32 / 67
学院生活
談話室で問題は起きがち
しおりを挟む
シドたちは妙に心配してるけど、リカルド様は凄く親切にしてくれる良い先輩だと僕は思ってる。今日も談話室で待ち合わせして、リカルド様の持っている貴重な本を見せてもらった。
さすがの公爵家だけあって、希少な本を寮室に持ち込んでいるのは感嘆すべき事だ。その本はこの国で採掘した鉱物の記録で、僕は地図と照らし合わせながら興味深く見ていた。
「アルベルトは隣国の出身だから、この手の事に興味があるのかい?」
そうリカルド様にたずねられて、僕はハッとした。この手の情報は本来国外に出しちゃいけないやつなんじゃないのかな。一応僕は隣国の留学生扱いだから。
「…僕はほとんどこの国で育ってますし、多分向こうの国には戻らないと思います。だから、自分がこの国で役に立てる事がないかって模索中です。お互いの国の助け合いが出来ると良いですよね。まぁ理想論ですけど。」
僕がそう言って微笑むと、リカルド様は僕の手をぎゅっと握って言った。
「私は嫡男ではないけれど、国を預かる公爵家の人間として、アルベルトの気持ちはありがたいと思うよ。」
僕はリカルド様に褒められて嬉しさ半分、手を握られて明らかに男とは違うはずなのでバレてしまうかもしれないと心配半分で、笑いで誤魔化しながら手を引き抜こうとした。
けれどもリカルド様は、僕の顔から自分で握った手に視線を移動した。その表情に僕は慌てて立ち上がると、お礼を言いながら手を振り解く様にして、用を思い出したと談話室を後ろを見ずに出て行った。
今のは不味かっただろうか。流石に手の大きさなどは変える事が出来ない。ああ、いっそ剣だこを見せて男らしさを印象づけるべきだったかもしれない。慌て過ぎて出てきてしまったけれど、かえってまずかったのか?ああ、もう困るな…。僕は足早に歩きながら、そんな事をクヨクヨ考えていた。
リカルド様は親切で、他の学院生にも影響があるから一緒にいる事は僕にはメリットばかりなのに。僕は握られた手を目の前に開いて眺めると呟いた。
「…こんな手の男はいないよ。」
僕は早くも色々と、男として生活する事のちょっとした不都合さを感じ始めていた。でもその時は僕は自分の事に夢中で、リカルド様が僕の手の事を実際どう感じたかなんて事に、思いを馳せる事が出来なかったんだ。
僕は迎えに来てくれたシドにホッとすると、今の事を言うか迷った挙句黙っている事にした。何を言われたわけじゃないし、問題は何も起きてないんだから。それは僕の現実逃避のひとつだったんだろうか。
さすがの公爵家だけあって、希少な本を寮室に持ち込んでいるのは感嘆すべき事だ。その本はこの国で採掘した鉱物の記録で、僕は地図と照らし合わせながら興味深く見ていた。
「アルベルトは隣国の出身だから、この手の事に興味があるのかい?」
そうリカルド様にたずねられて、僕はハッとした。この手の情報は本来国外に出しちゃいけないやつなんじゃないのかな。一応僕は隣国の留学生扱いだから。
「…僕はほとんどこの国で育ってますし、多分向こうの国には戻らないと思います。だから、自分がこの国で役に立てる事がないかって模索中です。お互いの国の助け合いが出来ると良いですよね。まぁ理想論ですけど。」
僕がそう言って微笑むと、リカルド様は僕の手をぎゅっと握って言った。
「私は嫡男ではないけれど、国を預かる公爵家の人間として、アルベルトの気持ちはありがたいと思うよ。」
僕はリカルド様に褒められて嬉しさ半分、手を握られて明らかに男とは違うはずなのでバレてしまうかもしれないと心配半分で、笑いで誤魔化しながら手を引き抜こうとした。
けれどもリカルド様は、僕の顔から自分で握った手に視線を移動した。その表情に僕は慌てて立ち上がると、お礼を言いながら手を振り解く様にして、用を思い出したと談話室を後ろを見ずに出て行った。
今のは不味かっただろうか。流石に手の大きさなどは変える事が出来ない。ああ、いっそ剣だこを見せて男らしさを印象づけるべきだったかもしれない。慌て過ぎて出てきてしまったけれど、かえってまずかったのか?ああ、もう困るな…。僕は足早に歩きながら、そんな事をクヨクヨ考えていた。
リカルド様は親切で、他の学院生にも影響があるから一緒にいる事は僕にはメリットばかりなのに。僕は握られた手を目の前に開いて眺めると呟いた。
「…こんな手の男はいないよ。」
僕は早くも色々と、男として生活する事のちょっとした不都合さを感じ始めていた。でもその時は僕は自分の事に夢中で、リカルド様が僕の手の事を実際どう感じたかなんて事に、思いを馳せる事が出来なかったんだ。
僕は迎えに来てくれたシドにホッとすると、今の事を言うか迷った挙句黙っている事にした。何を言われたわけじゃないし、問題は何も起きてないんだから。それは僕の現実逃避のひとつだったんだろうか。
6
お気に入りに追加
338
あなたにおすすめの小説
オレの愛しい王子様
瑞原唯子
恋愛
ずっと翼のそばにいて、翼を支える——。
幼いころ創真はひとりの少女とそう約束を交わした。
少女はいつしか麗しい男装で王子様と呼ばれるようになるが、
それでも創真の気持ちはあのころのまま変わらない。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる
西野歌夏
恋愛
ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー
私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

魔王様の生贄になったはずが、気づいたら許嫁になっていた!?
鳴神 祈
恋愛
私の名前はリオン。
イグラン王国第2王女である。
イグラン王国には古くからの言い伝えがある。
それは100年に1度訪れる魔王襲来に王家から1人生贄として差し出す。
そうすれば差し出した日から100年は安泰に暮らすことができるというのだ。
そんな言い伝えが本当にあるのか不思議だったリオンはある日王室に呼ばれたのである。
そこで王様から「今年は100年に一度の魔王が訪れる年。魔王に差し出す生贄を選ばなくてはいけない。」
この一言から私の人生が大きく変わるなんて・・・・誰が想像しただろうか・・・。
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる