カワウソの僕、異世界を無双する

自分探し

混乱

僕はスマホを握りしめて、その場にしゃがみ込んだ。確かに僕は人間として生活してた。ぼんやりした感覚は、はっきりとした生活の結果だった。

「はぁ…。まじか。どうなってるの？」

僕は泥水の乾いた汚れを手で拭ってスマホの起動ボタンを押した。そうだと思ったけど、何の反応もしなかった。僕が18歳だと当然のように主張していたのは、まさに自分が18歳だからだ。


洋服が好きな僕はファッション系の専門学校に進学を決めて、洋服屋でバイトに明け暮れていた。助っ人で頼まれることもあって、ジャンルの違う洋服屋でも重宝がられていた。

それが、この世界でも役に立ってたなんて。いやいや、そんなことより、どういう事なんだろう。僕はコツメカワウソで、しかも文化も違うこの世界に居るなんて。考え始めたらどんどん謎は深まるばかりだった。


異世界転移…。僕はそれしか考えつくものが無かった。そしてここにスマホだけあるという事は、ここに最初来たのかもしれない。コツメカワウソ…。僕は自分の動画サイトでしょっちゅう眺めていたコツメカワウソの動画の事を思い出していた。

川の流れに乗って泳ぐその姿に、あんな風に泳ぎたいと思わなかったとは言えない。しかし、だからって人間とコツメカワウソの間を行き来するとか思わないじゃないか。


僕はゆっくりと立ち上がって周囲を見回した。何か他に手掛かりがあるかもしれないと、岩の隙間から漏れる光を頼りに念入りに探った。

結果としては何もなかった。僕はすっかり本来の自分自身の記憶を取り戻して、それ以外は収穫ゼロだった。僕はスマホをもう一度祭壇らしき場所に置き直した。この世界で過ごすには不必要なものだったし、これを引きずってあの狭い隙間を戻れる気がしなかった。


丁度その時、遠くからケインの心配そうに僕を呼ぶ声がして、僕はハッと顔を上げた。そうだ、僕はここにケインと来ていたんだ。一瞬、僕はこのままコツメカワウソに戻れなかったら、閉じ込められたまま死ぬかもしれないとゾクッとした。

記憶の戻った今、どうやって人型とコツメカワウソへ行き来していたのか分からなくなっていた。僕はゴクリと今まで感じたことのない緊張を感じながらここに辿り着いた場所の穴に手を掛けた。

戻りたい！ガブリエルのところに戻りたい！僕の願いはただひとつだった。