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乗り越える壁
翔太side気になる関係と俺の事情
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すっかり暗くなった通りを家に向かって歩いていくと、スマホに顔を照らされた侑がポツンと立っていた。ドキンと心臓が騒いで、俺は無意識に胸を摩りながら近づいて行った。
こんな遅くにどうしたのかと問えば、これから友達の所へ泊まりにいくのだと言う。明るい笑顔で手を振って歩き出した侑を見送っていると、通りの角から小走りで侑に近づいてくるスラリとした友達らしき相手と合流した。
何を言っているのか分からないけど楽しげなトーンを感じられて、俺は夏休みを楽しんでいる侑はまだ中学二年生なのだと改めて実感していた。何となく足が動かなくてこちらを振り返る侑に手を振りかえすと、目の端に侑と迎えに来ただろう相手が随分近づいて歩いているのが気になった。
思わず見るともなしに見ていると、相手の子が侑の手を繋いだ気がした。暗いからそうじゃないかもしれないけど、弟の慶太がうっかり口走った『侑は先輩とキスしている』と言ったあの時のショックが思い出された。
友達のところに泊まると言ってたけど、あいつが侑がキスしている先輩で、侑の首の後ろにキスマークをつけた相手だとしたら、これから泊まって何をするのかなんて誰だって同じ事を思うだろう。
俺は門邸をガシャリと揺さぶると、だからと言って俺が侑を追いかけて止める様な権利も何もないのだと思い知らされてしまった。俺はつい最近同じ学校の女子と付き合い出したばかりだった。
今まで何度か中学時代に付き合った事はある。せいぜい手を繋いでキスをする程度で、部活に忙しかった俺は余計な時間など無くて、相手の不満が募って上手くいかなくて自然消滅するばかりだった。それは俺が相手の事を好きと言う気持ちがあまり無かったせいもあるけれど、気が乗らない、それが全てだった。
そんな俺は高校生になったら部活の練習についていくのに必死で、むしろそんな暇など無くなった。そして二年生になった今、付き合うことになった理由は、相手が一年の頃から仲良くしている気のおけない相手、田口だったこともある。
練習試合に同級生と応援に来てくれた田口は、俺に差し入れを渡しながら言った。
「ね、温水。私と付き合ったりしない?私、楽でいいよ?温水が部活で忙しいのもよく分かってるしさ。何より二葉高校バレー部の大ファンだからさ?どうかな。」
明るく笑いながら、そう思いがけない事を言う田口に正直びっくりした。俺は今までの自然消滅な恋愛経験を思い出して田口に言った。
「…あ、俺って全然そう言うの向いてないよ?今まで自然消滅多いし。まめじゃないからさ。」
すると田口は俺をじっと見て言った。
「いいよ。自然消滅したらそれまでだし。私はさ、温水のファンだから、ちょっとした独占欲?が満たせれば良いわけ。練習第一だって思ってるし。まぁ、温水が私に夢中になるかもしれないしね?お試しの気持ちでどうかな。」
そう軽く言われて、俺は最近侑に感情が振り回されているのもあって、田口と付き合う事を承諾してしまった。田口は思いの外喜んではしゃいでいたけれど、その姿は教室の田口とは少し雰囲気が違って可愛らしいと思えた。
圭がニヤニヤしながら向こうからやって来て言った。
「なーに?もしかして上手くいった?」
見れば田口は圭にピースサインをしていた。俺は呆れて圭に言った。
「何だ、お前も関係してたんだ。」
すると圭は俺に真顔で言った。
「いやいや、次世代エースには支えてくれる可愛い彼女必須でしょ。田口ちゃんは良い子だしさぁ。お前とも気が合うでしょ。ちょっと話してたらお前のこといいって言うから、そりゃくっ付いたら万々歳ですよ。ね?田口ちゃん。」
俺は結局圭に付き合う彼女の世話まで受けていたわけだったけど、別に田口はいい子だと思っていたから、断る理由もなかったんだ。
そんな俺の側の状況が、道の角を曲がって消えていく侑を引き留める権利が無い理由だった。…これで良いんだ。侑がどんな相手とどうなろうと、俺は侑に何もしてあげられないし、何も言えないんだから。これで良い…。
こんな遅くにどうしたのかと問えば、これから友達の所へ泊まりにいくのだと言う。明るい笑顔で手を振って歩き出した侑を見送っていると、通りの角から小走りで侑に近づいてくるスラリとした友達らしき相手と合流した。
何を言っているのか分からないけど楽しげなトーンを感じられて、俺は夏休みを楽しんでいる侑はまだ中学二年生なのだと改めて実感していた。何となく足が動かなくてこちらを振り返る侑に手を振りかえすと、目の端に侑と迎えに来ただろう相手が随分近づいて歩いているのが気になった。
思わず見るともなしに見ていると、相手の子が侑の手を繋いだ気がした。暗いからそうじゃないかもしれないけど、弟の慶太がうっかり口走った『侑は先輩とキスしている』と言ったあの時のショックが思い出された。
友達のところに泊まると言ってたけど、あいつが侑がキスしている先輩で、侑の首の後ろにキスマークをつけた相手だとしたら、これから泊まって何をするのかなんて誰だって同じ事を思うだろう。
俺は門邸をガシャリと揺さぶると、だからと言って俺が侑を追いかけて止める様な権利も何もないのだと思い知らされてしまった。俺はつい最近同じ学校の女子と付き合い出したばかりだった。
今まで何度か中学時代に付き合った事はある。せいぜい手を繋いでキスをする程度で、部活に忙しかった俺は余計な時間など無くて、相手の不満が募って上手くいかなくて自然消滅するばかりだった。それは俺が相手の事を好きと言う気持ちがあまり無かったせいもあるけれど、気が乗らない、それが全てだった。
そんな俺は高校生になったら部活の練習についていくのに必死で、むしろそんな暇など無くなった。そして二年生になった今、付き合うことになった理由は、相手が一年の頃から仲良くしている気のおけない相手、田口だったこともある。
練習試合に同級生と応援に来てくれた田口は、俺に差し入れを渡しながら言った。
「ね、温水。私と付き合ったりしない?私、楽でいいよ?温水が部活で忙しいのもよく分かってるしさ。何より二葉高校バレー部の大ファンだからさ?どうかな。」
明るく笑いながら、そう思いがけない事を言う田口に正直びっくりした。俺は今までの自然消滅な恋愛経験を思い出して田口に言った。
「…あ、俺って全然そう言うの向いてないよ?今まで自然消滅多いし。まめじゃないからさ。」
すると田口は俺をじっと見て言った。
「いいよ。自然消滅したらそれまでだし。私はさ、温水のファンだから、ちょっとした独占欲?が満たせれば良いわけ。練習第一だって思ってるし。まぁ、温水が私に夢中になるかもしれないしね?お試しの気持ちでどうかな。」
そう軽く言われて、俺は最近侑に感情が振り回されているのもあって、田口と付き合う事を承諾してしまった。田口は思いの外喜んではしゃいでいたけれど、その姿は教室の田口とは少し雰囲気が違って可愛らしいと思えた。
圭がニヤニヤしながら向こうからやって来て言った。
「なーに?もしかして上手くいった?」
見れば田口は圭にピースサインをしていた。俺は呆れて圭に言った。
「何だ、お前も関係してたんだ。」
すると圭は俺に真顔で言った。
「いやいや、次世代エースには支えてくれる可愛い彼女必須でしょ。田口ちゃんは良い子だしさぁ。お前とも気が合うでしょ。ちょっと話してたらお前のこといいって言うから、そりゃくっ付いたら万々歳ですよ。ね?田口ちゃん。」
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そんな俺の側の状況が、道の角を曲がって消えていく侑を引き留める権利が無い理由だった。…これで良いんだ。侑がどんな相手とどうなろうと、俺は侑に何もしてあげられないし、何も言えないんだから。これで良い…。
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