カワウソの僕、異世界を無双する

夜遊びの副産物

ガブリエルside急な知らせ

執事の声に起こされて、僕は寝ぼけながらベッドの上に手を伸ばした。いつもならある、スルリとしたなめらかな手触りのジュニの暖かな身体がそこには無かった。執事が窓を開けるのを眺めながら、ジュニが部屋に居ない理由を思い出した。

「ガブリエル様、ジュニをケインのところから連れて参りましょうか？」

執事がそう言うのを聞いて、僕はパチリと目を開けて、起き上がった。


「ううん。僕が後で迎えに行くよ。」

僕がそう言ってベッドから降りると、執事は楽しそうに僕に言った。

「本当に、ガブリエル様はジュニがやって来てから、朝の目覚めが良くなりましたね。あんなに起こすのが大変だったなんて信じられませんね。」

僕はクスッと笑って呟いた。

「僕のジュニは本当に特別だからね。僕がジュニに出逢えたのは神様からの素敵なプレゼントだよ。」


朝食の前に、走ってケインの部屋に向かうと、丁度向こうからケインが慌てた様にやって来た。僕はケインの側にジュニが居ない事に気づいて、キョロキョロと周囲を見渡した。

「ケイン、ジュニは？どこなの？」

ケインは周囲を伺うと、僕を側のテラスから外に連れ出して周囲を伺いながら囁いた。


「ガブリエル坊ちゃん、大変なことになりました。ジュシアが昨夜、運河に落ちたギーク侯爵家令息を助けたんです。救助で疲れ切ったせいでしょう、気絶してしまったジュシアは、そのまま俺と侯爵家に連れて行かれてしまって、こちらに帰る事が出来なくなってしまって。

俺は坊ちゃんにお知らせしようと、朝イチでこちらに戻ってきたんです。医者の見立てでは、ジュシアは今日には目が覚めるだろうって話でした。

坊ちゃん、問題は、もしギーク侯爵家から、伯爵家にジュシアについて一報が届いたらどうやって誤魔化して良いか分からないって事です。ここにはジュシアなんて名前の使用人は居ないんですからね。」


そう言って頭を抱えてしまったケインは、すっかり意気消沈していた。僕はびっくりしてケインに尋ねた。

「ジュニは、ジュニは大丈夫なの！？」

ケインは頷いて、多分疲れ切ってしまっただけだと思うと話した。そうなると、確かに人間のジュニを侯爵家の馬車がここに連れてきたら、チグハグな事になりかねない。僕はケインに言った。

「何としてでも僕とケインでジュニを迎えに行かなくっちゃ。とりあえず、母上と話をつけてみるよ。ケインは侯爵家へ一緒に行ける様に馬車を用意しておいてね。」


僕は朝食の時も気がそぞろで、いつもジュニの居る場所を見つめてはため息をついていた。その時僕の頭に閃いた事があった。

「ガブリエル、今朝はジュニはどうしたのかしら？」

母上がそう尋ねるのを待っていた僕は、母上に困った顔を見せて言った。

「どうも、ジュニが夜遊びから戻ってないみたいです。ジュニは時々そんな事があって。もし昼過ぎまで戻らなかったら、後でケインと馬車で探しに行っても良いですか？」


すると父上が面白そうに笑って言った。

「早速あの専用の出入り口を活用しているみたいだな、ジュニは。まったく飼い主に面倒かけるとは、ペットとしても一人前だな？ははは。ガブリエルにとっても、責任を持って動物を飼うのは良いことだね。セバスチャン、念のため執事見習いも一緒に付き添わせてやりなさい。」

僕は半分成功して、半分失敗したこの作戦がどう転ぶか分からなかったけれど、何とか味方にしなくちゃと執事見習いのケ二ーに微笑み掛けた。

「ケニー、ジュニを探すの手伝ってね？」