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俺が譲れる事は

よろしくお願いします

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俺は少々緊張して研究室の扉の前に立っていた。隣には祥一朗が、安心させるように俺の手を握って扉をノックした。

「失礼します。1年の鱗川です。」

扉に慌てた様な足音が近づいて来ると、背が高くてスラリとした優しげな学生らしき人物が扉を開けてくれた。

「ああ、よく来てくれたね。先生から話は聞いてるよ。入ってくれ。」


その学生らしき人は俺らをモダンな応接ソファまで連れて行くと、座るように言った。数人の研究生らしき学生たちがこちらを興味深々でチラチラ見ているのがわかった。それでも寮や街中での不躾な視線とは違って、ある意味研究対象への視線のような気がしたのは気のせいだろうか。あるいは隣にいる、ある意味有名人である、後輩、鱗川祥一朗への視線なのだろうか。

「あー、横山くん。お客さんにコーヒー入れてもらっても良いかな?」

俺たちを接待してくれてる学生はこの研究室を取り仕切ってるようで、テキパキと指示を出しながら、俺たちに向き直った。


「紹介が遅れたね。はじめまして。僕はこの研究室のゼミをまとめている、院生2年の桐谷省吾です。高山助教授は少し遅れるってさっき連絡が来たので、しばらく僕がお相手がてら、研究室の案内をするよ。あ、ありがとう、横山くん。」

良い香りのするコーヒーを運んで来てくれたのは、俺と背格好の似ている好奇心でいっぱいのクリクリとした眼差しの男子学生だった。

「どうぞ。」

横山くんと呼ばれたその学生は俺をじっと見つめた後、祥一朗を見つめて赤くなった。うん?もしかしてそっち?俺はあからさまに祥一朗に気がある素振りをするこの学生に、ちょっとモヤモヤしてしまった。横山くんが立ち去っても、俺は今まで感じたことのない嫌な気持ちでいた。


「ふふ、応明大きっての氷のプリンスと名高い鱗川君が、そんなに嬉しそうな顔をしてるのはレアかもしれないね。黒崎くん、うちの横山がパートナーの鱗川くんに、ぶしつけな秋波を送って悪かったね。あの子は頭の回転は良いんだけどちょっと幼い面が有るから。本人に悪気はないんだけど、素直すぎるっていうか。」

そう言って困った顔で言った桐谷さんに、俺は少々面白くない空気を出しすぎたのかと反省した。とはいえ、祥一朗は俺がツンとしてコーヒーをひと口飲むと、それを待っていたかのように手を優しく握って言った。

「雪弥がそんなに妬いてくれるなら、ここに一緒に来た甲斐があるってものだ。」

俺はドギマギと醜態を晒して、焦って祥一朗と桐谷さんを交互に見たものだから2人は堪えきれないように笑った。うー、酷い。…俺って今、嫉妬してたの?


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