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リットン領への旅路

僕の災難

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微かに僕の名を何度も呼ぶ声に、僕は暗い海底でうずくまった膝から顔を上げて、キラキラ光る水面を見つめた。僕を呼ぶ声はあのキラキラの向こうから聞こえる。

僕は静寂で満たされた、何の不安もない海の底に留まっていたかった。でも、僕の名前を呼ぶその声が、あまりにも必死さに溢れていたので、立ち上がると指先を海の天井に向けて伸ばした。するとふわりとした浮遊感に包まれて、最初はゆるゆると上昇していたけれど、そのうち凄い勢いで水面目指して僕は昇っていった。



喉がきしむ様な痛みと、ぐったりと力の入らない自分の身体を感じて、僕は嫌々瞼を動かした。眩しい光の中僕が見たのは、青褪めて不安そうなリットン伯爵の顔だった。

僕の冷え切った身体の中に、リットン伯爵が触れている僕の額からじわじわと気持ちの良い温かさが巡ってきた。僕はリットン伯爵にどうしたのか聞こうと思ったのだけれど、声は出なかったし、そもそも身体がだるくて唇さえ動かせなかったんだ。


急に周囲からガヤガヤと僕の名前と共に話し声が聞こえて来た。僕はその煩さに顔を顰めて、また目を閉じた。僕が覚えているのはここまでだった。

次に気づいたのは、温かなベッドの中で、ぬくぬくとしたベルベットの様な高級そうな黄色い毛皮の毛布に包まれている時だった。その毛布は僕の肌に直接触れていて、気持ち良さと暖かさで僕は無意識に微笑むとまた深い眠りへと吸い込まれていた。



「…マモル、マモル。」

リットン伯爵の呼びかけに僕は、ぼんやりと目を開けた。僕の目の前に美しい琥珀色の瞳のリットン伯爵と、髭の眼鏡を掛けた年配の男性が僕を覗き込んでいた。眼鏡の紳士は僕の目や、喉、顎などを触るとリットン伯爵に何か言った。なんかお医者さんみたいだな…。

僕がぼんやりと二人を見つめていると、リットン伯爵は僕の視線に気がついたのか顔を寄せて言った。

「マモル、体調はどうだ?起き上がれそうかな?」


僕はリットン伯爵に頷くと、ゆっくりと支えられながらベッドに起き上がった。ドクターが背中にクッションを入れてくれて、僕は何だか病人みたいだなと思った。

僕は部屋を見回した。見たことのない部屋で、窓からは海が見えた。海!何だっけ?僕何だか大変なことに巻き込まれた気がする!僕は、ハッとして伯爵の顔を見た。


「…伯爵、僕、浜辺で何か光るものが…砂の中にあるのを見つけたんです。…それを取ろうと手を伸ばしたら…、何かにがっちりと捕まってしまって。僕、怖くて…でも振り解くことも出来なくて!

海の中に引き摺り込まれた事までは覚えているんですけど、口の中に水が流れ込んできて僕、死ぬかと思った…!」








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