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新しい僕
教会からの呼び出し
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王都を挟んで王宮の対面に位置する教会の大聖堂は、見上げると首が痛くなる様な作りだった。空に突き刺さる様な鋭い三角屋根を持った塔が幾つも集まった様な石造りの神殿は、その一つ一つに何者かが囚われているのではないかと思わせて、僕は背中がゾクゾクした。
結局伯爵の代行で事情をよく知るルークが僕と同行してくれた。一応いざという時の為にアルフレッド様に頼んでギーク侯爵の後見があるとの一筆を書いてもらって来た。ヤバくなったらこれを差し出す印籠の様なものだ。
敷地に入って馬車から降りると、途端にあちこちで忙しく立ち動いていた司祭見習いや、従者たちが僕とルークを立ち止まって、あるいは呆然とガン見して来た。
教会だと思って一応きちんとした格好を選んできたけれど、それでも僕から滲むぼんやりとした明るさは閉じ込めて置けない。本当僕って神々しい。へへ。
連絡を受けたのか紺色の裾の長いいかにもな司祭服を着た二人が、入り口の扉に辿り着いた僕たちを出迎えて待っていた。僕が招待状を一歩前に歩み出た若い方の司祭に渡すと、二人は目を交わして頷き合ってついて来る様に僕たちに合図した。
この国の教会は沈黙の教会と呼ばれているらしくて、あまり言葉を発するのは良くないらしい。何とも鬱々とした感じだ。僕は喋ってもいいのかな。でも空気が読める僕はルークと目で合図するだけで言葉は発しなかった。
真っ白な彫刻が点在する広い芝生を囲む長い回廊をぐるりと歩いていくと、入り口から見えていた本殿とでも言う様な建物の中へと連れて行かれた。噴水のある中心のホールから幾つもの廊下が放射線状に伸びていて、そのひとつに案内された。
最初に感じたいかめしい神殿の外観とは打って変わって、案外建物の中は清廉で気持ちが良かった。沈黙の教会と言うだけあって、後ろの噴水の水音がここまで聞こえて来る。
「こちらへどうぞ。司祭長がお待ちです。」
青く彩られた扉を開けられて中に足を踏み入れると、思いの外質素な応接セットの奥の執務机から、紫色の司祭服を着た伯爵ぐらいの年の人が立ち上がった。その人はにっこり微笑むと僕たちに手を差し出してソファに座る様に促した。
「ようこそ、いらっしゃいましたね。噂では聞いていましたが、なるほど自ら光を纏うというのは神々しいですね。私はこの教会の司祭長を務めさせて頂いています、マルクです。わざわざ御足労頂いてありがとうございます。」
そう言って微笑む目の前のおじさんは物腰が柔らかくて、いかにも頭の硬い教会の人という感じはしなかった。僕の先入観が間違っていたみたいだ。
ひとしきりお互いの自己紹介と、僕のこれまでの経緯などを聞かれるまま答え終わると、マルク司祭長は僕をじっと見つめて言った。
「なるほどよく分かりました。…っふ、いや、よく分からないと言う方が正しいですかね。ジュシア様、貴方はこの国、いえ、この世界では非常に難しい存在です。上手く扱わないと、貴方は大きな火種になりかねません。それは自覚しておりますかな。」
そう言って僕をじっと見るマルク司祭長は、さっきまでの柔らかな物腰はいつの間にか影を潜めて、鋭い眼差しで身体を強張らせる様な緊張感を僕らに与えていた。
結局伯爵の代行で事情をよく知るルークが僕と同行してくれた。一応いざという時の為にアルフレッド様に頼んでギーク侯爵の後見があるとの一筆を書いてもらって来た。ヤバくなったらこれを差し出す印籠の様なものだ。
敷地に入って馬車から降りると、途端にあちこちで忙しく立ち動いていた司祭見習いや、従者たちが僕とルークを立ち止まって、あるいは呆然とガン見して来た。
教会だと思って一応きちんとした格好を選んできたけれど、それでも僕から滲むぼんやりとした明るさは閉じ込めて置けない。本当僕って神々しい。へへ。
連絡を受けたのか紺色の裾の長いいかにもな司祭服を着た二人が、入り口の扉に辿り着いた僕たちを出迎えて待っていた。僕が招待状を一歩前に歩み出た若い方の司祭に渡すと、二人は目を交わして頷き合ってついて来る様に僕たちに合図した。
この国の教会は沈黙の教会と呼ばれているらしくて、あまり言葉を発するのは良くないらしい。何とも鬱々とした感じだ。僕は喋ってもいいのかな。でも空気が読める僕はルークと目で合図するだけで言葉は発しなかった。
真っ白な彫刻が点在する広い芝生を囲む長い回廊をぐるりと歩いていくと、入り口から見えていた本殿とでも言う様な建物の中へと連れて行かれた。噴水のある中心のホールから幾つもの廊下が放射線状に伸びていて、そのひとつに案内された。
最初に感じたいかめしい神殿の外観とは打って変わって、案外建物の中は清廉で気持ちが良かった。沈黙の教会と言うだけあって、後ろの噴水の水音がここまで聞こえて来る。
「こちらへどうぞ。司祭長がお待ちです。」
青く彩られた扉を開けられて中に足を踏み入れると、思いの外質素な応接セットの奥の執務机から、紫色の司祭服を着た伯爵ぐらいの年の人が立ち上がった。その人はにっこり微笑むと僕たちに手を差し出してソファに座る様に促した。
「ようこそ、いらっしゃいましたね。噂では聞いていましたが、なるほど自ら光を纏うというのは神々しいですね。私はこの教会の司祭長を務めさせて頂いています、マルクです。わざわざ御足労頂いてありがとうございます。」
そう言って微笑む目の前のおじさんは物腰が柔らかくて、いかにも頭の硬い教会の人という感じはしなかった。僕の先入観が間違っていたみたいだ。
ひとしきりお互いの自己紹介と、僕のこれまでの経緯などを聞かれるまま答え終わると、マルク司祭長は僕をじっと見つめて言った。
「なるほどよく分かりました。…っふ、いや、よく分からないと言う方が正しいですかね。ジュシア様、貴方はこの国、いえ、この世界では非常に難しい存在です。上手く扱わないと、貴方は大きな火種になりかねません。それは自覚しておりますかな。」
そう言って僕をじっと見るマルク司祭長は、さっきまでの柔らかな物腰はいつの間にか影を潜めて、鋭い眼差しで身体を強張らせる様な緊張感を僕らに与えていた。
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