89 / 187
雪豹として
目の前の母親
しおりを挟む
俺は母親の入れてくれた紅茶を飲みながら、久しぶりに会う母親の顔を見つめた。よく考えると、この人とちゃんと向き合ったことなんてあっただろうか。
小学校時代は、たぶん人とは違う育ち方をしてることにも気づかなかった。参観日などにはきっちり顔を出していたし、世間から見ても「良い母親」だったんだろう。姉貴も母親とは、今思えば距離を取っていたせいで、俺はそれが普通の家族の在り方だと思っていた。
俺にまとわりつく世間の視線が鬱陶しかったせいで、小学校高学年から俺は他人と距離を取っていたし、友人と呼べるほどの距離感の人間は居なかった。
中学へ上がると尚のこと、周囲の過剰までの関心が俺を滅入らせていた。秋良たちはそんな俺に、付かず離れずの程よい干渉で接してくれた。アイツらが側にいると他の奴らが近づかないので、ある意味俺は利用していたんだ。
そして今回の発情期以来、俺は人間同士の親密さというものを知ってしまった。そして向けられる愛情と、俺から与える感情も。知ってしまうと、この家にそれに似たものが一切存在しなかった事に気付かされる。
俺は本当に目の前の母親の子供なんだよな…?顔はよく似てるけれど。似てると言えば、姉貴を含め血が繋がって居るのは間違いないんだろうけど。
俺の疑問は目の前の「俺の母親」にぶつけても、ちゃんと答えが返ってくるのかなと、俺は一抹の不安を感じていた。
「俺、電話では話したけど、発情期で髪が銀色に変わっちゃったんだ。俺って、もしかして父親の雪豹系なのかな。」
母親は感情の読めない顔で俺を見つめた。そして俺の髪を見ると言った。
「その髪は誰かに染めてもらったの?」
俺は髪に手を当てると聖の秘密を守れる知人に頼んで、開店前にやってもらった話をした。母親は、さっき俺が紹介した聖を思い出したようで、呟いた。
「…古虎聖さんね。古虎家は由緒ある武道の家だわ。聖さんは本家筋ではないけれど、確か道場は持っていたと思う。彼はアマチュアだけど、プロになる気はあるのかしら?」
俺は母親が俺も知らない友人の細かい事情を知ってる事に驚いた。
「あいつの家って、道場なの?全然そんな事言ってなかったな。あー、プロにはなるかも。俺のこと守るのに必要ならプロ入りするとか言ってた。…ていうか、友達の話は今は良いんだよ。俺自身の話が聞きたいんだ。母さん。」
母親はもう一度紅茶を飲むと品の良い仕草でソーサーにカップを戻すと言った。
「最初に言っておくわ。私を恨まないで欲しいの。」
小学校時代は、たぶん人とは違う育ち方をしてることにも気づかなかった。参観日などにはきっちり顔を出していたし、世間から見ても「良い母親」だったんだろう。姉貴も母親とは、今思えば距離を取っていたせいで、俺はそれが普通の家族の在り方だと思っていた。
俺にまとわりつく世間の視線が鬱陶しかったせいで、小学校高学年から俺は他人と距離を取っていたし、友人と呼べるほどの距離感の人間は居なかった。
中学へ上がると尚のこと、周囲の過剰までの関心が俺を滅入らせていた。秋良たちはそんな俺に、付かず離れずの程よい干渉で接してくれた。アイツらが側にいると他の奴らが近づかないので、ある意味俺は利用していたんだ。
そして今回の発情期以来、俺は人間同士の親密さというものを知ってしまった。そして向けられる愛情と、俺から与える感情も。知ってしまうと、この家にそれに似たものが一切存在しなかった事に気付かされる。
俺は本当に目の前の母親の子供なんだよな…?顔はよく似てるけれど。似てると言えば、姉貴を含め血が繋がって居るのは間違いないんだろうけど。
俺の疑問は目の前の「俺の母親」にぶつけても、ちゃんと答えが返ってくるのかなと、俺は一抹の不安を感じていた。
「俺、電話では話したけど、発情期で髪が銀色に変わっちゃったんだ。俺って、もしかして父親の雪豹系なのかな。」
母親は感情の読めない顔で俺を見つめた。そして俺の髪を見ると言った。
「その髪は誰かに染めてもらったの?」
俺は髪に手を当てると聖の秘密を守れる知人に頼んで、開店前にやってもらった話をした。母親は、さっき俺が紹介した聖を思い出したようで、呟いた。
「…古虎聖さんね。古虎家は由緒ある武道の家だわ。聖さんは本家筋ではないけれど、確か道場は持っていたと思う。彼はアマチュアだけど、プロになる気はあるのかしら?」
俺は母親が俺も知らない友人の細かい事情を知ってる事に驚いた。
「あいつの家って、道場なの?全然そんな事言ってなかったな。あー、プロにはなるかも。俺のこと守るのに必要ならプロ入りするとか言ってた。…ていうか、友達の話は今は良いんだよ。俺自身の話が聞きたいんだ。母さん。」
母親はもう一度紅茶を飲むと品の良い仕草でソーサーにカップを戻すと言った。
「最初に言っておくわ。私を恨まないで欲しいの。」
21
お気に入りに追加
1,204
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません
ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。
俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。
舞台は、魔法学園。
悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。
なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…?
※旧タイトル『愛と死ね』
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
僕はただの平民なのに、やたら敵視されています
カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。
平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。
真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる