男装令嬢は溺愛許嫁から逃げ出したい！だって中の人は僕ですから！

学院生活

アンドレアへ変身

鏡の中の僕は相変わらずの辺境伯令嬢だった。久しぶり過ぎて、何だか別の人間を見つめている気がしてしまう。けれど5年間の令嬢を極めた僕は、案外すんなりとアンドレアとして収まった。

王都の屋敷の侍女たちは、僕の令嬢姿を見るのは初めてだったせいもあって、皆一様に興奮した様に妙な張り切りを見せていた。侍女頭のアンリだけは母様と一緒に領地を行き来していたせいもあって、そんな浮かれた侍女たちを嗜めていた。

そうは言っても鏡越しに僕を驚きの表情で見つめながら、僕に言った。


「アンドレア様は、こうして見ると旦那様譲りの美しいミルクティー色の巻毛に、奥様の淡い水色の瞳が儚げな印象を増してらっしゃるんですね。以前は可愛らしい印象でしたけれど、最近はグッと美しさに磨きが掛かっておりますわ。

アンドレア様、侍女たちが舞い上がってしまうのもしょうがないんですの。ポートリー辺境伯には殿方のご子息ばかりで、こうして花の様なお嬢様を着飾れる機会はここでは初めてですからね。アンドレア様にとっては不本意かもしれませんけれど、どうか辛抱なさってくださいませ。」


僕は不機嫌にし過ぎたかと反省して、アンリの目を見返して言った。

「分かったわ。今日は令嬢で過ごす日なのだから私も諦めることにしますわ。どうぞ、気が済むまでお任せしますわ。」

僕は侍女たちの萎れた様子に絆されて思わず妥協する様な事を言ってしまったけれど、直ぐに後悔することになった。侍女たちのラファエルへの賞賛は止まることを知らず、その貴公子のラファエルの許嫁に相応しくある様にと腕まくりされてしまったのだから。

鏡の中の僕はすっかりアンドレアになっていて、そう言われて見ると少し顔も違う様だった。普段じっくりと鏡など見ていなかったせいで、僕も少し目を見開いたくらいだ。


侍女頭のアンリが眉を顰めながら、もう少しお肌のお手入れを気遣ってくださいと愚痴られたのは聞こえないフリをしたけれど、お陰で顔ばかりか全身を捏ね回されたので、今度から少しは気をつけようと思った。

領地から送られた地毛で作った少し短めのカツラを装着したせいで、僕は久しぶりの自分の髪の美しさを自覚した。へぇ、結構いいじゃないと新鮮な眼差しで自分を見たせいか、僕は気分も上がって勢いよく扉から談話室へと飛び込むように入った。


そう、まさかラファエルがもう来ているなんて思いもしなかったから。知らず満面の笑みで勢いよく入室してしまった僕は、まるで許嫁に会いたくてたまらない様に見えたなんて、僕の不覚の至りだよ！