カワウソの僕、異世界を無双する

自分探し

ルーツへの旅路

「マジでまだ着かないの？」

僕はさっきから息が切れてしょうがない。隣を歩くマッチョケインでさえ、息を切らしているんだ。僕が弱音を言っても良いだろう？すると道案内をしてくれているおっさんが、呆れた様に僕を見つめて言った。

「あんたさんは見かけ通り、体力が無いなぁ。ちょっと休憩するか？まだ滝壺まではもうひといきあるからなぁ。しかし物好きな人もいるもんだ。実際聖水の場所を見に行きたいって、あんまり聞いたことが無い上に、行きたいっていうのがあんたみたいな綺麗所だろう？ワシも面食らったわ。」

休めそうな岩場に僕を座らせた目の前のおっさんは、そう言って可笑そうに笑った。


僕はケインからクッキーを渡されると口に放り込みながら、妙に懐かしいおっさんをジト目で見つめた。そう、このおっさんは僕をあの場所から王都へと連れ出した張本人だった。

結局聖水の滝壺に行くのに案内人を探していたら、このおっさんに辿り着いたんだ。僕がここから連れ出されてから一年は経っていないけれど、おっさん曰く大雨の後の土砂崩れでだいぶ地形が変わったとの事だった。


僕は体力的限界に気を取られていたせいで、あまり緊張しなくて済んでいた。

「ジュシア、大丈夫か？あんたは本当に体力が無いな。太り過ぎなんじゃないか…。」

そう、ケインがジロジロと僕のお腹の辺りを見つめて言ったけど、ぽっちゃりお腹なのはジュニであって、僕ではない。…多分。すると、おっさんが僕を見て言った。

「あんたの珍しい黒い目を見てると、これから行く滝壺で拾った変な動物を思い出すよ。見たこともない動物だったし、変な声で鳴く奴だったが、人懐っこくて可愛かったな。あれからここに何度も来ているが、仲間には結局会ったことがないんだ。
あいつ元気にしてるかなぁ。」


僕はちょっとした悪戯心を出して、おっさんに尋ねた。

「その見慣れない動物はどうなったんです？」

おっさんは僕の目を見て言った。

「ああ、商人曰く、どっかのお貴族様の坊ちゃんが随分気に入って引き取られたそうだ。きっと旨いもん食って丸々太ってるに違いねぇな。妙に可愛がりたくなる奴だったからな。」


ケインの意味深な顔を横目で見ながら、僕はおっさんに心の中で答えていた。

『おっさん、旨いものは食べさせてもらっているけどね、あんまり太らない様にって、皆厳しいんだよ？僕としては、もっとぽっこりお腹でも可愛くて良いと思ってるのにさ。』

僕は思わずクスクス笑って、不思議な顔で僕を見たおっさんに言った。

「僕もその動物に会いたかったな。ね、ケイン。」

目を見開いて呆れた顔のケインに、僕はますます笑いが止まらなかったよ。