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与えられたチャンス
一日の終わり
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自分で整えたベッドへ転がった僕は、今日1日を思い起こしていた。馬車であんなに酔うとは想定外だったけれど、何とか女だとバレずにアルベルトとして学院生になれた。僕は思わず枕に顔を押しつけて、わーと叫んだ。この五年間、二足の草鞋で頑張ってきた甲斐があった。
ふいに息苦しさを感じてベッドから起き上がると、私服を脱いだ。入学式から制服である騎士服を着る事になる。僕はクローゼットにぶら下がったそれを眺めて、そっと指の腹で撫でた。
これから一年間、男の立場で学院生として過ごすことが出来たら、『僕』の人生をすっぱり諦めて、アンドレアとしての人生を送るつもりだった。これは僕なりの決別の儀式だ。
身体が女なのは間違いないし、いつまでもジタバタと足掻いているより、自分の力量が何処まで通じるのかを試したかった。それに五年間のアンドレア生活もまた、僕に心境の変化を与えた。
外見や振る舞いをより令嬢らしく過ごす事で、ある種楽しんで演じる事が出来る様になった。鏡の中の自分は紛れもなく可愛らしい令嬢で、それを極める事で、それもまた自分の一部なのだと考えられる様になったみたいだ。
僕は汗を流すために洗い場でシャツを脱いだ。シャツの下には一応胸を押さえるための布を巻いてあった。マリーと試行錯誤して簡単に巻き付けて留められるアイテムを作ったんだ。
いくら胸が小ぶりでも、流石に一日中押さえつけた後の開放感は何とも言えない。時間を掛けて作られた令嬢としての腰は、男のアルベルトには細すぎる。それもまたこの補正下着で誤魔化していた。
湯船に浸かりながら手足を伸ばして気持ちの良い時間を過ごしていた。ふと部屋の扉がノックされている気がして、僕はハッと身を起こすと、急いで身体を拭ってナイトシャツを羽織りローブを着た。
扉の前に立って様子を伺うと、扉の向こうにやっぱり誰かが居る気配がする。僕はどうしたものかと立ちすくんだ。するとその気配はゆっくりと足音と共に遠ざかっていった。僕はホッとしたと共に、一体誰がドアをノックしたのかと考えた。
シドは僕が女だと知ってるから、こんな時間に部屋を尋ねては来ないし、来るとしたら扉の向こうから声を掛けるだろう。僕はドキドキしながらも、これからこんな毎日が続くのかと、少しうんざりした気持ちでベッドへと戻った。
ふいに息苦しさを感じてベッドから起き上がると、私服を脱いだ。入学式から制服である騎士服を着る事になる。僕はクローゼットにぶら下がったそれを眺めて、そっと指の腹で撫でた。
これから一年間、男の立場で学院生として過ごすことが出来たら、『僕』の人生をすっぱり諦めて、アンドレアとしての人生を送るつもりだった。これは僕なりの決別の儀式だ。
身体が女なのは間違いないし、いつまでもジタバタと足掻いているより、自分の力量が何処まで通じるのかを試したかった。それに五年間のアンドレア生活もまた、僕に心境の変化を与えた。
外見や振る舞いをより令嬢らしく過ごす事で、ある種楽しんで演じる事が出来る様になった。鏡の中の自分は紛れもなく可愛らしい令嬢で、それを極める事で、それもまた自分の一部なのだと考えられる様になったみたいだ。
僕は汗を流すために洗い場でシャツを脱いだ。シャツの下には一応胸を押さえるための布を巻いてあった。マリーと試行錯誤して簡単に巻き付けて留められるアイテムを作ったんだ。
いくら胸が小ぶりでも、流石に一日中押さえつけた後の開放感は何とも言えない。時間を掛けて作られた令嬢としての腰は、男のアルベルトには細すぎる。それもまたこの補正下着で誤魔化していた。
湯船に浸かりながら手足を伸ばして気持ちの良い時間を過ごしていた。ふと部屋の扉がノックされている気がして、僕はハッと身を起こすと、急いで身体を拭ってナイトシャツを羽織りローブを着た。
扉の前に立って様子を伺うと、扉の向こうにやっぱり誰かが居る気配がする。僕はどうしたものかと立ちすくんだ。するとその気配はゆっくりと足音と共に遠ざかっていった。僕はホッとしたと共に、一体誰がドアをノックしたのかと考えた。
シドは僕が女だと知ってるから、こんな時間に部屋を尋ねては来ないし、来るとしたら扉の向こうから声を掛けるだろう。僕はドキドキしながらも、これからこんな毎日が続くのかと、少しうんざりした気持ちでベッドへと戻った。
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