僕が獣人？いいえ、人間です。内緒ですけど。

夏の夜

皇太子とのニアミス

僕は目の前のデザートビッフェにワクワクしながら、口いっぱいの甘味を味わっていた。美味しいっ！僕は根っからの？いや、女だらけの環境がそうさせた方が大きいかもしれないけれど、甘党だ。

ロービンとアーチストが、僕が端からデザートを味わっていくのをウンザリした顔で見つめていた。

「私はマモルの事を舐めてました。こんなに甘いものを食べても平気なんて…。」


ロービンのボソリと呟いた言葉に、僕は目を見開いて答えた。

「だってここのデザートは学園のカフェとはレベルが違うっていうか、上質過ぎて、どれだけ食べてもお腹にもたれないんだよ？食べなきゃ損だって！」

すると僕の後ろから声がした。


「そうなのかい？それは知らなかった。私も食べるとしよう。お勧めは何かな？」

僕はデザートを愛する獣人にオススメを紹介しようと、にっこり笑って振り返った。その瞬間、目に飛び込んできたのは金色だった。肩までのサラサラの金髪と僕を見つめる金色の眼差しは、どう見ても絵本から出て来たような王子様だった。

王子様は僕をじっと見つめると、チラリと僕のタイピンを見た気がした。


「あ、あの、おススメはこのラズベリー味のムースです。これなら甘いものが得意じゃなくても美味しく食べられます。」

目の前の皇太子らしき獣人は、優しく微笑むと従者に用意させて僕の目の前で食べ始めた。僕はこの状況にパニックになっていた。僕のミッションはまたひとつ失敗したんだ。

よりにも寄って、皇太子と話をしてしまった。でも僕はひとつ気づいていた。皇太子はまだ僕が誰なのか知らない筈だ。ここはゆるりとフェードアウトして、デザートだけの記憶にするほかないだろう。頑張れ僕！


僕は不自然にならないように、そっと皇太子から視線を外すと、他のデザートを見るふりをしてゆっくりと後ずさった。僕が十分距離を取ったと確信したその時、皇太子がつかつかと僕に歩み寄ってきた。

なんて事！僕のノロノロ牛歩作戦は見事失敗したんだ。チラリとロービンに視線を投げると、さすがに皇太子相手では助け舟は出せないようで、小さく首を振られてしまった。


「私はアスラン。この国の第一王子だ。…甘いものが好きな君の名前は何て言うんだい？教えてくれるかな。」

僕は観念して皇太子を見上げると、手を胸に当てて礼を執って答えた。

「皇太子、僕はマモル　カザマです。リットン伯爵に後見をして頂いております。」