カワウソの僕、異世界を無双する

夜遊びの副産物

僕のお迎え

お迎えが到着したと連絡を受けて、僕は侯爵と御令息に辞去の挨拶をすると、案内されるままに執事の後をついて歩いた。なぜか御令息まで一緒に見送ってくれる様なのだけど、身体の方は大丈夫なのだろうか。

「…あの、お身体はもう大丈夫なのですか？一時的とはいえ、息も止まってしまった事ですし、頭も怪我を負いましたよね？」

僕がそう尋ねると、アルフレッドは頭に巻いた包帯を手で押さえて言った。


「見かけよりは大した事は無いんだ。まさか私が狙われるなんて思いもしなかったものだから油断してしまった。心配してくれてありがとう。ジュシアには私からも改めてお礼をしたいと思う。」

そう言って柔らかに微笑む綺麗な灰色の瞳と目を合わせながら、この人は嫌いじゃないけど、もう一度爵位の高いギーク侯爵家に関わるのも面倒だなと思ってしまった。どう返事をすべきか迷っていると、丁度パタパタと軽い足音が耳に飛び込んできた。ガブリエルが迎えにきてくれた！？僕が振り返ると、少し離れた所にガブリエルが立っていた。


僕は思わずガブリエルに走り寄って、かがみ込んで抱き着いた。やっぱり色々ありすぎてガブリエルの顔を見たらホッとしてしまったんだ。ガブリエルが心配そうに僕を見上げて、手を握って言った。

「ジュニ、大丈夫なの？気絶したって聞いたけど。運河に飛び込んだって聞いて、僕凄く心配しちゃったよ？」

ああ、僕のご主人様は、ほんと可愛くて優しい。すると僕の後ろから、アルフレッドが近づいてきて言った。


「やあ、君がマケロン伯爵家のガブリエル君かい？ルークとは面識があるんだが、君とは初めましてだね。私はアルフレッド。ギーク侯爵家の次男だ。今回ジュシアは、私を助けようとして勇敢にも夜の運河に飛び込んで、しかも私の命まで救ってくれたんだ。

君の子守りは優秀な人だね。良かったら今度二人で遊びに来ないかい？この屋敷には君の好きそうな秘密の洞窟もあるんだよ。ジュシアに改めて礼もしたいからね。」


すると僕と手を繋いだまま、ガブリエルは貼り付けた笑顔でアルフレッドをじっと見つめて答えた。

「アルフレッド様。初めまして。ガブリエル　マケロンです。この度は僕の大事な子守りが、アルフレッド様のお役に立てた様ですね。でも正直ジュニ、いえ、ジュシアが自分の命を顧みずに酷く危険な事をしたと知って、随分心配しました。

ジュシアは見ての通り、アルフレッド様の様に頑丈なタチではありませんし。…今回は運が良かっただけでしょう。…お誘いいただいて嬉しいのですが、目覚めないほど体調を悪くしたので、しばらくはジュシアには大人しくしていてもらわないといけません。」


僕が聞いていても取り付く島のないその物言いに、アルフレッドは困った様に、ガブリエルに付いてきた伯爵家の執事見習いを見つめた。執事見習いが僕をマジマジと見つめて、訳がわからないという表情で僕たちの様子を見ている。この場をどうしたものかと悩んでいるのが見てとれて、僕はガブリエルに言った。

「ガブリエル様、あまり遅くなりますと伯爵も心配するでしょうから、もう帰りましょう。ガブリエル様自らお迎えに来てくださってありがとうございました。アルフレッド様、どうぞお身体の方、ご自愛ください。ではお見送りありがとうございました。」


そう言って、何か言いたげなアルフレッドに背を向けた。慌てて型通りの挨拶をして、侯爵家の家令と話をする執事見習いを横目で見ながら、僕とガブリエルは先に立って、手を繋いで馬車の方へと歩き始めた。

「ガブリエル、彼にはどう言ったの？僕のことを話したの？」

僕がそう尋ねると、ガブリエルは肩をすくめて言った。

「僕はただ、ジュニがあのくそでかい男を助けて帰れなくなったから、迎えに行こうって言っただけだよ。実際はケインと二人で来るはずだったんだけど、父上にお目つけ役を付けられちゃったんだ。まぁ、何とかなるでしょ。」

一難去って、また一難だ。「ジュシア」を知らない執事見習いを、これからどう料理したらいいんだろう！