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変わるもの、変わらないもの

ため息は止めどなく溢れて

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「マチルダ、こんなに退屈な毎日だなんて、ちょっと想像しなかったよ。」

僕がそう言って寝そべりソファに寄り掛かると、マチルダは呆れた様に言った。

「まぁ、相変わらずはしたないですわ。アンドレアはラファエル様との婚約期間なんですから、もっとウキウキしていてもおかしくないと思いましたのに。」

僕はサイドテーブルの上に乗った刺繍布を眺めながら呟いた。


「いくら婚約期間とはいえ、退屈が過ぎるでしょ?刺繍なんてしてどうするのさ。僕より上手な侍女はいくらでも居るってのに。」

するとマチルダが楽しげに笑って言った。

「まぁ、上手下手ではありませんわ。アンドレアのやる気の無さがその刺繍にたっぷり出てますけど、確かにあまり上手ではありませんわね…。でもそれでもアンドレアの刺繍したハンカチを欲しがるラファエル様のお心を思えばこそ、やり甲斐はあるのではありませんか?」


乙女チックな脳内思考がダダ漏れているマチルダの顔を、眉を顰めて見つめて言った。

「エルは僕にそんなこと期待してないよ。僕がリカルド様と口づけた事がバレて、そのお仕置きなんだから。まったくあんなの挨拶程度なのに、エルの心の狭い事と言ったらないよ。」

するとマチルダはシドと同じ緑色の美しい瞳を光らせて、口元に手を当てて囁いた。


「…実際にはどんな口づけだったんですの?本当に挨拶程度?お兄様曰くは止めようがなかったって渋い顔をしてらしたから、私が思うにお仕置きが必要な口づけだったに違いありませんわ。」

僕はマチルダから視線を外すと、口元を緩めて指で唇をなぞって言った。

「そう、…悪くはなかったね。僕も突然で驚いてしまったから、気づいたら口を塞がれていて。リカルド様は思うに恋多き人じゃない?」


そんな僕とマチルダは顔を見合わせてクスクスと笑い合った。やっぱりお仕置きは必要かもしれない。いっそイニシャルの刺繍は止めて、小鳥の刺繍にしようか。エルが僕を好きになったのは巣から落ちた小鳥がきっかけだったみたいだし。

僕がそんな事を思いながらハンカチを眺めていると、マチルダがクスクス笑いながら楽しそうに僕を揶揄った。

「そんな顔でラファエル様の事を考えているアンドレアは、やっぱり恋してるみたいですわ。さすがはラファエル様と言う事なのかしら。あんなじゃじゃ馬をこんな淑女に変えてしまうのだから。」


僕は口を尖らせて、マチルダをジロリと見つめて言った。

「マチルダが僕を揶揄い倒すつもりなら、僕だって聞きたい事があるよ?ジェイクと最近会ってるって聞いたけど本当なの?ジェイクは確かに良いやつだし、僕の元彼だけどね?案外真っ直ぐな所があるから、マチルダに振り回されそうで心配なんだよ。」

するとマチルダは蜜でも舐めた様に微笑んだ。

「大丈夫。彼はいつも幸せそうよ?確かにちょっと簡単過ぎる所があるけど、きっとアンドレアのお守りに疲れ切って、普通の淑女が有り難く思えるのね?」

僕は思わず声を立てて笑った。ああ、マチルダが普通の淑女?ジェイクはきっとバカみたいに振り回されるに違いないよ。可哀想に。








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