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祥一朗side不穏な空気
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研究室へ向かって戻りながら、私は最近の雪弥の実験は案外上手くいってることを思い起こしていた。雪弥は色々な事を知らないだけで、基本ソツがないんだ。
生い立ちが複雑だったせいか、それとも生来のたちなのか、雪弥は物事に囚われるということがない。執着がないと言えば良いように思われるが、今までは自分にも、周囲にも関心が無かったとも言えるのだろう。
非常に初心で子供っぽい一方、妙に達観しているような大人びた一面もあり、雪弥は掴みどころがない。そんな雪弥に私はひどく惹かれているんだ。
その雪弥が熱心さを表すのは、この一連の実験だ。自分のあるべき姿と今の雪弥の置かれている状況との乖離が、雪弥を実験にのめり込ませているのだろう。ただ、この実験には高山助教授がかかわっているのが、俺には心配の種だ。
雪弥を柔らかく見つめる眼差しの奥に潜む熱い気持ちが日に日に増していくのを、私は自分自身が雪弥と関係するまでそうであったから分かるのだが、似たようなものを感じるのだ。私はひとつため息をついて、気持ち足を早めた。
研究室に入ると、実験室の外に桐谷さんが心配そうに扉を見つめていた。私は雪弥の姿を探したがどこにもいない。悪い予感に私は桐谷さんを振り切って実験室の扉を開けた。
目の前には高山助教授と雪弥が向かい合いってコーヒーを飲んでいた。その光景にほっとしたものの、しかし、この部屋に漂う雪弥と高山助教授のフェロモンの濃さに、私は奥歯をギシリと鳴らした。
雪弥は私を見て嬉しそうに立ち上がると、今日はもう実験は終わったんだと私に言った。挨拶をして実験室を出て行く時に目の端に映った、高山助教授のあの笑みが妙に気になった。
キャンパス内を手を繋ぎながら、雪弥は足取りも軽く歩きながら実験の進み具合について私に色々話してくれた。しかし、いつもより雪弥が饒舌過ぎる気がして、私はアイスが食べたいと言う雪弥を横目で見ながら考え込んでいた。
「鱗川、今日は雪弥くんの付き添いだったのか?」
こんな時に邪魔してくるのは、さすがと言うかアンテナ感度の良い鷹見だ。鷹見の後ろには熊谷もいる。私は面倒な奴らに会ってしまったと思った。
雪弥はなぜか熊谷に妙に懐いているからだ。オープンキャンパスの時に会って話しただけらしいが、雪弥は熊谷の雰囲気が好きらしい。何でも森のクマさんだとか言われたけれど、別に熊谷は森に住んでるわけではない。
時々雪弥はこんな所があって、それもまた私たちが振り回される一因なんだ。
「こんにちは、熊谷さん、鷹見さん。お元気でしたか?」
そう言って微笑む雪弥に二人がデレついてるのも、周囲の大学生たちが足を止めて眺めるのも、しょうがないとは思うが、どうにかならないかと頭が痛い。
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雪弥を柔らかく見つめる眼差しの奥に潜む熱い気持ちが日に日に増していくのを、私は自分自身が雪弥と関係するまでそうであったから分かるのだが、似たようなものを感じるのだ。私はひとつため息をついて、気持ち足を早めた。
研究室に入ると、実験室の外に桐谷さんが心配そうに扉を見つめていた。私は雪弥の姿を探したがどこにもいない。悪い予感に私は桐谷さんを振り切って実験室の扉を開けた。
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雪弥は私を見て嬉しそうに立ち上がると、今日はもう実験は終わったんだと私に言った。挨拶をして実験室を出て行く時に目の端に映った、高山助教授のあの笑みが妙に気になった。
キャンパス内を手を繋ぎながら、雪弥は足取りも軽く歩きながら実験の進み具合について私に色々話してくれた。しかし、いつもより雪弥が饒舌過ぎる気がして、私はアイスが食べたいと言う雪弥を横目で見ながら考え込んでいた。
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