130 / 343
夏の夜
皇太子side真珠の君
しおりを挟む
壇上から降りると、一瞬あの彼の姿を見失ってしまった。私は周囲に近づいて来る若い貴族たちを適当に交わしながら、それでも目をあちこちに向けながら少し焦れつく気持ちで、彼を探した。
しかし見つけられずに、参加者を把握している私付きの従者に見つけてもらう様に頼もうかと、振り向いた私の目は彼を捉えた。
友人らしき若い貴族と、デザートビュッフェで美味しそうに甘味を口に頬張る彼は、何だかとても可愛いらしい。さっき遠目で見た時の儚げなあの姿とは、全然違っていた。
私は心臓がドクリと音を立てたのを感じた。ああ、彼は素敵だ。獣人にしては全体的に華奢な体つきは、細いと言うよりしなやかに見える。そして見たことのない黒髪と黒い瞳。
艶のある顎までの黒髪から覗く、丸いふわふわの耳は一体何の種族なのだろう。見ても分からないなんてこと、あるのだろうか。私は白いジャケットとその刺繍された特徴的な紋様から、リットン伯爵を思い出した。
真珠の産地のリットン領。貴族なのか、そうではないのか分からない真珠の君。首元のタイピンはこちらからではよく見えない。
私は探していたものを見つけたかもしれない嬉しさで胸が高鳴るのか、それとも、もう直ぐ手の届く位置にいるあの彼と視線を交わせる事に、心が浮き立っているのか判断できないまま、彼に歩み寄った。
想像通りの彼の柔らかな甘い声が、ここのデザートは食べないと損だと主張をするのを聞いて、クスリと笑うと後ろから話しかけた。振り返って私を見つめる彼に、私はがっちりと全身を掴まれた気がした。
これが魔法なら、相当なものだと思わせるその感覚は経験が無かった。思った通り一見儚げな、見慣れない風貌は陶器で出来た人形の様で、しかしきらめく黒い瞳が驚いたように私を見つめる。
私を前に動揺したのか、口籠もりながらおススメを教えてくれる目の前の青年を観察しながら、私はふとタイピンに目をやった。そこには見たこともない見事な黒真珠が一粒留まっていた。
一度王宮の宝飾の間に飾られている指輪に、似たようなものを目にしたことがあった。しかしそれより質が良いのは一目瞭然だった。一般には知られていない黒真珠は、彼の黒色によく映えて何処かの王子の様に見えた。
お勧め通りに美味しいデザートを口にしながらふと気づくと、真珠の君らしき彼は後退りながら私から距離を取ろうとしていた。
私は彼が貪欲に皇太子である私とお近づきになりたくない様子を見て、好感を持ったのか、残念に思ったのかどちらか判断できない気持ちのまま、ただここで逃してはなるまいと、自ら彼に近づいていた。
しかし見つけられずに、参加者を把握している私付きの従者に見つけてもらう様に頼もうかと、振り向いた私の目は彼を捉えた。
友人らしき若い貴族と、デザートビュッフェで美味しそうに甘味を口に頬張る彼は、何だかとても可愛いらしい。さっき遠目で見た時の儚げなあの姿とは、全然違っていた。
私は心臓がドクリと音を立てたのを感じた。ああ、彼は素敵だ。獣人にしては全体的に華奢な体つきは、細いと言うよりしなやかに見える。そして見たことのない黒髪と黒い瞳。
艶のある顎までの黒髪から覗く、丸いふわふわの耳は一体何の種族なのだろう。見ても分からないなんてこと、あるのだろうか。私は白いジャケットとその刺繍された特徴的な紋様から、リットン伯爵を思い出した。
真珠の産地のリットン領。貴族なのか、そうではないのか分からない真珠の君。首元のタイピンはこちらからではよく見えない。
私は探していたものを見つけたかもしれない嬉しさで胸が高鳴るのか、それとも、もう直ぐ手の届く位置にいるあの彼と視線を交わせる事に、心が浮き立っているのか判断できないまま、彼に歩み寄った。
想像通りの彼の柔らかな甘い声が、ここのデザートは食べないと損だと主張をするのを聞いて、クスリと笑うと後ろから話しかけた。振り返って私を見つめる彼に、私はがっちりと全身を掴まれた気がした。
これが魔法なら、相当なものだと思わせるその感覚は経験が無かった。思った通り一見儚げな、見慣れない風貌は陶器で出来た人形の様で、しかしきらめく黒い瞳が驚いたように私を見つめる。
私を前に動揺したのか、口籠もりながらおススメを教えてくれる目の前の青年を観察しながら、私はふとタイピンに目をやった。そこには見たこともない見事な黒真珠が一粒留まっていた。
一度王宮の宝飾の間に飾られている指輪に、似たようなものを目にしたことがあった。しかしそれより質が良いのは一目瞭然だった。一般には知られていない黒真珠は、彼の黒色によく映えて何処かの王子の様に見えた。
お勧め通りに美味しいデザートを口にしながらふと気づくと、真珠の君らしき彼は後退りながら私から距離を取ろうとしていた。
私は彼が貪欲に皇太子である私とお近づきになりたくない様子を見て、好感を持ったのか、残念に思ったのかどちらか判断できない気持ちのまま、ただここで逃してはなるまいと、自ら彼に近づいていた。
32
お気に入りに追加
1,939
あなたにおすすめの小説
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
異世界に転移したショタは森でスローライフ中
ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。
ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。
仲良しの二人のほのぼのストーリーです。
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~
沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。
巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。
予想だにしない事態が起きてしまう
巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。
”召喚された美青年リーマン”
”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”
じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”?
名前のない脇役にも居場所はあるのか。
捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。
「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」
ーーーーーー・ーーーーーー
小説家になろう!でも更新中!
早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!
異世界でチートをお願いしたら、代わりにショタ化しました!?
ミクリ21
BL
39歳の冴えないおっちゃんである相馬は、ある日上司に無理矢理苦手な酒を飲まされアル中で天に召されてしまった。
哀れに思った神様が、何か願いはあるかと聞くから「異世界でチートがほしい」と言った。
すると、神様は一つの条件付きで願いを叶えてくれた。
その条件とは………相馬のショタ化であった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる