逃げたい官吏と傲慢男、追いかけっこはどちらが勝ちますか？

変わる関係

私の庇護者

目が覚めた時には、一人だった。私はその事にホッとするやら、一方で少し寂しい気分になるやらで、朝から動揺していた。実際、黄翔海がここにいても困ることばかりだ。

他の官吏に私の部屋から翔海が出ていくところを見られると、その後噂が広がって煩い事になりそうだ。それに、昨日の自分の痴態を思い出すと、翔海の顔をまともには見られない。


自分から欲しがって、強請ったのだ。どんな顔で翔海と向き合ったらいいのか分からない。あの時の気持ちは、自分でもよく分からない。翔海が守ってくれて安心したせいだろうか。

私が食堂へ向かおうと部屋を出ると、隣の部屋の呉敏英も丁度部屋から出て来たところだった。敏英は私と目が合うと、顔を赤らめて視線を逸らした。


「呉敏英、おはよう。」

私がいつものように話しかけると、呉は少し躊躇った後私に尋ねた。

「…おはよう。…あ、昨晩その、黄翔海様が来ていたのか？いや、ちょっと声が聞こえた気がしたから…。」

そう言う呉の顔が赤くて、私は迂闊に寮でそんな事になってしまった事の結果を思い知らされた。私は前を向いて、やっぱり顔を熱くしながら恐る恐る尋ねた。


「…もしかして聞こえた？」

すると呉敏英は躊躇いながら答えた。

「…ここって、そんなに壁が厚くないから…。でも、朱永明の部屋は角部屋で、隣は私だけだから他の官吏には聞かれてないと思う。大丈夫。」

私はため息をつくと、呉敏英の顔を見上げて言った。

「悪かった。昨日急に黄翔海が押しかけて来て…。もう無いようにするから。」


私がそう言うと、呉敏英は微笑んで言った。

「そうは言っても黄翔海だもんなぁ。あの方が部屋に来たら、中々追い出すのは難しそう…。違う？まぁ、無理だったらいいよ。でも朱永明が随分愛されてるんだなって思ったよ。

ほんとに情夫なのか？私にはそうは思えなかったけどね。」

私はどれだけ聞こえていたのだろうと、羞恥心で顔を熱くさせながら黙って食堂まで歩いた。


結局食堂では他の官吏はいつも通りだったので、呉敏英の言う通り、建物の構造的に隣の部屋の呉敏英にしか、あの時の声は聞こえなかったようで、少しホッとしながら仕事に向かったんだ。

李長官も、王官吏も居なくなった礼部では、何となく空気が違って、私を通常業務に戻してくれた副長官が長官に繰上げになった様だった。


先輩官吏が私に近づいて来て、耳元でボソっと話しかけて来た。

「朱永明のお陰で、あの王のクソ野郎が居なくなってホッとしました。ありがとう。」

そう言って微笑んだのは、王官吏と私が揉めていた時青褪めていた先輩官吏だった。私はその事を察して頷くと答えた。

「…私は何も。…黄翔海様のおかげです。」

私は自分で言いながら、私の庇護者が黄翔海だと実は皆に知られたいのだと、そんな自分の心をはっきり自覚したのだった。