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俺が譲れる事は

高山side希望の復活

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 私が放ったフェロモンは、確かに黒崎君に効いた…はずだ。マーキングの壁を越えて、むせかえる様な雪弥君の甘いフェロモンを確かに感じた。そして染み出していたオーラもキラキラと輝くように瞬時に強くなったのだから。

 なのに、当人の黒崎君は何も無かった様な顔をして私の前で平然としている。本人が言っていた自分ではフェロモンもオーラも分からないと言うのは本当なんだろう。どちらかと言うと、マナー違反の私を殺気の籠った眼差しで睨みつける取り巻きたちが、多少煽られている様だった。


 私はその場で笑い出したい気分だった。もしかしたら目の前の高校生が、自分にとっての伯父の様な一生をかけた、心を焼き尽くすような相手なのかもしれないのだ。それは微かな希望だった。

 けれども18年間満たされない羨望の感情、それをただ持て余していた私は、僅かな希望にさえ心が震えた。

 最近は、周囲の身を固めろとせっつくプレッシャーに、ともすれば流されてしまおうかと、性別関係なしにデートを繰り返していたほどだ。どんなに良いとされる相手でも、あの幼い日に感じた伯父たちの熱い関係にはほど遠く、いっそ偽装結婚でもしたほうが、お互いを傷つけ合わずに済むからマシなのかもしれないと思い始めていた。


 私のこの羨望に気づいていた父親が、時々何か言いたげに言葉を濁すことがある。そう言えば一度、私が大学院の頃に、一緒に酒を飲みながら伯父のことを話してくれたことがあった。

「…雅が私の兄の慶一郎と白山くんとの関係を憧れを持って見ているのは何となく分かるんだ。一見あの二人は鎖でがんじがらめになっているんじゃないかって錯覚しそうな時があるくらい、あらゆる面で深く繋がっている二人だから。

 慶一郎にとっては、白山くんは絶対だ。仕事も、家族も、それこそ自分自身さえも、白山くんより優先順位は低い。その献身は美しささえ感じるかもしれない。ただ、私が慶一郎の側で見てきた二人の状況は、決して綺麗事だけでは無かったんだよ。


 あの通り、白山くんは多くの人間を魅了する。そして、慶一郎のようにタフな人間ばかりだ。慶一郎は白山くんを唯一無二に思っていても、白山くんの方は慶一郎を唯一無二にしてはくれない。出来ないんだ。それこそが白山くんであり、絶滅危惧種の宿命なのだから。

 だから雅、お前が慶一郎を羨ましいと思っていても、慶一郎自身は解決しない葛藤をも、一生抱え続けているって事を覚えておいて欲しい。誰にでも美しい人生が完璧に用意されるわけじゃない。ただ、自分の人生を美しいと思うかどうかは自分次第だと言う事だ。」

 父はそう言って、感情を見せない顔で微笑んだ。


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