カワウソの僕、異世界を無双する

夜遊びで釣れるもの

運河にドボン

耳の際を水音が鳴って、僕は暗い運河の中に飛び込んでいた。夜目が効くとはいえ、流石に水の中では見通しが悪い。水面に顔を上げると少し先に泡が立っているのが見えた。僕は息を大きく吸い込むと、カワウソ生活で培った水中での親和性を味方に、勢いよくその泡の浮き出ていた辺りの水中目掛けて無心で潜った。

微かに感じる血の匂いに、僕はゾクゾクと背筋を震わしながら、目指す対象者を発見した。気絶しているのか、水中に血を溶かしながら、ぐったりと沈んでいく男の首根っこのシャツを掴むと、僕はグイと引っ張って水面めがけて浮き上がった。


僕には一人前の男は重かったけれど、かと言って手を離せば沈んで死んでしまうだろう男を見捨てる事も出来ずに、一旦水面に背中を向けて浮くと、男の顎に手をかけて、こちらを見て人が騒いでいる方角目指してゆっくりと泳いでいった。

運河を覗き込んでいるのはケインで、他にもさっきは見かけなかった十人ほどの野次馬らしき人々が騒ぎ立てながら僕を指差していた。

「こっちだ！ここから上がれる。」


そう呼びかけられて、僕は方向を変えて呼ばれた方へと泳いだ。この重たい荷物を抱えて泳ぐのは、マジで疲れる。人間仕様でも泳ぐのは得意だと思ったが、そもそも上手さと体力に関係はないかもしれない。

ようやく数人が待っている階段の様な降り口に辿り着くと、僕の手からぐったりした男を引き取ってくれた。僕はもう一歩も立てずに階段の一番下で、身体を運河に浸しながら動けないでいた。


「ジュシア！大丈夫か！」

そう言ってケインが僕を水の中から引き上げてくれた。もう体力が尽きてしまった僕は、ケインに抱き抱えられながら階段をヨタヨタと上がると、横たわった男の側に四つん這いになった。

何とか息をさせようと右往左往している人々ではダメだと悟った僕は、ケインに言った。

「…今からあいつを蘇生させるよ。僕はもう疲れちゃったから、ケインが僕の言う通りにあいつの胸を押して。」


そう言って、僕たちは野次馬を退かせると、ケインにやり方を教えて、僕はピクリとも息をしていない男に覆い被さった。まったく、僕が命懸けで水の中から引っ張り上げたんだ。このまま死なれでもしたら、アレが無駄になるのは気に入らない。

僕はケインに声を掛けながら、鼻を摘んで息を吹き込んだ。合間にケインが馬鹿力で胸を押して、蘇生に勤しんだ。すると冷たい唇が不意に動いて、ゲホゲホと水を吐き出した。


頭に怪我をしているせいで、多分あまり水は飲んでないだろう。僕たちが駆けつけた時に、丁度頭をボコられて真っ逆さまに運河へと落ちて行ったのだから。

僕は周囲がワッと湧き立ったのを聞いてホッとしたせいで、そのまま地面に倒れ込んで何も見えなくなってしまった。あぁ、疲れた…。