逃げたい官吏と傲慢男、追いかけっこはどちらが勝ちますか?

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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科挙の結果

官吏の儀

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 私は科挙の試験以来の緊張感に包まれて、周囲を高官に囲まれた大広間で官吏の儀が始まるのを待っていた。周囲が騒つくので皆の視線を追いかけると、そこだけひときわ雅な入り口から、龍の金衣を着た人物が入場してきた。

 金龍が示すのは明らかに皇帝で、私は初めて見る皇帝を無作法にもじっと見つめた。気がつけば目が合った気がしてハッとすると、周囲は皆、頭を下げて礼を取っていたのだった。

 私が慌てて頭を下げて礼を取ると、宦官が声を発した。


「これより皇帝から新しい官吏へのお言葉がある。この様な事は滅多にない事であるからして、心して聞く様に。」

 すると、高床の玉座から皇帝が私達を見回しながら言った。

「新たな官吏には、晴れて今日から我が国の中枢を動かす者として、日々研鑽を磨くように望むところである。今回の科挙では並びなき才能が出たと聞く。出身の家名ばかりでなく、才能もこの国の宝であるからして、お互いに高め合って欲しい。

 …朱永明は手を挙げよ。」


 私の心臓はドクリと音を立てた。周囲を見回したが、手を挙げているものは見えなかった。やはり聞き間違いではないのか?すると宦官が声を発した。

「皇帝が朱永明の顔を見たいと欲しておるのだ。朱永明は遠慮なく手を挙げよ。」

 私は、恐る恐る手を挙げた。すると騒ついていた周囲の高官達からどよめきが起こった。私は青褪めながら皇帝の顔を見上げた。


 眼光鋭い皇帝は、少し嬉しげな様子で口を開いた。

「ほう。才能ばかりか、容姿までも朱永明は恵まれておるのだな。そなたの科挙の答案用紙は目を見張るものがあった。期待しておるぞ。」

 そう言うと、扇をパチンと閉じて、宦官と帝口から退出していった。私達は頭を下げて礼を取ってはいたものの、私に纏わりつく多くの視線を感じて、心臓は忙しなく動くばかりだった。


 強い視線を感じて其方を見ると、そこには黄翔海が高官に紛れてこちらを見つめていた。私はパッと顔を背けると、知った顔を見て安堵を感じたのか、それともあの眼差しの強さに心を揺さぶられたのか、複雑な心持ちで前を向いたんだ。

 それから無事官吏の儀が終わると、私は手元の配属の記されている巻き紙を見つめて突っ立っていた。隣に立っていた同期が咳払いすると私に尋ねた。


「…朱永明?あの、貴方の配属は何処でしたか?あ、私は呉敏英です。」

 私は自分の名前が皇帝によって、ここに居る全員に知れ渡ったのだと気がつくも、それが良いのか悪いのか判断はできなかった。まして目の前に居る、このいかにも育ちの良い男のせいではないのだと思って、優しく微笑んで答えた。

「ふふ、私の名前はもう皆が知るところとなってしまった様ですね。朱永明です。私は…、礼部の様ですね。」


 すると目の前の男は、飛び上がらんばかりに喜んで言った。

「なんと!私も礼部です。これは偶然とはいえ、必然では?同期として仲良く助け合いましょう。」

 多分私より年下の呉敏英の無邪気さに当てられて、私もにこやかに宜しく頼みますと頭を下げた。その時私は、黄翔海が私たちの様子をじっと見つめている事には全く気付いていなかったんだ。



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