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変わるもの、変わらないもの
ラファエルと馬
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「さすがアルだね。淑女らしく振る舞っても乗馬の上手さは隠せない。」
そう言って僕の後から黒馬を駆けさせてきたラファエルは、少し息を荒げて言った。僕は足に纏わりつく乗馬ドレスを指で払いながらにっこり微笑んだ。
「僕の馬じゃないけど、この子は僕の事が好きみたいだから。」
そう言って馬から降りようとしたけれど、いつの間にか馬から降りていたラファエルが、僕の馬の手綱を取ってしまった。木にくくりつけると、皮の手袋を脱いで僕が降りるのを手伝ってくれた。
「‥一人でも降りられるのに。」
そう口を尖らせると、僕の唇に軽く触れる様な口づけをして微笑んだ。
「せっかくの婚約者との遠乗りだ。いつでも触れていたいのさ。」
僕は相変わらず怖いくらい僕を溺愛するラファエルに顔を赤くさせられて、モゴモゴと口の中で文句を言うくらいしか出来ることはなかった。
「まったく、私の婚約者は本当に初心で可愛いよ。」
ラファエルのその言葉に、僕は首を傾げて草の上を歩き出した。
「僕が初心だって、どうしてそう思うの?僕は学院で男達の中にいて、彼らの衝動とかは普通の淑女達より良く知っているよ?もっとも僕が知っているのは聞いた事だけだけだけどね?」
ラファエルの銀色の瞳が鋭くなった気がして、僕はまた要らぬ事を言ってしまったと慌てて口をつぐんだ。
「…アルが初心だと言うのは、そんな私の嫉妬心を煽る様な事を馬鹿正直に言ってしまう所だよ。もっとも狙って言ってるとしたら、私はアルに一本取られたって事なんだろうけどね。」
そう言って、ラファエルは僕の手から手袋を抜き取ると、自分のポケットに押し込んだ。近くの湧水で手を洗うと、僕は透き通る様な冷たい水を両手で掬って飲んだ。
「ふふ。他の人の前じゃこんなはしたない真似はできないけど、エルなら良いよね?」
僕がそう言って指先で口元を拭うと、エルはニヤリと笑って言った。
「残念だな。淑女なら私が口移しで飲ませてやったのに。」
僕は目を見開いて、思わず口元を拭うエルをじっと見つめてしまった。口移し?…淑女の方がいやらしい感じがする。するとエルは僕の百面相を見て楽しそうに笑いながら、僕の手を繋いで少し先の二つの大きな岩のところへ連れて行った。
「ここ、アルは知っているかい?」
僕は開けた草地に突然現れた様に見える背丈よりも大きな岩が二枚重なって見えるそれを見つめて首を振った。エルは楽しげに僕の手を引っ張ってズンズンと岩に近づいた。
近づくとその二枚の岩の間には結構な空きがあって、真上から日差しが入るせいか岩に取り囲まれた柔らかそうな草地には、可愛らしい真っ白な小菊もチラホラと咲いていた。
「なんか秘密の花園みたいだ。ふふ、かわいい。」
するとエルは僕の繋いだ手をグッと引っ張り寄せて、自分の腕の中に僕を抱き抱えて目を合わせて囁いた。
「ここはね、恋人達の花園って密かに呼ばれているんだ。どうしてか分かるかい?恋人達が人目に触れずに熱い時間を過ごすからだよ。…良かった、先客が居なくて。」
僕の心臓はドキドキと煩くなって、その音が岩の壁に反響して聞こえてしまう気がした。
そう言って僕の後から黒馬を駆けさせてきたラファエルは、少し息を荒げて言った。僕は足に纏わりつく乗馬ドレスを指で払いながらにっこり微笑んだ。
「僕の馬じゃないけど、この子は僕の事が好きみたいだから。」
そう言って馬から降りようとしたけれど、いつの間にか馬から降りていたラファエルが、僕の馬の手綱を取ってしまった。木にくくりつけると、皮の手袋を脱いで僕が降りるのを手伝ってくれた。
「‥一人でも降りられるのに。」
そう口を尖らせると、僕の唇に軽く触れる様な口づけをして微笑んだ。
「せっかくの婚約者との遠乗りだ。いつでも触れていたいのさ。」
僕は相変わらず怖いくらい僕を溺愛するラファエルに顔を赤くさせられて、モゴモゴと口の中で文句を言うくらいしか出来ることはなかった。
「まったく、私の婚約者は本当に初心で可愛いよ。」
ラファエルのその言葉に、僕は首を傾げて草の上を歩き出した。
「僕が初心だって、どうしてそう思うの?僕は学院で男達の中にいて、彼らの衝動とかは普通の淑女達より良く知っているよ?もっとも僕が知っているのは聞いた事だけだけだけどね?」
ラファエルの銀色の瞳が鋭くなった気がして、僕はまた要らぬ事を言ってしまったと慌てて口をつぐんだ。
「…アルが初心だと言うのは、そんな私の嫉妬心を煽る様な事を馬鹿正直に言ってしまう所だよ。もっとも狙って言ってるとしたら、私はアルに一本取られたって事なんだろうけどね。」
そう言って、ラファエルは僕の手から手袋を抜き取ると、自分のポケットに押し込んだ。近くの湧水で手を洗うと、僕は透き通る様な冷たい水を両手で掬って飲んだ。
「ふふ。他の人の前じゃこんなはしたない真似はできないけど、エルなら良いよね?」
僕がそう言って指先で口元を拭うと、エルはニヤリと笑って言った。
「残念だな。淑女なら私が口移しで飲ませてやったのに。」
僕は目を見開いて、思わず口元を拭うエルをじっと見つめてしまった。口移し?…淑女の方がいやらしい感じがする。するとエルは僕の百面相を見て楽しそうに笑いながら、僕の手を繋いで少し先の二つの大きな岩のところへ連れて行った。
「ここ、アルは知っているかい?」
僕は開けた草地に突然現れた様に見える背丈よりも大きな岩が二枚重なって見えるそれを見つめて首を振った。エルは楽しげに僕の手を引っ張ってズンズンと岩に近づいた。
近づくとその二枚の岩の間には結構な空きがあって、真上から日差しが入るせいか岩に取り囲まれた柔らかそうな草地には、可愛らしい真っ白な小菊もチラホラと咲いていた。
「なんか秘密の花園みたいだ。ふふ、かわいい。」
するとエルは僕の繋いだ手をグッと引っ張り寄せて、自分の腕の中に僕を抱き抱えて目を合わせて囁いた。
「ここはね、恋人達の花園って密かに呼ばれているんだ。どうしてか分かるかい?恋人達が人目に触れずに熱い時間を過ごすからだよ。…良かった、先客が居なくて。」
僕の心臓はドキドキと煩くなって、その音が岩の壁に反響して聞こえてしまう気がした。
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