイに手渡した。
「ごめん、先に出せば良かったな。」
冷えたビールを開けると美味しさの約束された音が部屋に響いた。
「カレー楽しみだな、乾杯。」
「任せろ。メーカーの研究の成果の傑作のルーが全てを解決してくれる。旨いのは保証付きだ。」
仰々しい幸太郎の言い回しに思わず笑って、ルイは機嫌良く泡の喉越しを楽しんだ。自分がすっかりこうして楽しんでしまっている事に気づかない訳にいかない。思わずルイはチラッと幸太郎に目をやった。
「何?」
幸太郎はルイの眼差しに答えて尋ねて来た。ルイはこの男の怖いところはこう言う所だと思った。目の前に用意された小皿の中のカシューナッツを摘んで口に放り込むと渋々答える。
「なんかすっかり距離縮められちゃったなって思ってさ。僕、本来はセフレとはこう言う付き合いしないんだけど。」
すると幸太郎は黙ってゴクゴクとビールを喉に流し込むと、炭酸に顔を顰めて真っ直ぐに視線を合わせて呟いた。
「こう言う事は今言うべきじゃ無いのかもしれないけど、俺はセフレになる気はないよ。琉偉とちゃんと付き合いたい。…琉偉は気が重い?でも一緒に居てリラックスしてくれてる気がするけど。」
幸太郎の発言は驚くような事じゃ無かった。そう言われてもおかしくないと思ってたからだ。そう言われる可能性を感じながらも、ルイ自身幸太郎を受け入れてしまっていたのが答えだったのかもしれない。
ルイは何を考えているのか分からない、いつもより感情を殺した幸太郎を探るように見つめながら呟いた。
「そっか。そうかもね。リラックスしてるってのは正直当たってる。趣味も合うし、幸太郎って嫌な所が無いからさ。あっちの相性は勿論言う事ないし。
…でも付き合うって何?今と何か変わる?」
「…琉偉っぽい答えだな。良いよ、特に今と変えなくて。ただ、他の奴を味見しないで欲しい。それさえ約束してくれたら、難しい事考えなくて良いから、こうしてデートしてこれからも会いたい。」
ルイは何処かホッとした気持ちで、幸太郎の浮かべた困った様な笑みを見つめた。
幸太郎の何を考えているのか分からないさっきみたいな表情を見るのは何処か不安を感じるけれど、こうしていつもみたいに分かりやすい雰囲気を醸し出してくれるとホッとする。
その時コンロのタイマーが鳴って、幸太郎は慌てて立ち上がった。さっきの話はこれで終わり…かな。幸太郎オススメのカレールーの講釈を受けてから、それから待つ間も無く食事になった。
「へぇ、確かにこのルーはスパイス効いてるんだ。僕いつも他のルーにガラムラサラ足してたけど、必要ないかも。」
「…やっぱり琉偉は料理得意なんだな。俺もちょっと特訓して琉偉の事びっくりさせたいなぁ。」
そう言いながら幸太郎は食事の手を休めない。そんな食欲旺盛さも何処かあの性欲の強さに繋がっている気がして、ルイはニンマリしてしまった。
「何?」
「何でもない。美味しいと思っただけ。立派なカレー作れたら料理得意って言っても良いんじゃない?」
「琉偉が美味しいって言ってくれたら、及第点って事で俺も十分満足。家に誘っておいておもてなしも出来なかったら振られちゃうし。」
ルイはチラリと幸太郎と目を合わせながら、思い切って言った。
「あのさ、言っておくけど僕こう感じ初めてだから。あんまり期待しないでね。」
幸太郎はルイの言葉を解読しようと動きを止めた。これ以上の気まずさに耐えきれずに、ルイは言葉を重ねた。
「だから、今まで付き合うとかした事ないって事!以上!」
幸太郎が分かりやすく満面の笑みを浮かべるのを、ルイは思わず口を尖らせて睨みつけた。やっぱり余計な事言わなければ良かった!
手持ち無沙汰なルイは、窓際に立って暗くなってきた街の景色を眺める。この部屋は大手デベロッパーの賃貸マンションだけあって、周囲の環境は悪くない。都心から立地が良いのに住宅地というせいもあって静かな環境だ。
立地が良い場所だと、どうしても目の前に他の建物の窓があるというイメージがあったけれど、戸建ての中に時々建っている低層マンションという具合で圧迫感などは無かった。
「ここって家賃高いでしょ?便利なのに環境いいもん。」
そう幸太郎に話し掛けると、鍋を木ベラでかき混ぜながら幸太郎は顔を上げた。
「うちの会社、住宅手当が手厚いから有難いよ。そうじゃなきゃこんな便利な場所に住むのは無理だな。まぁ会社の近くに住んで残業よろしくかもしれないけどね。」
ルイはクスッと笑いながら自分の会社の住宅手当のしょぼさを呪った。出ないよりは良いけれど、15000円というのは微妙な気がする。
「え、幾ら出る?僕のとこは15000円しか出ない。気に入ったところ見つけるの結構苦労したんだよね。」
「有難い事に5万円出るんだ。うちはコンサル系だから仕事量は給料で相殺されるって感じ。琉偉のあのマンションも住みやすそうだったな。川が近いから週末楽しそうだ。」
家賃補助の厚さに目を見開いて、ルイは窓際を離れてダイニングテーブルの椅子の背を指の腹で撫でながらドサリと座った。この椅子も名前があるものでは無いけれど、悪くない。前回は気が付かなかったけれど、ちゃんと選んである感じが好感が持てる。
「マジで?いーな。確かにそれだけ手当出るなら結構選べるよね。僕はリモート有りだし、残業も言うほどじゃないから不満言う立場に無いかもしれない。結局稼ぎたかったら仕事しろってね?」
面白そうに口元を上げる幸太郎が鍋から離れて、冷蔵庫からビールを出すとルイに手渡した。
「ごめん、先に出せば良かったな。」
冷えたビールを開けると美味しさの約束された音が部屋に響いた。
「カレー楽しみだな、乾杯。」
「任せろ。メーカーの研究の成果の傑作のルーが全てを解決してくれる。旨いのは保証付きだ。」
仰々しい幸太郎の言い回しに思わず笑って、ルイは機嫌良く泡の喉越しを楽しんだ。自分がすっかりこうして楽しんでしまっている事に気づかない訳にいかない。思わずルイはチラッと幸太郎に目をやった。
「何?」
幸太郎はルイの眼差しに答えて尋ねて来た。ルイはこの男の怖いところはこう言う所だと思った。目の前に用意された小皿の中のカシューナッツを摘んで口に放り込むと渋々答える。
「なんかすっかり距離縮められちゃったなって思ってさ。僕、本来はセフレとはこう言う付き合いしないんだけど。」
すると幸太郎は黙ってゴクゴクとビールを喉に流し込むと、炭酸に顔を顰めて真っ直ぐに視線を合わせて呟いた。
「こう言う事は今言うべきじゃ無いのかもしれないけど、俺はセフレになる気はないよ。琉偉とちゃんと付き合いたい。…琉偉は気が重い?でも一緒に居てリラックスしてくれてる気がするけど。」
幸太郎の発言は驚くような事じゃ無かった。そう言われてもおかしくないと思ってたからだ。そう言われる可能性を感じながらも、ルイ自身幸太郎を受け入れてしまっていたのが答えだったのかもしれない。
ルイは何を考えているのか分からない、いつもより感情を殺した幸太郎を探るように見つめながら呟いた。
「そっか。そうかもね。リラックスしてるってのは正直当たってる。趣味も合うし、幸太郎って嫌な所が無いからさ。あっちの相性は勿論言う事ないし。
…でも付き合うって何?今と何か変わる?」
「…琉偉っぽい答えだな。良いよ、特に今と変えなくて。ただ、他の奴を味見しないで欲しい。それさえ約束してくれたら、難しい事考えなくて良いから、こうしてデートしてこれからも会いたい。」
ルイは何処かホッとした気持ちで、幸太郎の浮かべた困った様な笑みを見つめた。
幸太郎の何を考えているのか分からないさっきみたいな表情を見るのは何処か不安を感じるけれど、こうしていつもみたいに分かりやすい雰囲気を醸し出してくれるとホッとする。
その時コンロのタイマーが鳴って、幸太郎は慌てて立ち上がった。さっきの話はこれで終わり…かな。幸太郎オススメのカレールーの講釈を受けてから、それから待つ間も無く食事になった。
「へぇ、確かにこのルーはスパイス効いてるんだ。僕いつも他のルーにガラムラサラ足してたけど、必要ないかも。」
「…やっぱり琉偉は料理得意なんだな。俺もちょっと特訓して琉偉の事びっくりさせたいなぁ。」
そう言いながら幸太郎は食事の手を休めない。そんな食欲旺盛さも何処かあの性欲の強さに繋がっている気がして、ルイはニンマリしてしまった。
「何?」
「何でもない。美味しいと思っただけ。立派なカレー作れたら料理得意って言っても良いんじゃない?」
「琉偉が美味しいって言ってくれたら、及第点って事で俺も十分満足。家に誘っておいておもてなしも出来なかったら振られちゃうし。」
ルイはチラリと幸太郎と目を合わせながら、思い切って言った。
「あのさ、言っておくけど僕こう感じ初めてだから。あんまり期待しないでね。」
幸太郎はルイの言葉を解読しようと動きを止めた。これ以上の気まずさに耐えきれずに、ルイは言葉を重ねた。
「だから、今まで付き合うとかした事ないって事!以上!」
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