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動き出す僕たち
二家族合同クリスマス会
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受験生ってのは、本当に休みなしみたいだ。先輩とのメッセージのやり取りで、クリスマスも正月も返上で塾に缶詰になる話に僕は思わず眉を顰めていた。
同時に、これで会わなくても良い口実ができたことに何処かしらホッとしていた。先輩も、僕の少し距離を感じるやり取りに何か察してくれたのかもしれない。そう考えるのは随分都合が良いだろうか。
結局夕方から慶太の家と合同クリスマス会をする事になって、僕は運良く翔ちゃんとクリスマスを過ごすことが出来た。慶太は途中で友人宅でパーティーがあるからと抜けてしまったので、僕はお酒が進んで盛り上がっている大人たちを尻目に翔ちゃんに言った。
「ね、翔ちゃん僕の部屋に行ってゲームでもしない?」
すると翔ちゃんは一瞬固まって見えたけど、何か驚く様なことを言ってしまっただろうか。僕は翔ちゃん家でまだまだ飲み会の続きそうな親たちに、僕の家で二人でゲームやるからと家の鍵を預かった。
「なんだ翔ちゃんは彼女とクリスマスデートしないのか?こんな良い男を放っておくなんて罪だな。」
そう揶揄ううちの父さんに、僕は口を尖らせて言った。
「全く、今はそう言うこと聞くのもセクハラになるんだからね。」
頭を掻いて謝る父さんに、翔ちゃんは今は部活に専念してますからとさやわかに返すと、僕の後をついて家を出た。
「ゴメンね、翔ちゃん。うちの親はデリカシーがなくて。まったく酔っ払うとアレなんだから。」
僕がそう言って振り向くと、翔ちゃんはハッとした様に曖昧に頷くと黙りこくって玄関の中に入った。僕は何となく空気が気まずい気がして、チラッと翔ちゃんを盗み見た。
あれ以来話はして無かったけれど、今日は何となく翔ちゃんが僕にもの言いたげな気がするのは気のせいだろうか。冷蔵庫からサイダーと水のペットボトルを手にすると、先に立って階段を登った。
…そう言えばこの家に二人きりって事だ。今になって唐突にそんな事に気づくなんて僕も安易がすぎる。僕は良いけど、翔ちゃんは?僕が部屋に入ろうとすると後ろから手が伸びてきて、僕の身体を包む様にドアが開いた。
ペットボトルで両手が塞がっていて、気を利かせた翔ちゃんが開けてくれただけなのに僕の心臓は飛び上がった。今顔を見られたらきっと赤いだろう。
僕は顔を見られない様に部屋に入ると、俯きながら水を翔ちゃんに渡して、ゲームのコントローラーの入った引き出しを開けた。ひとつ翔ちゃんに渡そうと後ろを向いて見上げると、翔ちゃんが僕の顔を見下ろしてビクリと身体を強張らせた。
「やっぱり、戻ったほうがいいかも…。侑のそんな顔見たら俺…。」
そう言ってじっと僕を見つめる翔ちゃんの顔は、酷く緊張していた。僕は空気が覚えのある感じになった事に気づいていた。もしかして翔ちゃんてやっぱり僕のこと好きなんじゃないかな。
その予想は僕を一気に舞い上がらせた。でも翔ちゃんはハッとした様にコントローラーを僕から受け取ると、急ににこやかにベッドに寄り掛かって座ると、何をやろうかと僕に話し掛けてきた。
僕はさっきの言葉がぐるぐると身体の中を反響していたので、翔ちゃんの声は届かなかった。僕は翔ちゃんにぽつりと言った。
「ね、僕の顔を見たら何なの?何で戻った方が良いって思ったの?」
僕の真っ直ぐな言葉は、座り込んだ翔ちゃんを分かりやすく強張らせた。そして僕たちは黙って目を合わせた。それは一瞬だったかもしれないし、数秒だったかもしれない。でも僕には随分長く感じられたのは確かだった。
翔ちゃんはコントローラーをテーブルの上のペットボトルの横に置くと、僕をじっと見つめながら口を開いた。
「また侑にキスしたくなるから不味いと思ったんだ。」
同時に、これで会わなくても良い口実ができたことに何処かしらホッとしていた。先輩も、僕の少し距離を感じるやり取りに何か察してくれたのかもしれない。そう考えるのは随分都合が良いだろうか。
結局夕方から慶太の家と合同クリスマス会をする事になって、僕は運良く翔ちゃんとクリスマスを過ごすことが出来た。慶太は途中で友人宅でパーティーがあるからと抜けてしまったので、僕はお酒が進んで盛り上がっている大人たちを尻目に翔ちゃんに言った。
「ね、翔ちゃん僕の部屋に行ってゲームでもしない?」
すると翔ちゃんは一瞬固まって見えたけど、何か驚く様なことを言ってしまっただろうか。僕は翔ちゃん家でまだまだ飲み会の続きそうな親たちに、僕の家で二人でゲームやるからと家の鍵を預かった。
「なんだ翔ちゃんは彼女とクリスマスデートしないのか?こんな良い男を放っておくなんて罪だな。」
そう揶揄ううちの父さんに、僕は口を尖らせて言った。
「全く、今はそう言うこと聞くのもセクハラになるんだからね。」
頭を掻いて謝る父さんに、翔ちゃんは今は部活に専念してますからとさやわかに返すと、僕の後をついて家を出た。
「ゴメンね、翔ちゃん。うちの親はデリカシーがなくて。まったく酔っ払うとアレなんだから。」
僕がそう言って振り向くと、翔ちゃんはハッとした様に曖昧に頷くと黙りこくって玄関の中に入った。僕は何となく空気が気まずい気がして、チラッと翔ちゃんを盗み見た。
あれ以来話はして無かったけれど、今日は何となく翔ちゃんが僕にもの言いたげな気がするのは気のせいだろうか。冷蔵庫からサイダーと水のペットボトルを手にすると、先に立って階段を登った。
…そう言えばこの家に二人きりって事だ。今になって唐突にそんな事に気づくなんて僕も安易がすぎる。僕は良いけど、翔ちゃんは?僕が部屋に入ろうとすると後ろから手が伸びてきて、僕の身体を包む様にドアが開いた。
ペットボトルで両手が塞がっていて、気を利かせた翔ちゃんが開けてくれただけなのに僕の心臓は飛び上がった。今顔を見られたらきっと赤いだろう。
僕は顔を見られない様に部屋に入ると、俯きながら水を翔ちゃんに渡して、ゲームのコントローラーの入った引き出しを開けた。ひとつ翔ちゃんに渡そうと後ろを向いて見上げると、翔ちゃんが僕の顔を見下ろしてビクリと身体を強張らせた。
「やっぱり、戻ったほうがいいかも…。侑のそんな顔見たら俺…。」
そう言ってじっと僕を見つめる翔ちゃんの顔は、酷く緊張していた。僕は空気が覚えのある感じになった事に気づいていた。もしかして翔ちゃんてやっぱり僕のこと好きなんじゃないかな。
その予想は僕を一気に舞い上がらせた。でも翔ちゃんはハッとした様にコントローラーを僕から受け取ると、急ににこやかにベッドに寄り掛かって座ると、何をやろうかと僕に話し掛けてきた。
僕はさっきの言葉がぐるぐると身体の中を反響していたので、翔ちゃんの声は届かなかった。僕は翔ちゃんにぽつりと言った。
「ね、僕の顔を見たら何なの?何で戻った方が良いって思ったの?」
僕の真っ直ぐな言葉は、座り込んだ翔ちゃんを分かりやすく強張らせた。そして僕たちは黙って目を合わせた。それは一瞬だったかもしれないし、数秒だったかもしれない。でも僕には随分長く感じられたのは確かだった。
翔ちゃんはコントローラーをテーブルの上のペットボトルの横に置くと、僕をじっと見つめながら口を開いた。
「また侑にキスしたくなるから不味いと思ったんだ。」
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