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与えられたチャンス
旅立ち
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「本当に大丈夫なのか?」
僕よりも頭ひとつ以上大きい幼馴染のシドは、馬車に乗り込む僕に手を差し出した。僕はそんなシドの手をパチンと叩き落とすと眉を顰めて言った。
「シド、女の子扱いは困るよ。僕は今からルチル伯爵家令息アルベルトだからね。アルって呼んで、男扱いしてくれないと。」
シドは見送る周囲を見渡しながらため息をついた。
「俺は皆さんの心配が伝わって来て、こんな事間違ってる気がするだけだよ。」
するとお母様が一歩前に出てシドに言った。
「この子はもう何年も覚悟を決めて実行して来たんですもの。今更反対はできないわ。シド、とにかく困った事にならない様にお願いね?学院には時々フレッドも来てくれるって事だったし。ああ、でもラファエルにはバレない様にしないといけないんだわ。どうかしら…。」
マチルダと同じ、黒髪と緑色の瞳のシドは、馬車に乗り込んだ僕をじっと見つめて肩をすくめて言った。
「アンドレアの親戚と言えば、まぁそうかなって感じには誤魔化せてるとは思いますよ。最近のアンドレアは急に背も伸びてスラリとしましたし、顔つきも可愛らしいと言うより綺麗系だ。以前とは雰囲気も違います。それに何より髪を思い切って切ったのが大きい。まさか御令嬢がバッサリ髪を切るなんて誰も想像もしないでしょう。」
僕は緊張を滲ませたシドを奥に座らせると、馬車から顔を出してお母様に言った。
「ねぇ、切った髪でカツラを作ったらお父様の所へ送ってくださいね、お母様。じゃあ行ってきます!マチルダ、マリー元気で!みんなに手紙書くからね!」
そう言うと、心配そうな面々の中、マチルダが走り寄ってきて動き出した馬車を追いかけて来て叫んだ。
「アンドレア!頑張って!お兄様、アンドレアをお願いね!」
僕は浮かれた気持ちで窓から身体を乗り出して手を振った。ああ、ついにこの五年間の苦労が報われる。やったよ、僕!機嫌の良い僕を横目で見たシドが大きなため息をついて言った。
「さっき言ったのは本当だよ、アル。お前はぱっと見令嬢には全然見えなくなった。醸し出す雰囲気ってのは大事なんだなってつくづく思うよ。でもな、反対にお前が人目を引くのは間違いないと思うよ。隣国の伯爵令息って事もあるし、何と言っても綺麗だからまぁ目立たないって事はないからね。出来るだけ俺と一緒に行動してくれよ?」
僕は、心配性のシドはやっぱり妹を持つ兄気質なのだと面白く思って言った。
「分かったって。せいぜい大人しくしてるよ。」
そんな僕をため息をついて眺めたシドに肩をすくめて、僕は鼻歌混じりに王都へ向かう馬車の揺れまで楽しんでいた。
僕よりも頭ひとつ以上大きい幼馴染のシドは、馬車に乗り込む僕に手を差し出した。僕はそんなシドの手をパチンと叩き落とすと眉を顰めて言った。
「シド、女の子扱いは困るよ。僕は今からルチル伯爵家令息アルベルトだからね。アルって呼んで、男扱いしてくれないと。」
シドは見送る周囲を見渡しながらため息をついた。
「俺は皆さんの心配が伝わって来て、こんな事間違ってる気がするだけだよ。」
するとお母様が一歩前に出てシドに言った。
「この子はもう何年も覚悟を決めて実行して来たんですもの。今更反対はできないわ。シド、とにかく困った事にならない様にお願いね?学院には時々フレッドも来てくれるって事だったし。ああ、でもラファエルにはバレない様にしないといけないんだわ。どうかしら…。」
マチルダと同じ、黒髪と緑色の瞳のシドは、馬車に乗り込んだ僕をじっと見つめて肩をすくめて言った。
「アンドレアの親戚と言えば、まぁそうかなって感じには誤魔化せてるとは思いますよ。最近のアンドレアは急に背も伸びてスラリとしましたし、顔つきも可愛らしいと言うより綺麗系だ。以前とは雰囲気も違います。それに何より髪を思い切って切ったのが大きい。まさか御令嬢がバッサリ髪を切るなんて誰も想像もしないでしょう。」
僕は緊張を滲ませたシドを奥に座らせると、馬車から顔を出してお母様に言った。
「ねぇ、切った髪でカツラを作ったらお父様の所へ送ってくださいね、お母様。じゃあ行ってきます!マチルダ、マリー元気で!みんなに手紙書くからね!」
そう言うと、心配そうな面々の中、マチルダが走り寄ってきて動き出した馬車を追いかけて来て叫んだ。
「アンドレア!頑張って!お兄様、アンドレアをお願いね!」
僕は浮かれた気持ちで窓から身体を乗り出して手を振った。ああ、ついにこの五年間の苦労が報われる。やったよ、僕!機嫌の良い僕を横目で見たシドが大きなため息をついて言った。
「さっき言ったのは本当だよ、アル。お前はぱっと見令嬢には全然見えなくなった。醸し出す雰囲気ってのは大事なんだなってつくづく思うよ。でもな、反対にお前が人目を引くのは間違いないと思うよ。隣国の伯爵令息って事もあるし、何と言っても綺麗だからまぁ目立たないって事はないからね。出来るだけ俺と一緒に行動してくれよ?」
僕は、心配性のシドはやっぱり妹を持つ兄気質なのだと面白く思って言った。
「分かったって。せいぜい大人しくしてるよ。」
そんな僕をため息をついて眺めたシドに肩をすくめて、僕は鼻歌混じりに王都へ向かう馬車の揺れまで楽しんでいた。
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