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生活の変化
勝者への口づけ
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少し強張った真剣な眼差しで僕を見つめる、ラファエルの勝者の望みが僕からの口づけ?僕は思わずさっきまでの楽しい気持ちは何処へやら、顰めっ面になってしまった。
兄弟や両親、仲良しの令息らから頬に口づけぐらいは受けるけれど、流石に唇にはない。しかしオリバー兄様のニヤついた顔を見るに、ここで嫌だと言ったら、きっと騎士見習いの誓いが云々とか言い始めて、それこそ一生言われそうな勢いだろう。
僕は覚悟を決めて、じっとこちらを見つめて口づけ待ちのラファエルへと近づいた。その頃には周囲もこれから何が起きるのか予想がついたのか、ザワザワと騒ぎ出した。
まぁ、僕たち二人は許嫁同士だから、口づけしてはいけない関係ではないけれど、昨日やそこらに顔を合わせた様な男に、自分から唇を押し付けるのは抵抗があった。
僕が戸惑っていると、ラファエルが一歩近づいて僕の肩をそっと掴むと、顔を寄せて唇を押し当てた。不意打ちの様なその口づけは驚くほど柔らかな感触で、僕は驚きで身動き出来なかった。
ラファエルの薄い色の長い眉毛がゆっくり動くのを見つめながら、僕はラファエルの唇がもう僕から離れたのを知った。直ぐそばでオリバー兄様が何か言ってたけど、僕はラファエルの唇が微笑むのを眺めていた。
「…ア、アンドレア?」
オリバー兄様に呼びかけられて、僕はハッとしてラファエルから顔を背けると、うるさく響く胸の鼓動に手を押し付けた。
「アンドレア、お前の許嫁は、常々言っていた自分より強い相手の条件に叶った様だな?ラファエル、無事にアンドレアの関門突破だ。おめでとう。」
そう楽しげに笑うオリバー兄様の言葉を聞きながら、僕はもしかして兄様なりの妹の許嫁に対する試験の様なものだったのかと思った。でも、あの何を考えているのか分からない笑みを見ていると、単純に面白がっていただけかもしれない。
とりあえずオリバー兄様は置いといて、僕は潔く負けを認めてラファエルに手を差し出した。
「ラファエル様、僕…私の負けです。機会があったら、また手合わせしてして頂けますか。」
するとラファエルは僕をじっと見つめて、にっこり微笑んで言った。
「ええ。私はアンドレアの恋のしもべですから。貴女が望めばいくらでもお相手を致しますよ。」
僕の手を、ラファエルが離そうとしないのを失敗したと思いながら、僕は結局そのままずるずると彼に引きずられる様にエスコートされて城まで戻る羽目になったのだった。
そんな僕たちを見た大人たちが、微笑ましいとか何とか言って盛り上がっていたけれど、そんな良い話じゃない。僕はラファエルに拘束されていたみたいなものなんだから。
ほんと、怖いこの人…。
兄弟や両親、仲良しの令息らから頬に口づけぐらいは受けるけれど、流石に唇にはない。しかしオリバー兄様のニヤついた顔を見るに、ここで嫌だと言ったら、きっと騎士見習いの誓いが云々とか言い始めて、それこそ一生言われそうな勢いだろう。
僕は覚悟を決めて、じっとこちらを見つめて口づけ待ちのラファエルへと近づいた。その頃には周囲もこれから何が起きるのか予想がついたのか、ザワザワと騒ぎ出した。
まぁ、僕たち二人は許嫁同士だから、口づけしてはいけない関係ではないけれど、昨日やそこらに顔を合わせた様な男に、自分から唇を押し付けるのは抵抗があった。
僕が戸惑っていると、ラファエルが一歩近づいて僕の肩をそっと掴むと、顔を寄せて唇を押し当てた。不意打ちの様なその口づけは驚くほど柔らかな感触で、僕は驚きで身動き出来なかった。
ラファエルの薄い色の長い眉毛がゆっくり動くのを見つめながら、僕はラファエルの唇がもう僕から離れたのを知った。直ぐそばでオリバー兄様が何か言ってたけど、僕はラファエルの唇が微笑むのを眺めていた。
「…ア、アンドレア?」
オリバー兄様に呼びかけられて、僕はハッとしてラファエルから顔を背けると、うるさく響く胸の鼓動に手を押し付けた。
「アンドレア、お前の許嫁は、常々言っていた自分より強い相手の条件に叶った様だな?ラファエル、無事にアンドレアの関門突破だ。おめでとう。」
そう楽しげに笑うオリバー兄様の言葉を聞きながら、僕はもしかして兄様なりの妹の許嫁に対する試験の様なものだったのかと思った。でも、あの何を考えているのか分からない笑みを見ていると、単純に面白がっていただけかもしれない。
とりあえずオリバー兄様は置いといて、僕は潔く負けを認めてラファエルに手を差し出した。
「ラファエル様、僕…私の負けです。機会があったら、また手合わせしてして頂けますか。」
するとラファエルは僕をじっと見つめて、にっこり微笑んで言った。
「ええ。私はアンドレアの恋のしもべですから。貴女が望めばいくらでもお相手を致しますよ。」
僕の手を、ラファエルが離そうとしないのを失敗したと思いながら、僕は結局そのままずるずると彼に引きずられる様にエスコートされて城まで戻る羽目になったのだった。
そんな僕たちを見た大人たちが、微笑ましいとか何とか言って盛り上がっていたけれど、そんな良い話じゃない。僕はラファエルに拘束されていたみたいなものなんだから。
ほんと、怖いこの人…。
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