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雪豹として

目の前の母親

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俺は母親の入れてくれた紅茶を飲みながら、久しぶりに会う母親の顔を見つめた。よく考えると、この人とちゃんと向き合ったことなんてあっただろうか。

小学校時代は、たぶん人とは違う育ち方をしてることにも気づかなかった。参観日などにはきっちり顔を出していたし、世間から見ても「良い母親」だったんだろう。姉貴も母親とは、今思えば距離を取っていたせいで、俺はそれが普通の家族の在り方だと思っていた。


俺にまとわりつく世間の視線が鬱陶しかったせいで、小学校高学年から俺は他人と距離を取っていたし、友人と呼べるほどの距離感の人間は居なかった。

中学へ上がると尚のこと、周囲の過剰までの関心が俺を滅入らせていた。秋良たちはそんな俺に、付かず離れずの程よい干渉で接してくれた。アイツらが側にいると他の奴らが近づかないので、ある意味俺は利用していたんだ。


そして今回の発情期以来、俺は人間同士の親密さというものを知ってしまった。そして向けられる愛情と、俺から与える感情も。知ってしまうと、この家にそれに似たものが一切存在しなかった事に気付かされる。

俺は本当に目の前の母親の子供なんだよな…?顔はよく似てるけれど。似てると言えば、姉貴を含め血が繋がって居るのは間違いないんだろうけど。

俺の疑問は目の前の「俺の母親」にぶつけても、ちゃんと答えが返ってくるのかなと、俺は一抹の不安を感じていた。


「俺、電話では話したけど、発情期で髪が銀色に変わっちゃったんだ。俺って、もしかして父親の雪豹系なのかな。」

母親は感情の読めない顔で俺を見つめた。そして俺の髪を見ると言った。

「その髪は誰かに染めてもらったの?」

俺は髪に手を当てると聖の秘密を守れる知人に頼んで、開店前にやってもらった話をした。母親は、さっき俺が紹介した聖を思い出したようで、呟いた。


「…古虎聖さんね。古虎家は由緒ある武道の家だわ。聖さんは本家筋ではないけれど、確か道場は持っていたと思う。彼はアマチュアだけど、プロになる気はあるのかしら?」

俺は母親が俺も知らない友人の細かい事情を知ってる事に驚いた。

「あいつの家って、道場なの?全然そんな事言ってなかったな。あー、プロにはなるかも。俺のこと守るのに必要ならプロ入りするとか言ってた。…ていうか、友達の話は今は良いんだよ。俺自身の話が聞きたいんだ。母さん。」

母親はもう一度紅茶を飲むと品の良い仕草でソーサーにカップを戻すと言った。

「最初に言っておくわ。私を恨まないで欲しいの。」



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