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図られる
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僕宛の手紙を眺めながら、僕はベッドに身体を投げ出していた。週末の休暇に愛人達に何度目かの遊びに誘われているのに、何故だか行く気になれない。アドルフと愛人関係になってから3ヶ月が経っていた。
昼と夜のアドルフのギャップが激しいせいで、僕はすっかりアドルフにハマっていた。アソコが立派なのも良いし、愛撫が濃厚なのも好みだ。それになんと言っても性欲が満たされているおかげで、体の調子がとても良い。
もちろん最初の頃は愛人達とも休暇の度に会っていた。けれど寝てみるとどうも物足りない。もっとアドルフならこうしてくれるのにとか、つい比べてしまうんだ。
今までは三人三様でそれぞれが楽しかった筈なのに、平日あまりにもアドルフと寝てしまっているせいなのか、こんな筈じゃなかったと思う様になってしまった。お陰で一人とは疎遠になった。
元々縛りのない関係だったから、会わなくなればそれまでの間柄だ。僕は二通の手紙を横目で眺めながら、この週末会わなければ、彼らとも関係が終わるかもしれないと思った。
「…ロイ、この週末は休暇だったね。申し訳ないのだが、仕事で急遽遠出する事になってね。一緒に同行してもらえるだろうか。無理にとは言わないが、来てもらえると助かるのだが。」
アドルフにそう言われて、僕は目の前の少し長くなった癖のある黒髪をぼんやり見つめて考えていた。あの髪は僕じゃないと上手く整えられないかもしれない。休暇は別の時に取らせて貰えば良いか…。
僕は愛人達とダメになると知りつつも、アドルフに微笑んで頷いていた。関係を持つ前なら絶対に休暇をとらせてもらっていた筈だ。僕も随分とアドルフに捉われてしまっている。ま、しょうがないか。アドルフと寝るのは好きだから…。
馬車を走らせ続けて一体何処まで行くのかと辺りの景色を見回していると、そこはアドルフのご実家の領地だった。実家に行くなんて聞いてなかった。僕は思わず眉を顰めて豊かな侯爵家の領地を眺めていた。
確か侯爵家はアドルフの歳の離れた兄上が継いだ筈だ。僕は愛人達のお家事情には基本的に深入りしない様にしていたのに、流石にご主人であるアドルフだとそうもいかない。
「…アドルフ様、侯爵家でしたら私が同行せずとも、用向きは何不自由なかったのではありませんか?」
思わずそう呟くと、アドルフが僕の手を取って唇を押し当てて言った。
「…私に夜一人寂しくしていろと言うのかい?可愛い人。」
愛人になって1ヶ月経つ頃から、アドルフが昼にも僕にこんな戯言を度々言う様になって、困惑してしまう。僕は自分の顔に血が昇るのを感じながら口を尖らせた。
「ご実家でそんな不埒な真似など出来ません。大体愛人連れなど、アドルフ様の外聞が悪いです。」
するとアドルフは窓の外を眺めながら、僕の手を握って言った。
「兄上はそんな事気にするたちじゃない。お前は彼を知らないから。…最近兄上が私にお節介が過ぎるからね、ロイには少し役割をこなして欲しいんだ。今日は私の愛人ではなくて、恋人のふりをしてくれないか。」
突然アドルフにそんな事を言われて、僕は目を見開いた。本当、この人の考えていることはわからない。大体そんなつもりも無かったから役割をこなせる様な準備も無い。何の準備が要るのか分からないけど。
「…そんな突然言われても。それらしい様には支度がありませ…。」
そう言葉にしてふと気づいてしまった。遠出のお詫びだと、新しい洒落た衣装をひと揃い用意して貰ったばかりだった。僕は愛人の好意は無碍にしない方なので、今日早速着てきていた。
僕はハッとして自分が身につけた衣装を見下ろして、アドルフを睨んだ。
「騙したわけじゃないけどね。新しい衣装は元々贈ろうと思っていたのだから。たまたまこの機会に合っただけだよ。」
そう、面白そうに微笑むアドルフに僕はすっかり図られてしまったみたいだ。僕は観念して、ドサリと馬車に寄りかかると目を閉じて言った。
「‥今回だけですよ。面倒なことにならない様にお願いしますね。」
そう言いながら、僕はなんとなく心が浮き立つのを感じた。愛人ではなくて恋人?アドルフは愛人としては申し分ない。恋人としては?性格も優しくて穏やかだし、僕が知る限り評判は悪くない。つまりは恋人でも結構良い線行ってるってことなのかな。
僕はまだ離して貰えない手を振り払わない言い訳を、恋人ごっこの開始とともに自分の中で失ってしまった。
「やぁ、よく顔を見せに帰って来てくれたね、我が弟よ。…彼が例の恋人かい?まったくお前には驚かされる。色恋などまるで興味のない顔をしながら、裏で燃える様な恋をしていたとは。ははは、血は争えないね。」
目の前のグリーデル侯爵の言うことは半分も理解できなかった。何だか僕の知らない架空の話が出来上がっているようだ。僕が決まりきった挨拶をすると、侯爵は僕をまじまじと見つめて言った。
「まったく、我が弟は面食いだ。こんな若くて美しい人を恋人にして。…ああ、分かった。余計なお節介はしないよ。晩餐まで散策なり、恋人とのんびりしておいで。少しくらい遅れても多目に見てやるから。ハハハ。」
執事に案内されてアドルフの部屋に入ると、僕は窓際で腕を組んでアドルフを見つめた。
「何か僕の知らない事が進行中ではありませんか?アドルフ様の恋人ごっこ?妙に信憑性があるみたいでしたけど。」
するとアドルフは僕を抱き寄せて、じっと顔を見下ろして説得するように言った。
「…恋人ごっこしてくれるはずだろう?兄はあの通り恋愛至上主義でね、弟にも同じように幸せを望むだけで悪気はないのだよ。」
アドルフの腕の中に抱き寄せられると、僕は反抗する気持ちが萎んでしまう。僕は身体だけでなく心までアドルフに捉われつつある気がして妙に怖くなった。愛人として始まった僕らの関係は、歪で不健全だ。僕はともかく、アドルフにとっては醜聞には違いない。
僕が黙りこくってしまったので、アドルフは僕の顔を上に向けて優しく唇を啄んだ。僕はアドルフの唇が好きだ。優しくて、時々怖いぐらい熱くて火傷しそうになる。僕の身体にはアドルフの残した夜の火傷の跡が点々とついてしまっている。
他の愛人には夜の痕跡を付けさせなかったのに、なぜ僕はアドルフにダメだと言えなくなってしまったんだろう。朝になって鏡に映る裸の自分の姿を見つめながら、僕は何度か指でその夜の痕跡をくすぐったい気持ちでなぞった事をふいに思い出した。
あの時の何とも言えない気持ちが蘇ってきて、イライラした僕はアドルフをベッドに引き倒すと、のしかかって言った。
「恋人ごっこ?いつもと何が違うのさ。恋人じゃなければ、愛人も恋人ごっこも同じだよ。違う?」
するとアドルフは僕をグルンとひっくり返して、今度は僕をベッドに引き倒して囁いた。
「違わないさ。だから私はロイを恋人にしたい。私はロイが好きなんだ。私の屋敷に来た時から、私は君に惹かれていた。だが君は私とは一線をひいて、付け入る隙を見せなかった。そうだろう?
愛人と過ごす君を私がどんな気持ちで見つめていたのか知っているか?…私に溺れてくれ、ロイ。私はすっかり君の虜なんだ。」
考えもしないアドルフの告白に、僕は心臓が締め付けられていた。馬鹿みたいにドキドキと鼓動が跳ね飛んでいる。何だこれ。真剣に僕を見つめるアドルフの眼差しが、僕の少しの変化も見逃さないと言っていた。
「…ロイも私を愛してくれているだろう?」
僕は顔が強張って熱くなったのに気がついた。いつからロイを盗み見るようになっていただろう。馬鹿みたいに寝室に押しかけて、愛人なのだからとベッドに潜り込んだ。
何もしないのに一緒に朝まで過ごす日も少なくはなかった。あれは僕の幼稚な気持ちの表れだったのかな。僕が返事をする前に、落ちてきた唇に僕は必死で縋りついた。この唇は好き。他の誰も要らないくらい。
「‥好きだよ。たぶんね。」
そんな僕の照れ隠しの可愛げの無い言葉にも動じることなく、アドルフは微笑んだ。
「ロイは言葉よりも、身体に聞いた方が良く話してくれるさ。夢中になると、私の事を愛してるって言うんだ。」
僕が目を見開くと、アドルフはクスッと笑ってやっぱり気付いていなかったねともう一度笑った。それから僕は何だか視界が滲んでしまって、慌ててアドルフを引き寄せて口づけを強請ったんだ。
よく分からないけど、アドルフは僕の愛人じゃなくて、恋人になったみたいだ。僕は自分の唇が弧を描くのを感じた。
昼と夜のアドルフのギャップが激しいせいで、僕はすっかりアドルフにハマっていた。アソコが立派なのも良いし、愛撫が濃厚なのも好みだ。それになんと言っても性欲が満たされているおかげで、体の調子がとても良い。
もちろん最初の頃は愛人達とも休暇の度に会っていた。けれど寝てみるとどうも物足りない。もっとアドルフならこうしてくれるのにとか、つい比べてしまうんだ。
今までは三人三様でそれぞれが楽しかった筈なのに、平日あまりにもアドルフと寝てしまっているせいなのか、こんな筈じゃなかったと思う様になってしまった。お陰で一人とは疎遠になった。
元々縛りのない関係だったから、会わなくなればそれまでの間柄だ。僕は二通の手紙を横目で眺めながら、この週末会わなければ、彼らとも関係が終わるかもしれないと思った。
「…ロイ、この週末は休暇だったね。申し訳ないのだが、仕事で急遽遠出する事になってね。一緒に同行してもらえるだろうか。無理にとは言わないが、来てもらえると助かるのだが。」
アドルフにそう言われて、僕は目の前の少し長くなった癖のある黒髪をぼんやり見つめて考えていた。あの髪は僕じゃないと上手く整えられないかもしれない。休暇は別の時に取らせて貰えば良いか…。
僕は愛人達とダメになると知りつつも、アドルフに微笑んで頷いていた。関係を持つ前なら絶対に休暇をとらせてもらっていた筈だ。僕も随分とアドルフに捉われてしまっている。ま、しょうがないか。アドルフと寝るのは好きだから…。
馬車を走らせ続けて一体何処まで行くのかと辺りの景色を見回していると、そこはアドルフのご実家の領地だった。実家に行くなんて聞いてなかった。僕は思わず眉を顰めて豊かな侯爵家の領地を眺めていた。
確か侯爵家はアドルフの歳の離れた兄上が継いだ筈だ。僕は愛人達のお家事情には基本的に深入りしない様にしていたのに、流石にご主人であるアドルフだとそうもいかない。
「…アドルフ様、侯爵家でしたら私が同行せずとも、用向きは何不自由なかったのではありませんか?」
思わずそう呟くと、アドルフが僕の手を取って唇を押し当てて言った。
「…私に夜一人寂しくしていろと言うのかい?可愛い人。」
愛人になって1ヶ月経つ頃から、アドルフが昼にも僕にこんな戯言を度々言う様になって、困惑してしまう。僕は自分の顔に血が昇るのを感じながら口を尖らせた。
「ご実家でそんな不埒な真似など出来ません。大体愛人連れなど、アドルフ様の外聞が悪いです。」
するとアドルフは窓の外を眺めながら、僕の手を握って言った。
「兄上はそんな事気にするたちじゃない。お前は彼を知らないから。…最近兄上が私にお節介が過ぎるからね、ロイには少し役割をこなして欲しいんだ。今日は私の愛人ではなくて、恋人のふりをしてくれないか。」
突然アドルフにそんな事を言われて、僕は目を見開いた。本当、この人の考えていることはわからない。大体そんなつもりも無かったから役割をこなせる様な準備も無い。何の準備が要るのか分からないけど。
「…そんな突然言われても。それらしい様には支度がありませ…。」
そう言葉にしてふと気づいてしまった。遠出のお詫びだと、新しい洒落た衣装をひと揃い用意して貰ったばかりだった。僕は愛人の好意は無碍にしない方なので、今日早速着てきていた。
僕はハッとして自分が身につけた衣装を見下ろして、アドルフを睨んだ。
「騙したわけじゃないけどね。新しい衣装は元々贈ろうと思っていたのだから。たまたまこの機会に合っただけだよ。」
そう、面白そうに微笑むアドルフに僕はすっかり図られてしまったみたいだ。僕は観念して、ドサリと馬車に寄りかかると目を閉じて言った。
「‥今回だけですよ。面倒なことにならない様にお願いしますね。」
そう言いながら、僕はなんとなく心が浮き立つのを感じた。愛人ではなくて恋人?アドルフは愛人としては申し分ない。恋人としては?性格も優しくて穏やかだし、僕が知る限り評判は悪くない。つまりは恋人でも結構良い線行ってるってことなのかな。
僕はまだ離して貰えない手を振り払わない言い訳を、恋人ごっこの開始とともに自分の中で失ってしまった。
「やぁ、よく顔を見せに帰って来てくれたね、我が弟よ。…彼が例の恋人かい?まったくお前には驚かされる。色恋などまるで興味のない顔をしながら、裏で燃える様な恋をしていたとは。ははは、血は争えないね。」
目の前のグリーデル侯爵の言うことは半分も理解できなかった。何だか僕の知らない架空の話が出来上がっているようだ。僕が決まりきった挨拶をすると、侯爵は僕をまじまじと見つめて言った。
「まったく、我が弟は面食いだ。こんな若くて美しい人を恋人にして。…ああ、分かった。余計なお節介はしないよ。晩餐まで散策なり、恋人とのんびりしておいで。少しくらい遅れても多目に見てやるから。ハハハ。」
執事に案内されてアドルフの部屋に入ると、僕は窓際で腕を組んでアドルフを見つめた。
「何か僕の知らない事が進行中ではありませんか?アドルフ様の恋人ごっこ?妙に信憑性があるみたいでしたけど。」
するとアドルフは僕を抱き寄せて、じっと顔を見下ろして説得するように言った。
「…恋人ごっこしてくれるはずだろう?兄はあの通り恋愛至上主義でね、弟にも同じように幸せを望むだけで悪気はないのだよ。」
アドルフの腕の中に抱き寄せられると、僕は反抗する気持ちが萎んでしまう。僕は身体だけでなく心までアドルフに捉われつつある気がして妙に怖くなった。愛人として始まった僕らの関係は、歪で不健全だ。僕はともかく、アドルフにとっては醜聞には違いない。
僕が黙りこくってしまったので、アドルフは僕の顔を上に向けて優しく唇を啄んだ。僕はアドルフの唇が好きだ。優しくて、時々怖いぐらい熱くて火傷しそうになる。僕の身体にはアドルフの残した夜の火傷の跡が点々とついてしまっている。
他の愛人には夜の痕跡を付けさせなかったのに、なぜ僕はアドルフにダメだと言えなくなってしまったんだろう。朝になって鏡に映る裸の自分の姿を見つめながら、僕は何度か指でその夜の痕跡をくすぐったい気持ちでなぞった事をふいに思い出した。
あの時の何とも言えない気持ちが蘇ってきて、イライラした僕はアドルフをベッドに引き倒すと、のしかかって言った。
「恋人ごっこ?いつもと何が違うのさ。恋人じゃなければ、愛人も恋人ごっこも同じだよ。違う?」
するとアドルフは僕をグルンとひっくり返して、今度は僕をベッドに引き倒して囁いた。
「違わないさ。だから私はロイを恋人にしたい。私はロイが好きなんだ。私の屋敷に来た時から、私は君に惹かれていた。だが君は私とは一線をひいて、付け入る隙を見せなかった。そうだろう?
愛人と過ごす君を私がどんな気持ちで見つめていたのか知っているか?…私に溺れてくれ、ロイ。私はすっかり君の虜なんだ。」
考えもしないアドルフの告白に、僕は心臓が締め付けられていた。馬鹿みたいにドキドキと鼓動が跳ね飛んでいる。何だこれ。真剣に僕を見つめるアドルフの眼差しが、僕の少しの変化も見逃さないと言っていた。
「…ロイも私を愛してくれているだろう?」
僕は顔が強張って熱くなったのに気がついた。いつからロイを盗み見るようになっていただろう。馬鹿みたいに寝室に押しかけて、愛人なのだからとベッドに潜り込んだ。
何もしないのに一緒に朝まで過ごす日も少なくはなかった。あれは僕の幼稚な気持ちの表れだったのかな。僕が返事をする前に、落ちてきた唇に僕は必死で縋りついた。この唇は好き。他の誰も要らないくらい。
「‥好きだよ。たぶんね。」
そんな僕の照れ隠しの可愛げの無い言葉にも動じることなく、アドルフは微笑んだ。
「ロイは言葉よりも、身体に聞いた方が良く話してくれるさ。夢中になると、私の事を愛してるって言うんだ。」
僕が目を見開くと、アドルフはクスッと笑ってやっぱり気付いていなかったねともう一度笑った。それから僕は何だか視界が滲んでしまって、慌ててアドルフを引き寄せて口づけを強請ったんだ。
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