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中学二年生
翔ちゃんのチーム
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体育館の2階観客席の入り口に佇んで、一体どこで応援したらいいのかと慶太と周囲を見回した。すると慶太が翔ちゃんの高校のジャージを着た人達を見つけて指差した。
僕はドキドキしながら、その指差された方向を見た。そこには赤いラインの効いた黒いジャージの集団が観客席の一部を占有していた。僕がじっと見つめていると不意に振り向いたのは翔ちゃんで、僕たちは確かに目が合った気がした。
こちらを見ている翔ちゃんの視線を追って、隣にいた多分圭さんらしき人物が僕たちに大きく手を振ると、慶太はそっちに向かって歩き出した。僕は思わず慶太のリュックを引っ張った。
「え?行かねーの?」
僕は翔ちゃんのチームメイト数人が僕たちの方を見ているのを気にしながらも、今更ながら戸惑ってしまった。僕はこっそり観戦する予定だったんだ。なのに試合前の翔ちゃんと顔を合わせるの?あんなに知らない高校生ばかりで何か怖い気もする。
「行くけど…。僕一般の観客席で観るつもりだったから。」
すると慶太はその一団を眺めて確かにデカ過ぎるとブツブツ言うと、僕に言った。
「ちょっと挨拶だけしたら、一般席に行こうぜ。きっとあそこはチーム用の席だからどの道あそこで観戦する訳じゃないと思うし。実は俺、母さんから差し入れ預かってるからさ、お届けする任務を背負ってるわけ。ちょっと付き合ってよ。それに兄貴も侑に会いたいんじゃない?あ。侑、サングラスは外せよ?」
そう言って歩き出した。そう言われたら僕も何も言えない。サングラスを胸元に引っ掛けると渋々慶太の後ろをついて行った。離れていたと思っていた一角は案外近くて、僕たちは暇な選手達に囲まれていた。
翔太の弟だとか、幼馴染だとか騒めきながら見下ろしてくる彼らはあまりにも背が高くて、僕は圧倒されてしまった。慶太が翔ちゃんにおばさんからの差し入れを渡すと、一年らしき部員が礼を言って受け取っていた。
「侑くん来てくれたんだぁ!お兄さん嬉しいな!お?リアル弟?やっぱりどっか似てんね。弟くんの方が性格良さそう。」
そう言ってまごついていた僕を助けてくれたのは圭さんだった。僕は慌てて帽子を取ってお辞儀をすると、誘ってくれてありがとうございますと礼を言った。その時翔ちゃんが側に来て、僕たちに言った。
「…お前達はあっちの一般席で観戦だから。」
そう言われて慶太がそっちに向かおうとしたので、僕は慌てて言った。
「翔ちゃん、あのっ、頑張ってね。僕も沢山応援するから。」
すると翔ちゃんは僕と目を合わせてにっこり微笑むと、僕の頭を撫でて頷いた。僕は嬉しくて満面の笑みで翔ちゃんに笑い掛けると、手を振って先の方で待っていた慶太の所へ小走りで向かった。
後ろの方で何故か賑やかな声が聞こえたけれど、僕はドキドキして振り返る事が出来なかった。絶対赤くなっている僕の顔を見られたくなくてサッと被った帽子をコツンと叩いた慶太は、肩をすくめて言った。
「強豪校って半端ないよな。うちの兄貴より大きい人たちいっぱい居たじゃん?高校生ってやっぱすげぇよ。中坊とは桁違い。何かごめんな、あんな所に連れてちゃって。皆んなお前の事じろじろ見てただろ。あんま気分良くないよな。」
僕は大丈夫だと生返事をしながら一般席に移動した。僕はこの心臓はまるで正直者だと思っていた。翔ちゃんに少し優しくされただけで、僕は馬鹿みたいに舞い上がってしまうんだから。
体育館に反響する色々な音の中に僕のドキドキも紛れ込んでいる気がした。
僕はドキドキしながら、その指差された方向を見た。そこには赤いラインの効いた黒いジャージの集団が観客席の一部を占有していた。僕がじっと見つめていると不意に振り向いたのは翔ちゃんで、僕たちは確かに目が合った気がした。
こちらを見ている翔ちゃんの視線を追って、隣にいた多分圭さんらしき人物が僕たちに大きく手を振ると、慶太はそっちに向かって歩き出した。僕は思わず慶太のリュックを引っ張った。
「え?行かねーの?」
僕は翔ちゃんのチームメイト数人が僕たちの方を見ているのを気にしながらも、今更ながら戸惑ってしまった。僕はこっそり観戦する予定だったんだ。なのに試合前の翔ちゃんと顔を合わせるの?あんなに知らない高校生ばかりで何か怖い気もする。
「行くけど…。僕一般の観客席で観るつもりだったから。」
すると慶太はその一団を眺めて確かにデカ過ぎるとブツブツ言うと、僕に言った。
「ちょっと挨拶だけしたら、一般席に行こうぜ。きっとあそこはチーム用の席だからどの道あそこで観戦する訳じゃないと思うし。実は俺、母さんから差し入れ預かってるからさ、お届けする任務を背負ってるわけ。ちょっと付き合ってよ。それに兄貴も侑に会いたいんじゃない?あ。侑、サングラスは外せよ?」
そう言って歩き出した。そう言われたら僕も何も言えない。サングラスを胸元に引っ掛けると渋々慶太の後ろをついて行った。離れていたと思っていた一角は案外近くて、僕たちは暇な選手達に囲まれていた。
翔太の弟だとか、幼馴染だとか騒めきながら見下ろしてくる彼らはあまりにも背が高くて、僕は圧倒されてしまった。慶太が翔ちゃんにおばさんからの差し入れを渡すと、一年らしき部員が礼を言って受け取っていた。
「侑くん来てくれたんだぁ!お兄さん嬉しいな!お?リアル弟?やっぱりどっか似てんね。弟くんの方が性格良さそう。」
そう言ってまごついていた僕を助けてくれたのは圭さんだった。僕は慌てて帽子を取ってお辞儀をすると、誘ってくれてありがとうございますと礼を言った。その時翔ちゃんが側に来て、僕たちに言った。
「…お前達はあっちの一般席で観戦だから。」
そう言われて慶太がそっちに向かおうとしたので、僕は慌てて言った。
「翔ちゃん、あのっ、頑張ってね。僕も沢山応援するから。」
すると翔ちゃんは僕と目を合わせてにっこり微笑むと、僕の頭を撫でて頷いた。僕は嬉しくて満面の笑みで翔ちゃんに笑い掛けると、手を振って先の方で待っていた慶太の所へ小走りで向かった。
後ろの方で何故か賑やかな声が聞こえたけれど、僕はドキドキして振り返る事が出来なかった。絶対赤くなっている僕の顔を見られたくなくてサッと被った帽子をコツンと叩いた慶太は、肩をすくめて言った。
「強豪校って半端ないよな。うちの兄貴より大きい人たちいっぱい居たじゃん?高校生ってやっぱすげぇよ。中坊とは桁違い。何かごめんな、あんな所に連れてちゃって。皆んなお前の事じろじろ見てただろ。あんま気分良くないよな。」
僕は大丈夫だと生返事をしながら一般席に移動した。僕はこの心臓はまるで正直者だと思っていた。翔ちゃんに少し優しくされただけで、僕は馬鹿みたいに舞い上がってしまうんだから。
体育館に反響する色々な音の中に僕のドキドキも紛れ込んでいる気がした。
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