男装令嬢は溺愛許嫁から逃げ出したい!だって中の人は僕ですから!

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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与えられたチャンス

ポケットの手紙

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僕は従者が運び入れてくれた荷箱を見下ろすと、自分の新しい部屋をぐるりと歩き回った。2階のこの部屋は隣にシドが居るので何とも心強い。きっとお父様が手を回してくれたのかもしれない。

流石にシドの助けがなくては、僕もボロが出そうだ。僕は馬車に乗り込む際に執事から渡された手紙を胸ポケットから取り出すと、一人掛けソファに座って封を開いた。


定期的に届く許嫁からの手紙には、もちろん仮病なのだけど、階段から落ちて骨折した事へのお見舞いの言葉が並んでいた。ラファエルは許嫁になった10歳の頃から、ずっと季節に折に触れ手紙をくれた。

それはちょっとした身の回りに起きた事だとか、勉強や遠征先での事だとかが、飾らない文章で書かれていて、僕は直ぐにそれを読むのがちょっとした楽しみになって居た。


年に一度は侯爵と訪れるその姿は年々凛々しくも逞しくなって居て、僕はしばし羨ましさと羨望の眼差しで見つめてしまった。僕も令嬢でなく、令息だったのならば、あの様に伸びやかな身体で剣を振り翳して居たのだろうかと思ってしまう。

そうは言っても僕なりに鍛錬を積んでいるので、手合わせするといつも目を見開いて、予想外である様に僕を見つめるのが嬉しい反応でもあった。


手紙の最後にはいつも甘い言葉で僕に会いたくて堪らないと訴えかけてくるので、慣れてしまった今ではそれは定型文の様にしか感じられない。けれども流石に領地を訪れた時は、僕に向ける視線が熱くてどうして良いのか困ってしまった。

僕より大きな腕でそっと抱き寄せられると、妙に心が騒ついて狼狽えてしまう。そんな僕をじっと見つめてあの男は決まり文句の様に囁くんだ。

「私は、アルの全てを受け入れるよ。あの日幼い私の心を鷲掴んだのは、アルに間違いないのだから。」


アンドレアの中の僕を感じているのか、どうなのか、それ以上の事は何も言わずにラファエルは微笑むと、いつだって僕の唇に柔らかく口づけた。僕はふと、自分の唇に指を這わせた。

半年前領地近くの遠征訓練のついでにと、休息の間を取ってフレッド兄様と一緒に突然現れたラファエルは、僕と二人きりになると急に空気を変えて呟いた。


「もうすぐ王都の学院へ進学するね。私はこれまで以上にアンドレアと会える様になるのかな。そうなら良いのだけど…。色々心配なんだ。アンドレアは最近グッと女らしく美しくなった。誰もがアンドレアを見つめて目を離せない。」

そう言うと、僕をいつもの様に抱き寄せて許嫁の口づけをした。けれども、その口づけはいつもと違って、離れていかないばかりか、何度も降りてきて、終いには息苦しくなった僕の唇を割ってヌルリとしたものを入れてきた。


それはマチルダとヒソヒソと話をする大人の口づけに他ならなくて、僕は驚きと、その甘美な感触に、ただラファエルに貪られるままになってしまった。

ラファエルは僕を食い入る様に見つめると、少し赤らんだ顔で声を掠れさせて言った。

「こんな口づけは、他の誰ともしてはいけないよ。学院へ進んでも…。君は私の一部なのだから、ね?ああ、君に全てを教えてあげたい。でもいかんせん君はまだ学院前だ。アル、愛している。」

僕はこの時の事を思い出すと、ドキドキと心臓が暴れ出してじっとして居られなくなる。しかも何だかラファエルに負けた気分にいつもなってしまうんだ。

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