男装令嬢は溺愛許嫁から逃げ出したい!だって中の人は僕ですから!

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

文字の大きさ
上 下
60 / 67
変わるもの、変わらないもの

ラファエルと馬

しおりを挟む
「さすがアルだね。淑女らしく振る舞っても乗馬の上手さは隠せない。」

そう言って僕の後から黒馬を駆けさせてきたラファエルは、少し息を荒げて言った。僕は足に纏わりつく乗馬ドレスを指で払いながらにっこり微笑んだ。

「僕の馬じゃないけど、この子は僕の事が好きみたいだから。」

そう言って馬から降りようとしたけれど、いつの間にか馬から降りていたラファエルが、僕の馬の手綱を取ってしまった。木にくくりつけると、皮の手袋を脱いで僕が降りるのを手伝ってくれた。


「‥一人でも降りられるのに。」

そう口を尖らせると、僕の唇に軽く触れる様な口づけをして微笑んだ。

「せっかくの婚約者との遠乗りだ。いつでも触れていたいのさ。」

僕は相変わらず怖いくらい僕を溺愛するラファエルに顔を赤くさせられて、モゴモゴと口の中で文句を言うくらいしか出来ることはなかった。

「まったく、私の婚約者は本当に初心で可愛いよ。」


ラファエルのその言葉に、僕は首を傾げて草の上を歩き出した。

「僕が初心だって、どうしてそう思うの?僕は学院で男達の中にいて、彼らの衝動とかは普通の淑女達より良く知っているよ?もっとも僕が知っているのは聞いた事だけだけだけどね?」

ラファエルの銀色の瞳が鋭くなった気がして、僕はまた要らぬ事を言ってしまったと慌てて口をつぐんだ。

「…アルが初心だと言うのは、そんな私の嫉妬心を煽る様な事を馬鹿正直に言ってしまう所だよ。もっとも狙って言ってるとしたら、私はアルに一本取られたって事なんだろうけどね。」


そう言って、ラファエルは僕の手から手袋を抜き取ると、自分のポケットに押し込んだ。近くの湧水で手を洗うと、僕は透き通る様な冷たい水を両手で掬って飲んだ。

「ふふ。他の人の前じゃこんなはしたない真似はできないけど、エルなら良いよね?」

僕がそう言って指先で口元を拭うと、エルはニヤリと笑って言った。

「残念だな。淑女なら私が口移しで飲ませてやったのに。」


僕は目を見開いて、思わず口元を拭うエルをじっと見つめてしまった。口移し?…淑女の方がいやらしい感じがする。するとエルは僕の百面相を見て楽しそうに笑いながら、僕の手を繋いで少し先の二つの大きな岩のところへ連れて行った。

「ここ、アルは知っているかい?」

僕は開けた草地に突然現れた様に見える背丈よりも大きな岩が二枚重なって見えるそれを見つめて首を振った。エルは楽しげに僕の手を引っ張ってズンズンと岩に近づいた。


近づくとその二枚の岩の間には結構な空きがあって、真上から日差しが入るせいか岩に取り囲まれた柔らかそうな草地には、可愛らしい真っ白な小菊もチラホラと咲いていた。

「なんか秘密の花園みたいだ。ふふ、かわいい。」

するとエルは僕の繋いだ手をグッと引っ張り寄せて、自分の腕の中に僕を抱き抱えて目を合わせて囁いた。

「ここはね、恋人達の花園って密かに呼ばれているんだ。どうしてか分かるかい?恋人達が人目に触れずに熱い時間を過ごすからだよ。…良かった、先客が居なくて。」

僕の心臓はドキドキと煩くなって、その音が岩の壁に反響して聞こえてしまう気がした。






しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 15

あなたにおすすめの小説

不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない

かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」 婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。 もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。 ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。 想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。 記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…? 不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。 12/11追記 書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。 たくさんお読みいただきありがとうございました!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...