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侯爵家
大魔法師の元へ
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アルバートに見送られてドーム状の石造りの建物へ入ると、妙な感じがした。遠近法に違和感が生じている。目を擦っていると、こちらに黒いローブを着た二人といかにもな護衛らしき一人がやって来た。
アルバート曰くこの建物には部外者は入れないと言うことだったので、彼らは魔法師なのだろう。
絵都と2mほどの距離を空けて立ち止まった彼らのうち、アルバートより少し年上に見えるスラリとした赤髪の青年が一歩前に進んで言った。
「特別な魔物であるエド様でいらっしゃいますね。本日はご足労をありがとうございます。ロブリアス侯爵より、エド様は非常に友好的な魔物で在られると伺っております。
…今こうしても感じられるエド様の魔力量を考えますと、その点は有り難いですね。
こちらはこの国随一の大魔法師であるアドラー様であられます。私はエド様のお世話をさせていただくゼインです。お見知り置き下さい。」
赤髪のゼインに紹介されて、絵都は大魔法師と紹介されたアドラーに目を移した。予想より若い。大魔法師というくらいだから凄い老人かと思っていたけれど、歳の頃は40歳ぐらいだろうか。
真っ白の髪と抜け目のない濃い緑色の眼差しで、身体も大きく厳ついので騎士と言われても信じられそうだ。
絵都は自分から一歩大魔法師に歩き寄って微笑んだ。
「はじめまして、アドラー様。私はエドです。この世界では魔物と言われていますが、そもそも私はこの世界の者ではありませんから魔力の使い方もあまり良く分からないのです。
アルバートに自分の身が守れないと心配だと言われたのもそうですが、それに限らず色々教えてくださると嬉しいです。」
大魔法師のアドラーは少し目を見開いて絵都を見つめた。戸惑っている様子から、正直に言いすぎたかと絵都は少し後悔した。
「…なるほど?見かけがチビだからあれだが、実のところあんたの魔力は想像以上だ。その力を暴走されても困るからな、まぁ協力するしかないか。じゃあ、ついて来てくれ。」
絵都は思いの外ざっくばらんなアドラーに正直度肝を抜かれた。侯爵家の様な貴族然とした面々に慣れていたせいで、アドラーの様な軽い感じは以前のバイト仲間を思わせて妙に懐かしい。
アドラーとゼインに案内されるままに建物の奥へと進むと、後ろからもう一人がついて来た。いかにも護衛といった出立ちだったけれど、警戒されているのか視線が突き刺さる様だった。
絵都が彼のことを少し気にしていると、ゼインが絵都に言った。
「すみません。一応念のために護衛をつけています。アドラー様がいれば護衛も必要ない気もしますけどね。アドラー様は魔法に長けているだけじゃなく、武芸にも通じてますので。」
騎士の様だと感じたのは間違ってはいなかった様だった。思わず絵都は小さくビンゴと呟いた。彼らにとって絵都は得体が知れない魔物なのだから護衛をつけるのも当然だろう。
自分にだって、自分の魔力がどれ程のものかも分からないのだ。彼らが用心するのも当然だと苦笑した。
建物の奥のひと部屋に入ると、机の上の大きなボール状の入れ物の中に色とりどりの魔石が詰め込まれていた。色が薄いからきっと魔力が減った魔石だろう。
その中に手を突っ込んだアドラーは魔石を一掴みすると絵都に見せる様に手を開いた。
「これに魔力を入れる速さを見たい。この様にそれぞれの色別に注入出来るか?」
そう言うともう一度魔石を握って、それから机にそれをザラリと転がした。
明らかに色素の濃くなった色取りどりの魔石が煌めいて転がっている。絵都はそれを見て驚きと同時に困惑した。実際は触れるだけで自分の魔力が石に移るだけだったので、意図的に色別に魔力を込めるなどと言う高度な技は出来る気がしない。
「…正直出来るか分かりません。僕が触れると勝手に魔石が変化するだけなのです。僕は意識的にやった事がないんです。」
するとアドラーは少し考え込んで、透明に近い大きめの魔石をひとつ机に置いた。
「ではこれにいつもの様にやって見せてくれ。色は何でも良い。」
絵都は思い切って指を魔石に乗せた。少し緊張する。すると例によって指が触れた場所から一気に虹色に染まった。
その場が静かになった気がして絵都が顔を上げると、アドラーは眉を上げてニヤリと笑った。
「なるほど?ハハハ、さすが特別な魔物様だな。こんなに簡単に虹色の魔石が作れるのなら、それだけでこの国にどれほどの恩恵があるか知れない。
侯爵家の坊ちゃんの心配も分かるな。ましてその見かけだ。魔力がなくても人攫いに合いそうだ。しばらくここに泊まって急ぎ護身魔法を身につけてもらうしか無さそうだ。
ゼイン、お前早速教えてやれ。今日中に《壁》が出来る様にな?魔物様、こいつは若くても中々のやり手なんだ。ちょっと容赦ないがな。…あんたは若く見えるが魔力は膨大だからコツさえ掴めれば何とかなるだろう。
じゃあ、ゼイン頼むな。」
自分勝手にそう言うと、アドラーはさっさと歩き去ってしまった。残されたのは僕と呆気に取られた顔の若い魔法師のゼイン、そして護衛が一人。いきなり魔法を身につけろ?出来るのだろうか。
それにしばらく泊まっていけって言った?夜アルバートが居なくて大丈夫なのかな。どう考えても大丈夫じゃないんだけど。ああ、アドラーって強引過ぎないか?
アルバート曰くこの建物には部外者は入れないと言うことだったので、彼らは魔法師なのだろう。
絵都と2mほどの距離を空けて立ち止まった彼らのうち、アルバートより少し年上に見えるスラリとした赤髪の青年が一歩前に進んで言った。
「特別な魔物であるエド様でいらっしゃいますね。本日はご足労をありがとうございます。ロブリアス侯爵より、エド様は非常に友好的な魔物で在られると伺っております。
…今こうしても感じられるエド様の魔力量を考えますと、その点は有り難いですね。
こちらはこの国随一の大魔法師であるアドラー様であられます。私はエド様のお世話をさせていただくゼインです。お見知り置き下さい。」
赤髪のゼインに紹介されて、絵都は大魔法師と紹介されたアドラーに目を移した。予想より若い。大魔法師というくらいだから凄い老人かと思っていたけれど、歳の頃は40歳ぐらいだろうか。
真っ白の髪と抜け目のない濃い緑色の眼差しで、身体も大きく厳ついので騎士と言われても信じられそうだ。
絵都は自分から一歩大魔法師に歩き寄って微笑んだ。
「はじめまして、アドラー様。私はエドです。この世界では魔物と言われていますが、そもそも私はこの世界の者ではありませんから魔力の使い方もあまり良く分からないのです。
アルバートに自分の身が守れないと心配だと言われたのもそうですが、それに限らず色々教えてくださると嬉しいです。」
大魔法師のアドラーは少し目を見開いて絵都を見つめた。戸惑っている様子から、正直に言いすぎたかと絵都は少し後悔した。
「…なるほど?見かけがチビだからあれだが、実のところあんたの魔力は想像以上だ。その力を暴走されても困るからな、まぁ協力するしかないか。じゃあ、ついて来てくれ。」
絵都は思いの外ざっくばらんなアドラーに正直度肝を抜かれた。侯爵家の様な貴族然とした面々に慣れていたせいで、アドラーの様な軽い感じは以前のバイト仲間を思わせて妙に懐かしい。
アドラーとゼインに案内されるままに建物の奥へと進むと、後ろからもう一人がついて来た。いかにも護衛といった出立ちだったけれど、警戒されているのか視線が突き刺さる様だった。
絵都が彼のことを少し気にしていると、ゼインが絵都に言った。
「すみません。一応念のために護衛をつけています。アドラー様がいれば護衛も必要ない気もしますけどね。アドラー様は魔法に長けているだけじゃなく、武芸にも通じてますので。」
騎士の様だと感じたのは間違ってはいなかった様だった。思わず絵都は小さくビンゴと呟いた。彼らにとって絵都は得体が知れない魔物なのだから護衛をつけるのも当然だろう。
自分にだって、自分の魔力がどれ程のものかも分からないのだ。彼らが用心するのも当然だと苦笑した。
建物の奥のひと部屋に入ると、机の上の大きなボール状の入れ物の中に色とりどりの魔石が詰め込まれていた。色が薄いからきっと魔力が減った魔石だろう。
その中に手を突っ込んだアドラーは魔石を一掴みすると絵都に見せる様に手を開いた。
「これに魔力を入れる速さを見たい。この様にそれぞれの色別に注入出来るか?」
そう言うともう一度魔石を握って、それから机にそれをザラリと転がした。
明らかに色素の濃くなった色取りどりの魔石が煌めいて転がっている。絵都はそれを見て驚きと同時に困惑した。実際は触れるだけで自分の魔力が石に移るだけだったので、意図的に色別に魔力を込めるなどと言う高度な技は出来る気がしない。
「…正直出来るか分かりません。僕が触れると勝手に魔石が変化するだけなのです。僕は意識的にやった事がないんです。」
するとアドラーは少し考え込んで、透明に近い大きめの魔石をひとつ机に置いた。
「ではこれにいつもの様にやって見せてくれ。色は何でも良い。」
絵都は思い切って指を魔石に乗せた。少し緊張する。すると例によって指が触れた場所から一気に虹色に染まった。
その場が静かになった気がして絵都が顔を上げると、アドラーは眉を上げてニヤリと笑った。
「なるほど?ハハハ、さすが特別な魔物様だな。こんなに簡単に虹色の魔石が作れるのなら、それだけでこの国にどれほどの恩恵があるか知れない。
侯爵家の坊ちゃんの心配も分かるな。ましてその見かけだ。魔力がなくても人攫いに合いそうだ。しばらくここに泊まって急ぎ護身魔法を身につけてもらうしか無さそうだ。
ゼイン、お前早速教えてやれ。今日中に《壁》が出来る様にな?魔物様、こいつは若くても中々のやり手なんだ。ちょっと容赦ないがな。…あんたは若く見えるが魔力は膨大だからコツさえ掴めれば何とかなるだろう。
じゃあ、ゼイン頼むな。」
自分勝手にそう言うと、アドラーはさっさと歩き去ってしまった。残されたのは僕と呆気に取られた顔の若い魔法師のゼイン、そして護衛が一人。いきなり魔法を身につけろ?出来るのだろうか。
それにしばらく泊まっていけって言った?夜アルバートが居なくて大丈夫なのかな。どう考えても大丈夫じゃないんだけど。ああ、アドラーって強引過ぎないか?
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