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リットン領への旅路
天国と地獄
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見晴らしの良い海岸に出ると、そこは真っ白な砂の広がる見通しの良い砂浜が広がっていた。少し離れた右の方には川との合流地なのか、船着場の様な場所が造られていた。
そこには何人かの獣人が何かガヤガヤと騒いでいた。僕は仕事でもしているのかとチラッと見ただけで、直ぐにその事は忘れてしまった。
僕は目の前の光景に思わず歓声をあげて、波打ち際まで走っていった。ああ、この世界の海は、何も違わない海だ!僕は指先に海水をつけると舐めてみた。…あれ、塩辛くない。これって真水なの?
僕はようやく近くまでたどり着いた伯爵に近寄ると、海の水が塩辛くないと訴えた。伯爵はそんなの当たり前だろうと僕を可哀想な子でも見るような眼差しで見つめると、小さな声で言った。
「マモルの国では違ったのかな?」
僕はコクコクと頷いたけれど、護衛達もいるこの場所では色々話すことが出来ずに伯爵に後で話そうと言われて、邪魔になるローブを護衛に預けると、また波打ち際まで戻って行った。
僕は足をつけて海に入りたかったけれど、獣人の国では素足を人前で晒すのは性器を見せるのと変わりないんだと、伯爵にキツく言われていた。どう考えても変な話だけれど、それが獣人のルールならば守らないといけない。
僕は諦めてしゃがみ込むと海に手をつけて寄せて引く波を楽しんだ。
伯爵のそろそろ戻るぞと言う声に、後ろ髪を引かれながら立ち上がった僕は、波間にキラリと光る何かを見つけた。僕は少し靴が濡れても真水だしと考えて、一二歩海に進んだ。
そして海の中に光る何かを手を伸ばして掴もうとしたんだ。その時後ろの方で護衛が僕の名前を叫んだ気がしたけれど、僕には振り向く暇も、時間も無かった。
気がつけば僕は大きな何かに捉えられて、海の中へと引き摺り込まれていく最中だったのだから。僕の伸ばした手はぬるりとした何かに巻きつかれてしまった。ハッとした時には既に遅く、僕はグイッと引っ張られて海に倒れ込むとズルズルと浅い海を沖の方へと引き摺られていた。
僕が抵抗しても全く効き目のないその力は、確実に海の砂地の中を移動していく。無駄な足掻きだと思いながらも、バシャバシャと無惨にも暴れる僕は、海に引き摺り込まれてしまうという恐怖と、何かが手首を締め付けるその痛みと、悲鳴をあげる口に流れ込む水にパニックになっていた。
ああ、ここでお陀仏なの?僕はまだここが浅瀬だと分かっていたのに、立ち上がることも出来ずに、この何かから逃れる事は出来ないのだと絶望したんだ。
そこには何人かの獣人が何かガヤガヤと騒いでいた。僕は仕事でもしているのかとチラッと見ただけで、直ぐにその事は忘れてしまった。
僕は目の前の光景に思わず歓声をあげて、波打ち際まで走っていった。ああ、この世界の海は、何も違わない海だ!僕は指先に海水をつけると舐めてみた。…あれ、塩辛くない。これって真水なの?
僕はようやく近くまでたどり着いた伯爵に近寄ると、海の水が塩辛くないと訴えた。伯爵はそんなの当たり前だろうと僕を可哀想な子でも見るような眼差しで見つめると、小さな声で言った。
「マモルの国では違ったのかな?」
僕はコクコクと頷いたけれど、護衛達もいるこの場所では色々話すことが出来ずに伯爵に後で話そうと言われて、邪魔になるローブを護衛に預けると、また波打ち際まで戻って行った。
僕は足をつけて海に入りたかったけれど、獣人の国では素足を人前で晒すのは性器を見せるのと変わりないんだと、伯爵にキツく言われていた。どう考えても変な話だけれど、それが獣人のルールならば守らないといけない。
僕は諦めてしゃがみ込むと海に手をつけて寄せて引く波を楽しんだ。
伯爵のそろそろ戻るぞと言う声に、後ろ髪を引かれながら立ち上がった僕は、波間にキラリと光る何かを見つけた。僕は少し靴が濡れても真水だしと考えて、一二歩海に進んだ。
そして海の中に光る何かを手を伸ばして掴もうとしたんだ。その時後ろの方で護衛が僕の名前を叫んだ気がしたけれど、僕には振り向く暇も、時間も無かった。
気がつけば僕は大きな何かに捉えられて、海の中へと引き摺り込まれていく最中だったのだから。僕の伸ばした手はぬるりとした何かに巻きつかれてしまった。ハッとした時には既に遅く、僕はグイッと引っ張られて海に倒れ込むとズルズルと浅い海を沖の方へと引き摺られていた。
僕が抵抗しても全く効き目のないその力は、確実に海の砂地の中を移動していく。無駄な足掻きだと思いながらも、バシャバシャと無惨にも暴れる僕は、海に引き摺り込まれてしまうという恐怖と、何かが手首を締め付けるその痛みと、悲鳴をあげる口に流れ込む水にパニックになっていた。
ああ、ここでお陀仏なの?僕はまだここが浅瀬だと分かっていたのに、立ち上がることも出来ずに、この何かから逃れる事は出来ないのだと絶望したんだ。
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