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並行な道

花火大会

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「侑、花火大会行く?」

僕の部屋で漫画を読んでいた慶太が、ふと顔を上げて言った。この地域の駅二つ先の大きな河川でいつも大々的な花火大会をする。遠くからも人が来るので結構混んでいて、中学生にならないと子供だけでは行かせてもらえない。

「ああ、慶太ようやく子供だけで行けるって訳ね。」

慶太はニヤリと嬉しげに笑うと、もう一度尋ねて来た。


「どうしようか考え中。結構人混みが酷くて、去年は弓道部の仲間とはぐれて大変だったからなぁ。やっぱりもう少し大人にならないと人波に負けちゃう。…あ、駅前の高層マンションに住んでる先輩に頼んで、上から眺めるって手もあるかも。」

慶太は僕をじっと見て尋ねた。

「まだ先輩と仲良くしてるんだ。受験忙しいんじゃないの?」

僕は慶太に言わなきゃ良かったと思いながら、誤魔化す様に漫画をパラパラ捲って言った。

「別に会ってないよ。一回だけ一緒に遊んだけど。先輩の息抜きに付き合ってるだけ。」


「なぁ、俺と川まで行って観ようよ。」

慶太はクラスメイトや、部活の仲間と一緒に観に行くとばかり思っていたので、僕は首を傾げた。

「僕は良いけど…。サッカーの仲間とか女子に誘われてるんじゃないの?」

慶太は漫画を閉じるとミニテーブルに突っ伏して言った。

「‥なんかさ、楽しいんだけど面倒い。侑と一緒の方が俺楽だもん。」

そう言う慶太の背中を眺めながら僕は思った。慶太はいつも明るいけど、かなり空気を読むタイプだった。だから案外友達に気を遣って疲れることもあるのかもしれない。

「良いよ。今回は慶太と二人で行こうか。僕は元々友達少ないし。」



去年と同じに駅は混むと思ったので、自転車で来て正解だった。隣の駅の自転車置き場に停めるとそこから歩いてもそう遠くはない。開催現場近くに停めると自分の自転車を見つけだすのも一苦労だと経験していた。

「なるほどね。裏技って事か。そう言えば兄貴も観に来るとか言ってた。まぁ、部活の人とか、彼女とかと一緒だと思うけど。」

僕は一瞬で身体が強張った気がした。でも何気なく慶太に尋ねた。

「…そうなんだ。え、翔ちゃん彼女居るの?」


慶太は僕を悪戯っぽく見つめて言った。

「お?侑チェック?なんか夏休み入ってから付き合いだしたみたいだよ。同級生?クラスメイト?よく分かんないけど、ファンとかじゃないみたい。ま、良かったよ、あの例の追っかけみたいな怖い女子高生じゃなくて。な?侑もそう思うだろ?」

僕は慌てて笑いながら言った。

「うん、あんな軽薄な女じゃなくて良かった。そっかクラスメイトと。翔ちゃんが彼女にするくらいだからきっと可愛くて良い人なんだろうね。」


慶太と人の流れに紛れて歩き始めつつ、打ち上げ始められた綺麗な花火を見上げながら、僕は失恋を実感する羽目になるのかと顔を強張らせた。ああ、まったく人生こんなものだ。

会場は既に人混みと化していて、近くで感じるお腹に響く花火の音にお祭り気分は盛り上がった。出店を冷やかしながらしばらく歩いていると、バッタリと慶太の仲間に会った。


慶太は断っていたけれど、仲間たちが一緒に回ろうと離さない。仲間うちに女子も居たから彼女たちの目当てが慶太なのかもしれない。僕は翔ちゃんの彼女の話を聞いて気分が落ちていたし、もう花火どころじゃなくなって慶太に言った。

「慶太、僕ちょっと回ったら帰るから、ゆっくりして行って。うん、じゃあね。」

謝る慶太に手を振って、僕は反対方向へと出店を眺めてぶらついた。慶太と行くと断った手前、先輩を呼び出すのは無理だし、急に連絡できる様な友達は居なかった。


焼きそばを買って帰ろうかと列に並んで受け取ったその時、聞き慣れた声が聞こえた。

「侑!」

僕はハッとその声を辿って顔をあげた。そこには背の高い一団が目立っていた。翔ちゃんは近づいてくると、僕の周囲をキョロキョロして尋ねた。

「慶太は?」

翔ちゃんは僕と慶太が一緒に行くって聞いていたみたいだ。僕はさっきの話をすると、僕はもう帰るからと言葉を濁した。眉間に皺を寄せた翔ちゃんがぶつぶつ何か言ってたけど、僕は翔ちゃんの後ろから顔を覗かせた圭さんに目を奪われた。

「ヤッホー、幼馴染くんじゃん!一人なの?」





★お知らせ★

『カワウソの僕、異世界を無双する』本日本編完結いたしました♡コツメカワウソの可愛さが書きたかっただけの(笑)このほのぼのBL、ワクワクとニヤニヤが沢山詰まって、15万字で長編ですがサクサク読めます♪

番外編も引き続き書きますのでよろしくお願いします♡






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