カワウソの僕、異世界を無双する

夜遊びで釣れるもの

帰る場所

僕の焦りが伝わったのか、執事からは連絡はついているから心配はないからとの話をされるばかりだった。結局ケインは朝イチで伯爵家に戻ったという事も分かった。だったらきっと、ガブリエルに事の次第を伝えてくれる事だろう。僕はガブリエルが随分心配してるだろうと考えると、じっとしては居られなかった。

ただ、ここではたと僕は気づいてしまった。『ジュシア』は一体何処に帰ればいいんだろうって。もしマケロン伯爵家に連絡がいっているとしたら、伯爵家としては困惑するばかりだろう。ジュシアなんていう名前の使用人は居ないのだから。


僕はこれからどうやってガブリエルの元に戻れば良いのかと、頭を抱えた。それが具合が悪そうに見えたのだろう。急に女中頭がきびきびとベッドの枕を整えると、僕を小さな子供の様にベッドに寝かしつけた。いや、僕は18歳ですが、まさか少年に見えているんじゃないだろうね…。

「まだ、顔色も悪いですし、もう少し休んでいて下さい。何か消化の良いお食事を運んできましょうね。」

すっかり僕は病人扱いで、三人はやる事を済ませたとばかりに部屋を出て行ってしまった。僕は扉が閉まるのを確認すると、ゆっくりと起き上がった。


確かに無理をしたせいか、あちこち筋肉痛ではあったけれど、病人ではない。しかも馬鹿みたいに眠っていたせいか、すっかり腹が減った。ベッドから降りると多少フラついたものの、僕は部屋の窓から外を窺い見た。

マケロン伯爵家よりも、ひと回り以上広い敷地が目の前に広がっていて、さすがの侯爵家なんだろう。ここは一階のゲストルームらしくテラスもついていて、使用人如きには勿体ないほどの待遇だと感じた。命の恩人、僕はその括りでこの扱いなのかもしれない。


『ジュシア』として戻る方法も考えないといけないし、このシルクの様な手触りの寝巻きではこっそり外にも出られない。カワウソ姿で忍び出たとしても、伯爵家へどうやって辿り着いて良いかも分からなかった。僕はため息をつくと、部屋のティーテーブルに置いてあったクラッカーや、飲み物を少し頂こうと、座り心地の良過ぎるソファに沈み込んだ。

こうしていると、これはこれで安楽な気分だ。とりあえず、食事と服を手に入れるまで、命の恩人としての待遇を楽しむのもありかもしれない。僕は自分の境遇がこうも思わぬ方向に転がっていくのに思わず笑いが込み上げてきて、クスクスと笑ってしまった。ああ、それにしても侯爵家の食事はさぞかし美味しいだろうね！