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学院生活
談話室で問題は起きがち
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シドたちは妙に心配してるけど、リカルド様は凄く親切にしてくれる良い先輩だと僕は思ってる。今日も談話室で待ち合わせして、リカルド様の持っている貴重な本を見せてもらった。
さすがの公爵家だけあって、希少な本を寮室に持ち込んでいるのは感嘆すべき事だ。その本はこの国で採掘した鉱物の記録で、僕は地図と照らし合わせながら興味深く見ていた。
「アルベルトは隣国の出身だから、この手の事に興味があるのかい?」
そうリカルド様にたずねられて、僕はハッとした。この手の情報は本来国外に出しちゃいけないやつなんじゃないのかな。一応僕は隣国の留学生扱いだから。
「…僕はほとんどこの国で育ってますし、多分向こうの国には戻らないと思います。だから、自分がこの国で役に立てる事がないかって模索中です。お互いの国の助け合いが出来ると良いですよね。まぁ理想論ですけど。」
僕がそう言って微笑むと、リカルド様は僕の手をぎゅっと握って言った。
「私は嫡男ではないけれど、国を預かる公爵家の人間として、アルベルトの気持ちはありがたいと思うよ。」
僕はリカルド様に褒められて嬉しさ半分、手を握られて明らかに男とは違うはずなのでバレてしまうかもしれないと心配半分で、笑いで誤魔化しながら手を引き抜こうとした。
けれどもリカルド様は、僕の顔から自分で握った手に視線を移動した。その表情に僕は慌てて立ち上がると、お礼を言いながら手を振り解く様にして、用を思い出したと談話室を後ろを見ずに出て行った。
今のは不味かっただろうか。流石に手の大きさなどは変える事が出来ない。ああ、いっそ剣だこを見せて男らしさを印象づけるべきだったかもしれない。慌て過ぎて出てきてしまったけれど、かえってまずかったのか?ああ、もう困るな…。僕は足早に歩きながら、そんな事をクヨクヨ考えていた。
リカルド様は親切で、他の学院生にも影響があるから一緒にいる事は僕にはメリットばかりなのに。僕は握られた手を目の前に開いて眺めると呟いた。
「…こんな手の男はいないよ。」
僕は早くも色々と、男として生活する事のちょっとした不都合さを感じ始めていた。でもその時は僕は自分の事に夢中で、リカルド様が僕の手の事を実際どう感じたかなんて事に、思いを馳せる事が出来なかったんだ。
僕は迎えに来てくれたシドにホッとすると、今の事を言うか迷った挙句黙っている事にした。何を言われたわけじゃないし、問題は何も起きてないんだから。それは僕の現実逃避のひとつだったんだろうか。
さすがの公爵家だけあって、希少な本を寮室に持ち込んでいるのは感嘆すべき事だ。その本はこの国で採掘した鉱物の記録で、僕は地図と照らし合わせながら興味深く見ていた。
「アルベルトは隣国の出身だから、この手の事に興味があるのかい?」
そうリカルド様にたずねられて、僕はハッとした。この手の情報は本来国外に出しちゃいけないやつなんじゃないのかな。一応僕は隣国の留学生扱いだから。
「…僕はほとんどこの国で育ってますし、多分向こうの国には戻らないと思います。だから、自分がこの国で役に立てる事がないかって模索中です。お互いの国の助け合いが出来ると良いですよね。まぁ理想論ですけど。」
僕がそう言って微笑むと、リカルド様は僕の手をぎゅっと握って言った。
「私は嫡男ではないけれど、国を預かる公爵家の人間として、アルベルトの気持ちはありがたいと思うよ。」
僕はリカルド様に褒められて嬉しさ半分、手を握られて明らかに男とは違うはずなのでバレてしまうかもしれないと心配半分で、笑いで誤魔化しながら手を引き抜こうとした。
けれどもリカルド様は、僕の顔から自分で握った手に視線を移動した。その表情に僕は慌てて立ち上がると、お礼を言いながら手を振り解く様にして、用を思い出したと談話室を後ろを見ずに出て行った。
今のは不味かっただろうか。流石に手の大きさなどは変える事が出来ない。ああ、いっそ剣だこを見せて男らしさを印象づけるべきだったかもしれない。慌て過ぎて出てきてしまったけれど、かえってまずかったのか?ああ、もう困るな…。僕は足早に歩きながら、そんな事をクヨクヨ考えていた。
リカルド様は親切で、他の学院生にも影響があるから一緒にいる事は僕にはメリットばかりなのに。僕は握られた手を目の前に開いて眺めると呟いた。
「…こんな手の男はいないよ。」
僕は早くも色々と、男として生活する事のちょっとした不都合さを感じ始めていた。でもその時は僕は自分の事に夢中で、リカルド様が僕の手の事を実際どう感じたかなんて事に、思いを馳せる事が出来なかったんだ。
僕は迎えに来てくれたシドにホッとすると、今の事を言うか迷った挙句黙っている事にした。何を言われたわけじゃないし、問題は何も起きてないんだから。それは僕の現実逃避のひとつだったんだろうか。
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