カワウソの僕、異世界を無双する

包囲網

ルークside侯爵家の招待

「本日ガブリエル坊ちゃんは、ギーク侯爵家に参ります。ジュニが御令息を助けた事のお礼にと、ジュニのご主人様であるガブリエル様に是非にとの事で、ご招待をお受けいたしました。」

セバスチャンが朝の予定確認で告げた言葉に、私は思わず顔を上げた。そう言えばそうだった。ジュニは暴漢に襲われたギーク侯爵家のアルフレッド様を助けたのだと、この前話題になっていたじゃないか。


けれど、その時私はジュニが彼であるとは知らなかった。今になって思えば、ジュニがあの身体の大きなアルフレッド様をどう助けたと言うのか。いっそ、彼が助けたという方が自然だ。

いつもなら自分の名前が呼ばれたら、そちらをじっと見上げるジュニは、セバスチャンの言葉に知らんぷりして、朝食を食べ続けている。それが返って違和感を覚える。


しかもガブリエルもなぜか気が乗らない様子で、時々ジュニを見ながら朝食を突っついていた。私はやはり今回呼ばれているのが、私の腕の中に居た彼なのではと考えた。

今日一緒に行動を共にするのは見習い執事のケニーだ。そう言えばケニーは、居なくなったジュニをガブリエルと一緒に前回探しに行っていた。もしかして彼も、本当のところを知っているのでは？


私は朝食が終わると、さり気なくケニーの側に行って、小さな声で呼びかけた。

「ケニー、彼の身支度は大丈夫なのかい？もしあれなら私の昔の衣装があるから…。」

私がガブリエルの事を言ったとしてもおかしくない物言いをした所、ケニーはハッとした顔をして私に囁き返した。

「ルーク様もご存じなんですね。知らないふりをするのも緊張します。大丈夫です。ギーク侯爵家のアルフレッド様からジュシアさんに美しいブラウスが届いてますから。ご心配ありがとうございました。ふふ。神の使いを怒らせない様にするのも気が張りますね。」


そう言って、一礼すると慌ただしくジュニとガブリエルが消えた廊下へと追いかけて行った。私はその場に呆然と、いや、興奮を感じながら立ちすくんでいた。ハッと気を取り直すと、紅茶を手に一人になれるテラスへと出た。

テラスの手摺に寄り掛かりながら、私は温かな花の香りの紅茶を口に含んだ。今の話を解析すると、アルフレッド様はやはりジュニではなく『彼』に助けられたに違いない。美しいブラウスを贈ると言うことは、アルフレッド様もまた彼に魅了されたんだろう。


私はぐっと唇を噛み締めていたが、ふと、さっきのケニーの言葉をもう一度なぞった。ケニーはジュシアさんにブラウスが届いたと言った。そうか、彼の名前はジュシアだ。ジュニはジュシア。どちらも同じ。

…そう言えば、ケニーは変な事を言っていた。神の使い？どう言うことだ？私は、これ以上考えても解決できない疑問に、思わず晴れ上がった美しい青い空を見上げた。さて、これからどうすればいい？