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最悪の出会い
困惑
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私はさっきの黄の繰り出した強引な口づけが自分に与えた動揺を隠しながら、目の前の黄に引っ張られて部屋に連れて行かれた。そこは美しい中庭を見渡せる豪華な部屋だった。
鮮やかな彩色で染められた絹糸で、美しく刺繍された綿袋がいくつも並べられている黒塗りの高床に、どかりと腰掛けた黄が突っ立っている私を見据えた。
「こちらに来て茶でも飲め。…それとも酒の方が良いか?」
私は今日行かなければならない仕事のことも気になっていたけれど、さっき黄が言った、月影の話をこのままにはして置けそうもないと分かっていた。しらばっくれたとしても、黄の財力と力をもってすれば、私の事など簡単に調べ上げられてしまうに違いない。
「…ではお茶をお願いします。きっと私が飲んだことのない美味しいものでしょうから。土産話のひとつになりましょう。」
そう言って、私は黄の座った上座の前に置かれた螺鈿細工の美しい机の側の椅子に座った。我が家にも有った貝細工の美しい螺鈿のお盆は、父の死後、直ぐに質に入れられてしまった。
私は父が生きていた頃の質素でも平穏だった暮らしを、胸が痛くなるほど懐かしく思い出して茶器を手に取った。召使いが入れてくれた茶は、澄み切った琥珀色の美しいものだった。
側に置かれた聞香茶の陶器をそっと持ち上げて静かに香りを楽しむと、豊かな花の香りが胸いっぱいに広がった。
「…素晴らしいですね。こんなに芳醇な花の香りは初めてです。これを楽しめただけでも、ここに無理矢理連れられて来た値打ちがあったと言えます。」
私の賞賛と嫌味も、黄には気にも留まらないことらしく、美味そうに茶を飲み干した。そして私のお茶を楽しむ様子を見つめながら言った。
「…お前は率直な物言いの方が好きそうだ。月影の事は秘密にしてやる。その代わり私の情夫になれ。」
私は気にしない素振りに見えるように意識しながらも、心臓をドキドキさせつつお茶を飲み干して答えた。
「貴方がご存知かどうか、月影は身売りしていません。…ですが、科挙の道を閉ざされるのは困ります。それに私は情夫になるほどの寝技など、ひとつも持ち合わせていませんよ。
…それに貴方が無理に私を脅すのなら、私にも保険が必要ではないですか?」
黄は私の様子をひとつも見逃さないというような、隙のない眼差しで見つめて言った。
「ほう、条件が欲しいか?言ってみろ。」
私はすくっと立ち上がって、部屋からの中庭の安らぐ光景を眺めると、今ここで交わされている黄と私の生臭い話との隔絶を感じた。それを感じるほどに、黄に対して遠慮も何も要らないと思った。
「…養うべき母と、弟たちが居るので、科挙の仕事が決まるまで月影は続けます。貴方の情夫になるのは、科挙の仕事が始まるまで。貴方の仰る通り、僻地へ飛ばされるかもしれませんからね。」
そう言って、私は黄を振り返り睨みつけた。
鮮やかな彩色で染められた絹糸で、美しく刺繍された綿袋がいくつも並べられている黒塗りの高床に、どかりと腰掛けた黄が突っ立っている私を見据えた。
「こちらに来て茶でも飲め。…それとも酒の方が良いか?」
私は今日行かなければならない仕事のことも気になっていたけれど、さっき黄が言った、月影の話をこのままにはして置けそうもないと分かっていた。しらばっくれたとしても、黄の財力と力をもってすれば、私の事など簡単に調べ上げられてしまうに違いない。
「…ではお茶をお願いします。きっと私が飲んだことのない美味しいものでしょうから。土産話のひとつになりましょう。」
そう言って、私は黄の座った上座の前に置かれた螺鈿細工の美しい机の側の椅子に座った。我が家にも有った貝細工の美しい螺鈿のお盆は、父の死後、直ぐに質に入れられてしまった。
私は父が生きていた頃の質素でも平穏だった暮らしを、胸が痛くなるほど懐かしく思い出して茶器を手に取った。召使いが入れてくれた茶は、澄み切った琥珀色の美しいものだった。
側に置かれた聞香茶の陶器をそっと持ち上げて静かに香りを楽しむと、豊かな花の香りが胸いっぱいに広がった。
「…素晴らしいですね。こんなに芳醇な花の香りは初めてです。これを楽しめただけでも、ここに無理矢理連れられて来た値打ちがあったと言えます。」
私の賞賛と嫌味も、黄には気にも留まらないことらしく、美味そうに茶を飲み干した。そして私のお茶を楽しむ様子を見つめながら言った。
「…お前は率直な物言いの方が好きそうだ。月影の事は秘密にしてやる。その代わり私の情夫になれ。」
私は気にしない素振りに見えるように意識しながらも、心臓をドキドキさせつつお茶を飲み干して答えた。
「貴方がご存知かどうか、月影は身売りしていません。…ですが、科挙の道を閉ざされるのは困ります。それに私は情夫になるほどの寝技など、ひとつも持ち合わせていませんよ。
…それに貴方が無理に私を脅すのなら、私にも保険が必要ではないですか?」
黄は私の様子をひとつも見逃さないというような、隙のない眼差しで見つめて言った。
「ほう、条件が欲しいか?言ってみろ。」
私はすくっと立ち上がって、部屋からの中庭の安らぐ光景を眺めると、今ここで交わされている黄と私の生臭い話との隔絶を感じた。それを感じるほどに、黄に対して遠慮も何も要らないと思った。
「…養うべき母と、弟たちが居るので、科挙の仕事が決まるまで月影は続けます。貴方の情夫になるのは、科挙の仕事が始まるまで。貴方の仰る通り、僻地へ飛ばされるかもしれませんからね。」
そう言って、私は黄を振り返り睨みつけた。
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