39 / 45
変わる関係
翔海side無邪気な永明
しおりを挟む従者が休息場を設置してる時から、永明は落ち着かなげにあちらへふらふら、こちらへふらふらと楽しげな表情で仙明境を楽しんでいた。
この仙明境は我黄家の守護石が祀られてある。それゆえにこの先の場所には誰も立ち入る事ができない。年に数回黄家の血筋の濃い者が、守護石に参拝に来るのが習わしになっていた。
だからこの滝壺の場所は仙明黄と呼ばれていて、守護のない者が長時間居ると体調を崩す不思議な場所だ。永明は手首に、仙明境で採れた翡翠で作らせた数珠の守りがあるので大丈夫だろう。
馬車の中でぐっすり眠っていたせいか、元気いっぱいの永明はさっさと履き物を脱いで、肌着物一枚になった。そして裾をたくし上げて腰紐に差し込むと、スタスタと目の前に広がる浅瀬へと楽しげに入って行った。
川面の太陽の日差しが反射して眩しいきらめきが、永明の立てる水飛沫と相まって、まるで一つの絵の様に思えた。しばらくその様子を眺めていたが、永明がすっかり私を忘れてしまっているので、私は永明に習って肌着物一枚になると同様に水辺に足をつけた。
私は黄家の跡取りとして、この様な事は決して許されなかった。子供の頃ここに参拝に来る度に、耳に心地よい川音は楽しめたものの、水辺に近寄ることも許されなかったのだ。
あの子供時代の憧れが、永明の無邪気さで思い出された。私は思いの外冷たく、引っ張られる川の力を楽しんだ。丁度その時に永明が、私を呼ぼうと振り向いて、私が直ぐ側にいた事に驚いた顔をした。
私が側に寄ると、少し顔を顰めて魚が逃げると言った。直ぐ側に魚が群れをなして泳いでいるのが見えた。私があれを採るのか聞くと、用意がないので今日は見るだけだと言う。
色々私が知らない事を、永明は知っている様だった。私は永明が引いてくれた手を握り締めて、この滝壺から分かれて流れる水流の美しさと、胸いっぱい感じる解放感、そして永明の無邪気な笑顔を心に焼き付けた。
ふと、永明の唇の色が悪くなっている事に気づいた私は、自分の足の冷たさに我に返り、永明を引っ張って休息場へ戻った。永明の言う通りに、日差しで暑くなった石の上に足を乗せると、あっという間に体温は戻った。
永明はクスクス笑いながら、私の足に温かくなった足先を押し当てながら言った。
「私たちは、父に連れられて良く川遊びに行ったんです。あの頃だけが私が子供でいられた懐かしい記憶です。私は自分の人生に、こんな幸せな思い出があったって事をすっかり忘れていました。
翔海様、ここに連れてきて下さってありがとう。幸せな記憶を取り戻せました。」
そう言って幸せそうに微笑む永明に、何だか泣きたい気持ちになったのはどうしてなんだろう。
この仙明境は我黄家の守護石が祀られてある。それゆえにこの先の場所には誰も立ち入る事ができない。年に数回黄家の血筋の濃い者が、守護石に参拝に来るのが習わしになっていた。
だからこの滝壺の場所は仙明黄と呼ばれていて、守護のない者が長時間居ると体調を崩す不思議な場所だ。永明は手首に、仙明境で採れた翡翠で作らせた数珠の守りがあるので大丈夫だろう。
馬車の中でぐっすり眠っていたせいか、元気いっぱいの永明はさっさと履き物を脱いで、肌着物一枚になった。そして裾をたくし上げて腰紐に差し込むと、スタスタと目の前に広がる浅瀬へと楽しげに入って行った。
川面の太陽の日差しが反射して眩しいきらめきが、永明の立てる水飛沫と相まって、まるで一つの絵の様に思えた。しばらくその様子を眺めていたが、永明がすっかり私を忘れてしまっているので、私は永明に習って肌着物一枚になると同様に水辺に足をつけた。
私は黄家の跡取りとして、この様な事は決して許されなかった。子供の頃ここに参拝に来る度に、耳に心地よい川音は楽しめたものの、水辺に近寄ることも許されなかったのだ。
あの子供時代の憧れが、永明の無邪気さで思い出された。私は思いの外冷たく、引っ張られる川の力を楽しんだ。丁度その時に永明が、私を呼ぼうと振り向いて、私が直ぐ側にいた事に驚いた顔をした。
私が側に寄ると、少し顔を顰めて魚が逃げると言った。直ぐ側に魚が群れをなして泳いでいるのが見えた。私があれを採るのか聞くと、用意がないので今日は見るだけだと言う。
色々私が知らない事を、永明は知っている様だった。私は永明が引いてくれた手を握り締めて、この滝壺から分かれて流れる水流の美しさと、胸いっぱい感じる解放感、そして永明の無邪気な笑顔を心に焼き付けた。
ふと、永明の唇の色が悪くなっている事に気づいた私は、自分の足の冷たさに我に返り、永明を引っ張って休息場へ戻った。永明の言う通りに、日差しで暑くなった石の上に足を乗せると、あっという間に体温は戻った。
永明はクスクス笑いながら、私の足に温かくなった足先を押し当てながら言った。
「私たちは、父に連れられて良く川遊びに行ったんです。あの頃だけが私が子供でいられた懐かしい記憶です。私は自分の人生に、こんな幸せな思い出があったって事をすっかり忘れていました。
翔海様、ここに連れてきて下さってありがとう。幸せな記憶を取り戻せました。」
そう言って幸せそうに微笑む永明に、何だか泣きたい気持ちになったのはどうしてなんだろう。
13
お気に入りに追加
350
あなたにおすすめの小説


好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

Promised Happiness
春夏
BL
【完結しました】
没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。
Rは13章から。※つけます。
このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~
松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。
ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。
恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。
伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

有能官吏、料理人になる。〜有能で、皇帝陛下に寵愛されている自分ですが、このたび料理人になりました〜
𦚰阪 リナ
BL
琳国の有能官吏、李 月英は官吏だが食欲のない皇帝、凛秀のため、何かしなくてはならないが、何をしたらいいかさっぱるわからない。
だがある日、美味しい料理を作くれば、少しは気が紛れるのではないかと考え、厨房を見学するという名目で、厨房に来た。
そこで出逢った簫 完陽という料理人に料理を教えてもらうことに。
そのことがきっかけで月英は、料理の腕に目覚めて…?!
料理×BL×官吏のごちゃまぜ中華風お料理物語、ここに開幕!
※、のところはご注意を。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる