上 下
50 / 68
動き出す僕たち

突然の訪問

しおりを挟む
 ベッドに横になって今日の買い物での翔ちゃんとの遭遇を思い出していると、母さんが階下から僕を呼んだ。僕が部屋から顔を出すと、母さんが階段の下から顔を覗かせて言った。

「侑、翔ちゃん来てるわよ。ほんと随分背が高くなったわねぇ。ああ、どうぞ、上がってちょうだい?侑、お部屋に上がってもらっても良いわよね?」

僕は息を呑んで慌てて部屋を見回した。そんなに散らかっていないけど、翔ちゃんが僕の部屋に入るのはそれこそ何年ぶりだろうか。ゆっくり階段を上がる足音がして、僕は部屋のドアを開けたまま翔ちゃんを待った。


 「…どうしたの?こんなの何年も無かったでしょ。」

そう言ってしまってから、随分可愛げの無い事を言ってしまったと思ったけれど言葉は取り戻せない。僕がベッドに座ると、翔ちゃんはローテーブルの前に座った。直ぐに母さんが飲み物とちょっとしたお菓子を用意して扉から顔を出した。

「翔ちゃんは選手だから色々節制してるのかしら。紅茶なら大丈夫かしらね?」

そう嬉しそうに言うと、僕にトレーを渡して直ぐに立ち去った。僕は翔ちゃんの前に紅茶とチョコレートやクッキーの並んだ皿を並べると、自分のマグカップにミルクと砂糖を入れた。

「…相変わらず甘いのが好きなんだな、侑は。」


 そう言って、何もいれないカップの紅茶を美味しそうに飲む翔ちゃんを見つめながら、一体何が起きているのかと僕は内心混乱していた。慶太はたま遊びに来るけれど、翔ちゃんが最後にここに来たのはいつだろう。

あの事件以来ていないはずだから、3年ぶりかもしれない。僕はカップの中をグルグルいつまでも掻き混ぜながら、チラッと翔ちゃんを盗み見た。翔ちゃんは何を考えているのかわからない眼差しで僕を見つめていた。


 「…何か僕に用があったの?」

そう尋ねると、翔ちゃんは少し戸惑う様に部屋の中を見回した。

「侑の部屋も随分雰囲気が変わったな。それもそうだ。俺が最後にここに来たのは侑が小5の時だから。…侑もすっかり成長したよ。もう子供じゃないんだな。」

僕は翔ちゃんの様子に戸惑って、目の前のチョコレートを口に放り込んだ。何か用があった訳じゃないのかな。忙しい翔ちゃんが何の用もなく会いに来るだろうか。今日の青山さんとの事かな。


 そう思う間もなく、翔ちゃんは口火を切った。

「今日あんな所で侑とバッタリ会って凄い驚いた。…青山といつから一緒に買い物行くくらい仲良くしてるんだ?」

翔ちゃんは微笑んでいたけれど、少し顔が強張ってみえた。僕は探り合う様な会話は嫌だったので、馬鹿正直に答えた。

「いつからかな。以前中学まで来たんだ、あの人。文化祭の写真見て会いたくなったんだってさ。ちょっとストーカーみたいだよね。でも色々煮詰まってたみたいで、僕をペット感覚で癒しに利用してるんだと思うよ。

でも悪い人じゃないし、僕に変なちょっかいを出す訳じゃないから…。丁度スニーカーが欲しくてメッセージでやり取りしてたら割引券あるっって言うからお言葉に甘えただけだよ。友達‥だよ?」


 すると翔ちゃんが顔を顰めて僕を見て言った。

「俺だって言ってくれたら付き合ってやったのに。」

僕は薄く笑って紅茶をひと口飲んだ。

「翔ちゃんは忙しいでしょ。ただでさえ彼女と会わなきゃいけないし。僕と会いたい人は他にも居るから、翔ちゃんが気にすることはないよ。」

すると翔ちゃんはますます顰めっ面をして、もはや不機嫌さを隠す気は無くなったみたいだ。


 「…弓道部の先輩とか?どうして侑はそうやって自分を安売りするんだ。青山だって店でちょっと話しただけだけど、侑の事好きなんじゃないのか。侑は好きでもないやつと出歩かない方がいい。」

僕は相変わらず過保護に僕の事をあれこれ言う翔ちゃんを鼻で笑った。

「別に先輩も青山さんも嫌いじゃないよ。僕は好ましい相手とは手も繋ぐし、キスもする。翔ちゃんが思ってるより爛れてるんだよ。ごめんね、昔のままの幼馴染じゃなくて。…だいたい、翔ちゃんだって僕にキスしたでしょ。何でキスしたの?翔ちゃん。」



しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

処理中です...