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綱渡りの生活
ヘンリー様の罠
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ヘンリー様と連れ立って廊下を歩いていくと、あまり行ったことのないエリアへと足を踏み入れた。そこは下級生の僕らにはあまり縁のないエリアで、僕は周囲を興味深げに見回して立ち止まった。ひと気のない、この雰囲気に僕の危機管理が仕事をしたと言う事もあるかもしれない。
前を歩いていたヘンリー様も一緒に立ち止まって、くるりと僕の方に振り向いた。
「ほら、アル。もう少し先のあの部屋で準備しているんだ。リカルドは目ざといからね、彼の目を逃れるのはなかなか難しいんだよ。」
僕はリカルド様の事を言う時だけ、ヘンリー様の眼差しが和らぐのを見て言った。
「あの、僕用があるのを思い出したんです。僕は世間知らずなので、リカルド様が喜ぶ様な事なんて全然思い浮かばないですし、役に立ちそうもないので帰らせて下さい。」
僕が焦ってそう言うと、ヘンリー様がクスッと面白そうに笑った。
「…なるほど、伊達にリカルドのお気に入りではない様だね。さっき言ったのは出鱈目さ。私は君がこれ以上リカルドに近づかない様に警告しようと思っただけだ。彼は将来のあるお方だ。下級生への恋心にうつつを抜かしている場合ではないんだよ。
全く君へのリカルドの賛辞は聞いているとイライラする…。あの方が一人の人間にこの様に執着される事なんて無かったので、正直戸惑ったよ。いくら辺境伯と繋がっているとは言え、君の立場は余所者だ。束の間の恋の相手だとしても、公爵家のリカルドには全く相応しくないね。
だから私はリカルドを諦めさせるために、とっておきの方法を思いついたんだ。君にぴったりの相手を用意したよ。…ジェイク出て来て良いよ。」
すると物陰から強張った顔のジェイクが出て来た。目を見開いている僕に、満面の笑みのヘンリー様はジェイクの肩を掴むと僕の方へ突き出して言った。
「君達は仲良しだろう?ジェイクは君にぞっこんらしい。君もジェイクに応えてあげて欲しい。公然の仲になれば、流石にリカルドも諦めるだろう?さぁ、ジェイク、後は任せたよ。ああ、恋人達を引き合わせるのは何とも楽しいね。」
そう言うと、ヘンリー様は嬉しそうに微笑みながら僕の隣を過ぎて、来た道を戻って行ってしまった。僕は何がどうなってるのか分からずに、でも今振り返るのはまずい気がしてジェイクを睨んだ。
「ねぇ、ジェイクどう言う事?」
すると僕の後ろを見つめていたジェイクがいまだに顔を強張らせたまま、僕にささやいた。
「良いから、アル。私の腕の中にゆっくり入って。これはヘンリー様に見せるためのフリだから。そうじゃないと私以外の相手と引き合わせさせられかねない。そうなったら、俺が殺される。」
僕は焦った様にそう小さな声で囁くジェイクをじっと見た。どうも嘘は言っていないみたいだ。僕は渋々ジェイクに抱き寄せられると、緊張した手つきで僕を抱え込むジェイクに身を任せた。
暫くするとジェイクが息を吐き出して、僕から身を離すと困った様な顔で僕を見下ろした。僕は眉を顰めてジェイクを睨み上げて言った。
「ジェイク、何がどうなっているのか説明して!」
前を歩いていたヘンリー様も一緒に立ち止まって、くるりと僕の方に振り向いた。
「ほら、アル。もう少し先のあの部屋で準備しているんだ。リカルドは目ざといからね、彼の目を逃れるのはなかなか難しいんだよ。」
僕はリカルド様の事を言う時だけ、ヘンリー様の眼差しが和らぐのを見て言った。
「あの、僕用があるのを思い出したんです。僕は世間知らずなので、リカルド様が喜ぶ様な事なんて全然思い浮かばないですし、役に立ちそうもないので帰らせて下さい。」
僕が焦ってそう言うと、ヘンリー様がクスッと面白そうに笑った。
「…なるほど、伊達にリカルドのお気に入りではない様だね。さっき言ったのは出鱈目さ。私は君がこれ以上リカルドに近づかない様に警告しようと思っただけだ。彼は将来のあるお方だ。下級生への恋心にうつつを抜かしている場合ではないんだよ。
全く君へのリカルドの賛辞は聞いているとイライラする…。あの方が一人の人間にこの様に執着される事なんて無かったので、正直戸惑ったよ。いくら辺境伯と繋がっているとは言え、君の立場は余所者だ。束の間の恋の相手だとしても、公爵家のリカルドには全く相応しくないね。
だから私はリカルドを諦めさせるために、とっておきの方法を思いついたんだ。君にぴったりの相手を用意したよ。…ジェイク出て来て良いよ。」
すると物陰から強張った顔のジェイクが出て来た。目を見開いている僕に、満面の笑みのヘンリー様はジェイクの肩を掴むと僕の方へ突き出して言った。
「君達は仲良しだろう?ジェイクは君にぞっこんらしい。君もジェイクに応えてあげて欲しい。公然の仲になれば、流石にリカルドも諦めるだろう?さぁ、ジェイク、後は任せたよ。ああ、恋人達を引き合わせるのは何とも楽しいね。」
そう言うと、ヘンリー様は嬉しそうに微笑みながら僕の隣を過ぎて、来た道を戻って行ってしまった。僕は何がどうなってるのか分からずに、でも今振り返るのはまずい気がしてジェイクを睨んだ。
「ねぇ、ジェイクどう言う事?」
すると僕の後ろを見つめていたジェイクがいまだに顔を強張らせたまま、僕にささやいた。
「良いから、アル。私の腕の中にゆっくり入って。これはヘンリー様に見せるためのフリだから。そうじゃないと私以外の相手と引き合わせさせられかねない。そうなったら、俺が殺される。」
僕は焦った様にそう小さな声で囁くジェイクをじっと見た。どうも嘘は言っていないみたいだ。僕は渋々ジェイクに抱き寄せられると、緊張した手つきで僕を抱え込むジェイクに身を任せた。
暫くするとジェイクが息を吐き出して、僕から身を離すと困った様な顔で僕を見下ろした。僕は眉を顰めてジェイクを睨み上げて言った。
「ジェイク、何がどうなっているのか説明して!」
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