逃げたい官吏と傲慢男、追いかけっこはどちらが勝ちますか?

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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最悪の出会い

頭をよぎるのは

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 ぐったりとした私を湯殿から抱き上げると、黄は楽しげに寝台へと向かった。私は湯殿で黄に施された、男が受け入れるための準備にもはや力尽きて、力無く黄の逞しい腕の中で身を預けていた。

 その時に感じたのは、あり得ない事だったが安らぎだった。早くに頼りになる父を亡くした朱家では、長男である自分は母と弟たちのために10歳にして甘えの許されない大人として振る舞わなければならなかった。


 独学で科挙の勉強に勤しむ一方で、写本や自分に出来そうな仕事なら何でもやった。蘭平楼へ出入りしていたのも、芸妓たちに都で流行りの話の写本を届けに行く仕事のためだった。

 歳が16歳になった頃、私はもう少し割の良い仕事を探していた。弟たちは食べ盛りで、今までよりもお金が掛かった。そのうち弟たちも科挙の勉強を始める必要があるだろうとも考えていた。


 そんな私に声を掛けてきたのは可愛がってくれていた蘭平楼の女将さんだった。女将さんは女だてらに男顔負けの博識で、私の科挙の勉強が進むにつれて、時間が取られる割に駄賃が低い写本の仕事ではそのうちに行き詰まる事を理解してくれていたんだ。

 ある日、私の眼鏡を外した顔を見つめながら女将さんは言った。


『お前、うちで女装して働きなよ。宴席で男たちに酌をして少し気分良く話をさせてやれば良いんだ。お前くらい綺麗な顔なら、にっこり微笑んでいるだけでも十分さ。

 そうすれば効率よく稼いで、弟たちにも満足いく暮らしを送らせてやれるだろう?なに、科挙の試験に受かるまでだし、お前が女装したら、男だなんて思う奴はいないだろうよ。

 お貴族様のお前には苦々しいことかもしれないけどね、人生気張らなきゃ成し遂げられないこともあるさ。どうするね?』


 そうして私は女将さんの誘いに乗って月影として、客とは寝ない芸妓として、時間の許す限り蘭平楼で仕事をしてきた。もちろん女将さんにも利に働く面があったからこそ、私に親切にしてくれたとは思う。

 けれども女将さんは私に言ったんだ。


『月影、お前は期間限定だからこそ、輝くものさ。決して、いつまでもこの世界に足を踏み入れていてはいけないよ。お前は私たちと違って才能に溢れていて、真っ直ぐだ。眩しいくらいさね。

 お前に酌ををしてもらいたがっている客も、お前の眩しい輝きに触れたくて来てるのさ。忘れないでおくれ。真っ直ぐな魂は場所を選ばないが、時間が経てばクスんでくるって事を。

 お前にはずっと輝いていける場所がある。それはここではないさ。』


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